人はどんな時に転職を考えるのだろうか。

 

転職はある日突然引き起こされるものではない

これまで何人ものキャリアカンセリングをしてきたが、感情的に許せない出来事があって、ある日突発的に「転職します!」という人は少ない

多くの人は、日常のふとした瞬間から

「ん?なんだか毎日同じことの繰り返しだな」

「これを続けてて将来どうなるんだろう?」

と漠然と考え始めたという。

 

その漠然とした思いが一度芽生えると、毎日転職を意識するようになる。今の仕事や会社への疑問がとうとう大きくなり、転職への気持ちが高まった時、転職を決意させるような出来事が起こった、と話してくれる。

 

「今日の上司の態度はいよいよ許せない」

「納得いかない人事異動があった」

「友人から面白そうな会社に誘われた」

 

退職を報告される上司の立場に立てば、あまりに突然の申し出に、上のような引き金の出来事があったから転職を決意したと考えるだろう。

しかし実際は、そもそも転職をしたいとずっと前から思っていて、転職を決意する理由づけの出来事を意識的、あるいは無意識のうちに探していたのである。

なぜ私たちは転職を意識するようになるのか。その本質的なきっかけは「目の前の仕事がつまらない」からだ。

 

 

みんなが転職する理由

厚生労働省の『平成25年若年者雇用実態調査の概況(※1)』(調査対象は15歳〜34歳の全国の若年労働者)によると、初めて勤務した会社を辞めた主な理由トップ3は以下である。

1位 「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」22.2%

2位 「人間関係がよくなかった」19.6%

3位 「仕事が自分に合わない」18.8%

しかしその他の項目に、

「自分の技能・能力が活かせられなかった」7.9%、

「責任のある仕事を任されたかった」が1.7%

とある。この2つの理由はまさに「仕事が自分に合わない」とも重なるもので、3つを合計すると28.4%となり、見事1位となる。

 

また、民間の人材紹介会社の調査(※2)(おそらくBooks&Appsの読者層と重なる調査対象)によると、転職理由ランキングの1位は「他にやりたい仕事がある」だった。

1位 「ほかにやりたい仕事がある」 12.2%

2位 「会社の将来性が不安」 9.4%

3位 「給与に不満がある」 7.5%

4位 「残業が多い/休日が少ない」 6.1%

5位 「専門知識・技術力を習得したい」 4.9%

人間は飽きる生き物

私もこれまで3回転職したが、転職を決めた理由ははっきり言って、仕事がつまらなかったからだ。

最初の3ヶ月は違う業界、違うサービス、違う仲間と刺激も多く楽しい。けれど、「会社」という組織形態の中で「営業職」として転職している限り、仕事の中身は今までやってきたことと何ら大差ない

 

特につまらなかったのは人材紹介会社の営業だった。

仕事の大半は作業だった。こんなことを言うと、転職を考えている人(そして人材紹介会社でちゃんと働いている人)に怒られてしまうかもしれないが、人材紹介の仕事はただのメッセンジャー的側面が大きい。

あなたのスペックを見て、紹介できそうな会社に履歴書を送り、企業側との面接調整を行い、合否を聞き、内定承諾を得る。転職希望者と企業の間を行ったり来たり。両者の間でメールのやり取りが多く、したがってメールを裁く時間が1日の大半を占めることになる。

彼らもまた「売り上げ目標を達成せよ」という、短期思考の会社経営の犠牲者のため、一人ひとりにじっくり向き合ってキャリア相談をしている暇などない。とにかく高く売れそうな人材にフォーカスするか、安くても大量に裁くための効率性を追求するくらいしか工夫できることはない。

 

そこに本質的なクリエイティブさがないため、慣れてしまうと仕事自体の面白さがなくなってしまう。

 

これは何も人材業界に限ったことではない。人間、同じことを繰り返していれば大体2〜3年、早ければ1年くらいで飽きてしまう。大手企業であれば、飽きるタイミングで人事異動をさせられる余裕がある。だから会社に残る人も多い。

