7de525d86a49399c8ad2febcb77c9f26_s ある占い師がいた。彼女は多くの人々の悩みを聞き、運勢を告げた。

「占い師」たちが占う内容は売れっ子であれ、閑古鳥が鳴いている人であれ、ほとんど似通っている。

仕事、恋愛、家庭、健康、お金のどれかだ。
そして、彼女に持ち込まれる中で最も多い悩みは「お金」だった。
「私はお金持ちになれますか?」
そういう悩みが日々持ち込まれた。
実は、巷で「彼女に相談すると、お金持ちになれる」という噂があったためだ。
実際、彼女に占ってもらった人々からはお金持ちが数多く出現していた。
「ほんとうに効果があるらしい」
との噂を聞きつけ、彼女に占いを依頼するものは後を絶たなかった。
「そんなの眉唾だろ」と、同僚は言った。
「占い師に占ってもらったくらいで、金持ちになれると思うなんて、どうかしてる」
彼は苦々しそうに言った。
「占いを信じるとか、そういうオカルトに俺は興味ないんだ。」
しかし、彼の後輩の女性は、そんな彼にこう言った。
「まあまあ、騙されたと思って。話の種にでも行ってみたらどうですか?ちょうど先輩の家、通り道でしょう?私は結構信じてますよ。あの人の占い。」
「本当?でも君、占いなんて信じそうにないよね」
「私もそう思ってました。けど、あの人はちょっと違うんです。」
「ふーん。じゃあ、冷やかしに一度行ってみるかなあ」
半年後、その同僚は人が変わったように働いていた。今までは不平不満を回りに漏らしながら働いていたのが、この半年間、彼から愚痴を聞いたことはない。かなり一生懸命仕事に打ち込んでいるようだ。
「何かあったのか?」と聞くと、「いや、特に…なんでそんなこと聞くんだ?」という。私もそれ以上は深く突っ込めなかった。
私は密かに驚いていた。
「きっと、占い師のところで何かあったのだ。」
そう思うしかなかった。
その日の夜、後輩の女性に連絡先を聞き、私はその占い師に予約の電話を入れた。
「どなたのご紹介ですか?」と聞かれ、その女性の名前を告げると、占い師は「予定を確認する」と言い、暫く電話が途切れた。
ようやく占い師が戻ってきたその返事は、1ヶ月待ちということであったが、「今夜の19時の枠だけ、ちょうど一件、キャンセルが出たのでその時間帯ならば」ということで、突然ではあるが、今日の夜に訪問することになった。
その場所は何の変哲もない、数多くある占い師のブースの一つだった。
「売れっ子」ということで、なにか豪華な装いを予想していたのだが、完全に裏切られた印象だ。
対面に座っている女性の占い師は、どこにでもいるような年配の女性で、「これは、街で再会してもわからないだろうな」という、平凡な風貌の人物であった。
「なんのご相談ですか?」と彼女は言った。
私は、少々バツの悪い思いをしながら、「実は…お金持ちになりたくて…。金運を占って欲しいんですが」と彼女に告げた。
私は彼女の表情からは何も読み取れなかった。ただ無表情な女性。私は「本当に有名な占い師なのだろうか」と、疑ってさえいた。
「わかりました」と、彼女は低い声で言った。まるでテープレコーダーが再生しているかのようによどみなく、機械的な声だ。
彼女は何やらカードを取り出し、目の間に散らかした。そして、その中の何枚かを取り上げ、私の目の前で横一列に並べた。彼女はそれを繰り返す。
「まるで七並べだな」と思い、私は目の前の占い師の行動を半信半疑で見つめた。
「お話をしても、宜しいですか?」と突然彼女に話しかけられ、私は夢から醒めたように我に返った。
「は、はい。」
「結論から申します。金運は上々です。十分にお金持ちになる可能性があります」
「本当ですか?」私はまだ半信半疑であったが、正直な所を言えば、有名な占い師にそう言ってもらえるのは、悪い気分ではなかった。
「ちなみに」と、その占い師は言う。
「ちなみに?」
「あなたは、占いなど、信じてはいないでしょう?」
「そ、そうですね、あまり…」
「そうですか。信じる、信じないは自由ですので…」
「はあ。」
「でも、あなたは最近、昇進したのでは?」
「?」
「そして、ここ1週間以内で、部下の一人と揉めたではないですか?」
「なぜそれを…」
「それを気に病んでいて、「私は出世できないのではないか」、そう思ってましたね?」
…何だこの占い師は、心を見透かされているようだ。なぜ知っている。私は動揺した。この占い師、まるでシャーロック・ホームズだ。
占い師は、姿勢を直して、語り始めた。
「では、3つだけ、守っていただきたいことあります。それが守れれば、間違いなくあなたはお金持ちになれるでしょう。」
「ほう、どんなことです?」
「1つ目は、「お金で買えない何か」を大切にせよ、と出ています。これが具体的に何か、ということは「そのうち自然に分かる」とも出ています。」
「買えない何か…?なんでしょう?」
「それは、私にもわかりません。自然にわかるので心配する必要はないと思います。」
「二つ目は、あなたの回りにいるごく近しいある人、この人を大切にしなさい、と出ています。これが誰か、ということも「そのうち自然に分かる」そうです」
「…誰だろう?」
「3つ目は、旧友から良い知らせがもたらされるので、会いに行ったほうがほうが良いでしょう。以上です。」
私は、この占い師が怖くなり、早く家に帰りたかった。
しかし、3つの約束は、「実行してみよう」と思ったのである。
種明かしはカンタンだった。
あの占い師は、「紹介者」に対していつも、「紹介した人のプロフィール」をこっそり聞いていたのだ。
どうりで相手のことを言い当てられるわけだ。
結局「紹介者」も、あの占い師に賛同した人だけが厳選されていたのだ。
「インチキ」と言う方もいるかもしれないが、相手にすんなりアドバイスを受け入れてもらうには、この方法が手っ取り早い、というのは頷ける。
今の私は知っている。あの時占い師が言いたかったのは、
「お金で買えないものを大切にせよ」
「身の周りの人を大切にせよ」
「人に会いに行け」
ということだったのだと。
結局、私は金持ちにはなれなかった。せいぜい「生活には困っていない」くらいだ。
しかし、私はあの時の占い師に感謝している。
あの時占いをしたことで、私の人生は大きく好転したのは間違いないのだから。
さて、今日は誰を紹介しようか。

 

 

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(2024/4/21更新)

 

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