何かとステレオタイプなイメージで語られがちな「サラリーマン」だが、少し前に一緒に働いたシステム会社の方で

「サラリーマンって、仕事すごく面白いよ」

という方がいた。

彼は特に有名企業で働いているわけでも、給料が特に良いわけでもない。だが、仕事への工夫と情熱、という意味では彼はピカイチだった。

 

私も同感だ。サラリーマンがつまらないというのは間違いだと思う。

実際、私もサラリーマンとして10年以上を同じ会社で過ごした体験から、間違いなく言える。サラリーマンほど、きちんと働けば面白いものはない。

要は仕事を面白いものとできるか、つまらないものとするかは、サラリーマンであるかどうかとは本質的に関係ない。

 

いや、そんなことはない、サラリーマンは退屈だから独立しろ、所詮社畜だ、そういった意見も聞く。

もちろん、そう言った意見にももちろん理があるのは認める。

が、まあ聞いて欲しい。組織でなければできないこともあるのだ。サラリーマンとして、組織人として働くことには以下のメリットがある。

 

 

一、得意なことで勝負できる

組織は何のためにあるのか?と問われれば、おそらく正解は「個人の弱みを消して、強みだけを活かすためにある」だろう。

数字が苦手だけど、デザインに卓越した人

デザインは苦手だけど、営業が得意な人

営業はできないけど、プログラミングが上手い人……

 

この3人が別々に働いたとしたら、苦手なことに引っ張られ、平凡な成果しかあげられないかもしれない。

だが、一緒に働いたとしたらどうだろうか。「デザインと、営業と、プログラミング」がそれぞれ人よりうまくできるのだから、単に個人の集まり、というよりも大きな成果をあげることができる。

組織で働くことで、何か一つに卓越するだけで、個人のの限界を超える事を成し遂げられるのだ。

 

 

二、悲しみ半分。喜び二倍

結婚すると「悲しみは半分となり、喜びは二倍になる」という人がいる。この言葉の真偽は私の知るところではない。だが、組織と仕事に関して言えば、これは当たっている。

「喜び」というものは不思議なもので、お金と違い、分かち合うほど大きくなる。みんなで達成する喜びを知らないまま仕事するのは、本当にもったいないことだ。

 

逆に、基本的には仕事というものは失敗の連続だが、そういった嫌なことがあっても、仲間がいればおたがいはげましあって前に進むことができる。

知人のフリーランスが最近サラリーマンに戻ったが、彼は

「一人で働いていると、気分の切り替えが難しいんだよね。僕は組織にいるほうがあっていると思う」

と言っていた。

一人で働けば気楽ではあるが、組織で何事かを達成する高揚感はまた別物だ。

 

 

三、組織でなければ不可能な仕事ができる

携帯電話、自動車、巨大インフラ、薬、食料品……偉大な人類の発明品の数々は、組織があって初めてこの世に生まれることができる。

大企業に勤める方が「自分の仕事の大きさ」を誇らしげに語る様をよく見るが、それは組織で働くことの最も大きなメリットの一つを享受できていることの現れである。

個人でできること、少人数でできることは限られている。大きな仕事をしたければ、組織で働くことだ。

 

 

四、お金をもらいながら、偉大な先人に学べる

人間は一人でも学べる。が、直接教えてもらったほうが遥かに効率よく学べることも多い。

特に、組織の中には大量の知識が貯めこまれており、そう言った知識を使いこなす先人についてまわるだけで多くの知識を獲得できる。実際、私が書く文章も殆どはサラリーマン時代に教えてもらった話がかなりの割合を占める。

 

様々なセミナーに顔を出し「社外」での学びばかりを重視する人もいるが、本当に価値あるノウハウは、組織の中でまだ明文化されていない領域にこそ存在する。

お金を出してセミナーに何度も行くくらいなら、社内で一生懸命働いて、お金をもらいながら自分でノウハウを手にしたほうが遥かに効率が良い。

 

 

五、長期的視点で仕事できる

起業家、個人事業主は、「ビジョンに向かって」仕事をしているのかといえば、殆どの人は日々の糧を得るのに精一杯の力を使う。生きるためにそうせざるをえないのである。

明日食えるか、来月は無事か、そんなことばかりを考えてしまう起業家が、実際にはほとんどだろう。

だが、サラリーマンは違う。

大きな資本は長期的視点で考えることを可能にし、その余裕の中にイノベーションが生まれる。ルネサンス期の偉大な芸術家たちにパトロンがついていたことは偶然ではない。

貧すれば鈍する。余裕がなければ長期的視点に立った新しいことはできないのだ。

 

 

ピーター・ドラッカーは、

「現代の知識労働者は、組織を必要とする。なぜなら、知識はそれ単体では役に立たず、それを誰かが利用してくれることで、はじめて役に立つからだ」と言った。

自分だけではなにごともなしえないのが、知識労働者の宿命だ。高度な組織は、現代社会の偉大な発明品であり、組織人としてのサラリーマンは、現代社会の申し子なのだ。

確かにサラリーマンの一人ひとりはあまり目立たない。でも、組織で働くことにはとても価値がある。

もちろん、マネジメントが稚拙なためにダメになっている組織も多い。が、それ以上に素晴らしい組織も世の中には数多くある。

 

 

つい先日、知り合いが定年を迎えたと連絡があり、その送別会に顔を出してきた。彼は30年以上も同じ組織に身を置き、日本の発展に力を尽くしてきたという。

彼の最後の挨拶はこんな言葉だった。

「私は組織人として、この会社で30年以上働いてきました。私はこの会社に深く感謝をしています。

なぜなら、私の必要とする知識と、活躍する場、そして私の家族が生活するためのすべてを貰えたからです。私はそれに見合う働きができたでしょうか。少なくとも一生懸命やった、ということは言えるかなと思います。」

 

ガンバレ、サラリーマン。

 

 

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