だが中小企業は人事ローテンションをさせられるほど多種多様な仕事を用意することができない。だから多くの人が早期スパンで転職するのだろう。

 

なぜ面白い仕事が回ってこないのか

それは甘い考え方だ。仕事は自分で面白くするものだ。」

という理不尽な言葉で、何回説得されたことだろうか。そういう上司ほど、自分で仕事を面白くさせようと提案したところで、何かしらの理由をつけて却下してくる。

私は「会社という組織では、なぜ面白い仕事ができないのか」と、経営者Uさんに質問してみた。

すると彼は

「それは社長が面白い仕事を全部やってしまっているからだよ」

と教えてくれた。

 

なるほど、確かにそうかもしれない。経営者が一番面白い仕事を手放さない。中小企業ではよく聞く話だ。

営業が好きな社長は、一番面白いお客さんの営業担当は外れない。開発が好きな社長は、一番面白いプロジェクトから外れない。自分がやりたくて起業しているのだから、社長が好きな面白い仕事は、基本的に部下に渡さないのだ

そしてそれは負の連鎖となって末端まで回ってくる。社長が手のつけない仕事の中から、部長クラスの人間が面白い仕事を抽出して、残りを課長に渡す。課長はその仕事の中から面白い仕事だけをとって、一般社員に渡す。

そうしてクリエイティブや考える力が求められる仕事は全て上層部が従事し、部下には作業的で面白くない仕事が回ってくる。

 

そんな状況下で「モチベーションは自分自身であげてほしい」とか「もっと自分の頭で考えるクリエイティブな人材になってほしい」という経営者の悩みは、自分に取って調子のいい愚痴にしか聞こえない。

部下にやる気を出してもらい、考えてもらいたいなら、いますぐ社長が面白い仕事を手放し、部下に任せればいいのだ。彼らはきっと水を得た魚のように精力を取り戻し、生き生きと仕事をし出すだろう。

 

まとめ

先ほどの質問に答えてくれた経営者Uさんは、有能な人たちをマネジメントする能力がずば抜けて高い。

彼は言う。

有能な人たちにつまらない仕事を任せては絶対にいけません。すぐに私の元を去るでしょう。

「では例えば細かい入力作業とか、事務的な仕事、いわゆる彼らがつまらないと感じる仕事は誰がするんですか?」

それは社長の私がやるか、外注します。」

「はあ…。でもそれって社長の仕事なんですか?Uさん自身は苦にならないんですか?」

大丈夫です。だって私の会社ですから。自分の会社の事務作業を私がやって、その代わり有能な人たちが面白い仕事をやる。そうすればみんなが楽しく働けて、成果も出ます。これ以上のメリットはありますか?

 

結局、本質的に仕事がつまらなければ、いつか人は転職する。

転職は恋愛の「別れ」と似ている。相手は別れを切り出す時、理由をごちゃごちゃと並べるだろう。だがそれは、あくまで表面的な理由だ。本質的にはあなたの魅力が足らなくなってしまったのだ。要はもう、あなたと居るのがつまらないのだ。

もし会社の離職率が高くて悩んでいる社長がいたら、一度自分自身に問うてみてはどうだろうか。

あなたの会社の仕事は面白いか。面白い仕事を部下にやらせているか。もし答えがNOであるならば、いくら一体感を高めたり、福利厚生を改善しても、あなたはフラれ続けるだろう。

 

 

※1 『平成25年若年者雇用実態調査の概況』

http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/4-21c-jyakunenkoyou-h25_gaikyou.pdf

※2 Intelligence/DODA “みんなが転職する理由は?転職理由ランキング 2015年10月~2016年3月”

https://doda.jp/guide/reason/

 

−筆者−

大島里絵(Rie Oshima):経営コンサルティング会社へ新卒で入社。その後シンガポールに渡星し、現地で採用業務に携わる。日本人の海外就職斡旋や、アジアの若者の日本就職支援に携わったのち独立。現在は「日本と世界の若者をつなげる」ことを目標に、フリーランスとして活動中。

筆者Facebookアカウント http://www.facebook.com/rie.oshima.520

個人ブログ:U to GO