会社で「できる人にはどんどん仕事を任せるべき」との話をよく耳にする。

 

たしかに「できる人」は与えられた仕事を難なくこなしてしまうし、実際に結果も出す。

頼りになるから、「この人には任せてしまって大丈夫だ」ということになる。

 

と、いいことずくめのようだが、良いことばかりではない。

あるweb製作会社では、「できる人に任せること」の負の側面に、今も悩まされている。

 

 

会社は創業15年を過ぎ、それなりに名の知られた会社である。営業、総務経理、そして大所帯の制作部門があり、人数は数十名。

際立った特徴はない会社であるが、まじめに仕事をやることで、お客さんからは好感を持たれている。

だが最近、案件数がどうしても伸びず、制作部隊の稼働が落ちているとのこと。

 

現在のトップはRさんという方で、大変に優秀な方で、会社の案件を一手に回している、ということだった。

 

私はその営業トップのRさんに話を聞いた。

「営業が伸び悩んでいるということですが」

「そうなんです。」

「今後のテコ入れはどうなさるつもりですか?」

「新規顧客開拓を怠っていたのが原因だと考えています。新人達にテレアポや名刺交換会への出席などを積極的にやってもらい、新規顧客へのアプローチを増やしたいと考えています。」

「なるほど……」

 

しっかりしている営業トップだ。やろうとしていることもスジが通っている。

 

「余談ですが、Rさんはどういった仕事をなさっているのですか?」

「私ですか?私は既存顧客で売上を作らなければならないので、彼らを回っています。気難しいお客さんが多いので、気を遣いますよ……。」

「そうなんですね」

「既存の売上が落ちては困るので、お前が既存客を頑張って守ってくれ、と言われています。」

 

……なるほど、と思った。

つまり、ベテランで、能力の高いRさんは、既存事業の守りにあて、新人に、新規開拓をやらせる。そういう構図だ。

実は、前にも他の会社でこのような状況を見たことがある。私はカマをかけてみた。

 

「下の人がなかなか育たないでしょう?」

「はい。実は……」

「もちろん、新規開拓も進まない。」

「そうです。」

「仮にRさんが新規顧客開拓をやると、どうなりますか?」

「既存顧客からクレームをもらうリスクがあるでしょうね。私がなんとかつなぎとめているので。」

「それから?」

「新規顧客開拓が成功するかどうか、なんともいえませんので、売上が落ちるリスクがあります。」

「なるほど。」

 

私は思い切って聞いてみた。

「Rさん、本当はどうしたいですか?」

「……本当は、既存顧客の維持を新人にやらせて、私が新規開拓をしたほうがいいと思います。新規開拓は難しいので。」

「なぜそうしないのですか?」

「私しか、既存顧客の維持ができなくなってしまっているからです。経営陣が許してくれません。売上が落ちるリスクは取れないそうです。」

「下の人にRさんの仕事を移せないのですか?」

「今までそうしてこなかったので……時間がかかるでしょうね。」

「新人に新規開拓をやらせるのも成果が出ず、Rさんが新規顧客をやるのも時間がかかる……悩ましいですね。」

「私一人だけで既存顧客をやっていたツケが回ってきたんですかね……。」

 

——————-

 

「できる人に任せる」こと自体は悪いことではない。しかし、負の側面として「できる人に任せっきり」になることが多々ある。

しかも「できる人」はそれを難なくこなしてしまうので、皆はそれについて深く考えない。

 

すると業務は属人的になり、新しく入ってきた人はその仕事を覚えられない。

結局、会社全体が伸び悩むのだ。

 

そんな状況を打破するには、ある程度リスクを取って、

できる人から、普通の人に仕事を移していかなければならない。

当然、その過程で「できる人」が担当から外れるので、ミスやクレームが増える可能性はある。だが、それを乗り越えなければ、新しいステージでの会社の成長は存在しない。

 

「できる人に任せる」は必ずしも良いことではない。それは属人化を招く。

マネジメントの要諦の1つは、「できる人ばかりに任せず、組織としてどうしたら普通の人がきちんと仕事を回せるか」を考えるところにある。

 

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(2024/3/26更新)

 

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