いきなりですが皆さん、システムの保守・運用っていうと、どんなことする仕事なのかってご存知ですか?
勿論、一言で保守とか運用って言っても、対象となるシステムにもよりますし、担当者の守備範囲にも、契約の内容にもよるんで、あまり一概に言える話でもないんです。
ないんですが、それを承知でざくっと言ってしまうと、例えば一般的なwebシステムでいえば、
・システムの負荷監視、死活監視、パフォーマンス監視
・トラブル時の調査・問題切り分け・障害対応
・インフラの故障対応
・ネットワーク監視
・バックアップ対応
・定期メンテナンス
・ジョブ管理
・マニュアル・ドキュメント管理
・障害対応訓練
・バージョン管理・変更管理
・ログ管理
・セキュリティパッチ対応
・瑕疵対応、バグ対応
・修正開発時の事前調査
この辺については、まあ代表的な保守・運用の仕事と言ってもそんなに問題ないでしょう。正確にいうと、保守と運用でも切り分けはあるんですが、まあそこは本筋ではないので飛ばします。
こうしてみると、ぱっと出てくる範囲でも結構色んな仕事がありますし、案外専門性も要求されるんだってことがわかりますよね?
まあマニュアルとかドキュメントの整備状況にもよるんですが、ド新人が明日から出来るかっていうとそういう訳でもない、それなりにスキルも経験も必要な仕事ということはわかっていただけると思います。
ただ、それでも、上のような内容をきちんと説明したうえでも、まだ
「保守運用って必要なの?」
「この保守費って高くない?」
「あいつら普段何もしてないんだから無駄金じゃない?」
「保守費削れない?」
って言う人、いるんですよ。
しかも結構、会社の偉い人でもそういう人います。たくさんいます。全っ然珍しくありません。何度も見てきました。
いや、確かに、運用コストの定期的な見直しって必要ですよ?
作業が多岐にわたるとはいっても、保守運用っていうのは基本的には守りの仕事です。利益を生むような仕事ではありませんし、トラブル時以外に目立つことはあまりありません。
もうビジネス的に不要になったシステムに、いつまでも保守費をかけてはいられない、ということであればそれは真っ当な判断でしょう。
ただ、守りのコストを下げるということは、イコール守備力を下げるということでもあります。
その辺のRPGですら、「守備力を捨てて攻撃に全振りする」という行動をとるときには、きちんとリスクを判断しなくてはいけません。
FF2で盾を捨てることが死に直結するように、守備力(FF2の場合は回避率ですが)は決して軽視してよいステータスではなく、時には最重要ステータスになることすらあります。
つまり、「コストを下げるからにはリスクも増える」
「コストを削ったら、その分なにかしらのベネフィットも削れる」ということは承知しておいてくださいね、その上で判断してくださいね、という話になるわけです。当たり前のことですよね?
ただ、そんな当たり前のことですら「当たり前」として了解されないことが、案外ビジネスの世界で、しかも凄く偉い人たちの間で起きることがあるんですよ。
私は以前、まだ運用されているシステムの保守費が、「特に何もしていないのにやたら高い」というだけの理由で、大幅に切り捨てられるのをこの目でみたことがあります。
あります、というか、3,4回目撃しましたし、その内1回は自分で経営と大喧嘩しました。勝てませんでした。未然に防げたケースもあるんですけどね。
で、少なくとも私が知っている限りでは、それら案件はすべて例外なく、「業者の人員・対応範囲の大幅削減」から「トラブル発生時に大混乱、現場阿鼻叫喚、結果的には運用費用以上のコスト積み増し」という結果に落ち着きました。
トラブル時に対処方針が解らなくなって結局スポット対応に余計な費用がかかる、だとか。
バックアップ運用が止まってしまって、データが飛んだ時に丸々何もできなくなって半年前までデータが巻き戻り、だとか。
ドキュメントが更新されなくなって修正案件が発生した時に何がなんだかわからず、結局1から調査費を積むハメに、とか。
いや、バカみたいな話でしょう?
トラブって困るようなシステムなら保守費用削るな、っていうただそれだけのことなんですけどね。
これ、恐らく結構色んな現場で発生している事態だと思いますし、割と一般化出来る話だとも思うんですよ。
つまり、
・専門外の人間には、一見その重要性や、大変さ、多様さ、必要なスキルが理解できない
・一見すると省いたり削ったり、あるいは初心者をあてがっても問題ない仕事のように思える
・目先のコスト減に釣られてそのコストを削る、あるいは本来あるべき報酬を設定しない、評価しない、冷遇する
・結果的に大混乱、ないしコスト以上の大ダメージ
これ、別にシステムの話だけではなく、多分現在日本中、いろーーーーんな場面で起きているんじゃないかと。
例えば、先日、こんな記事を拝読したんです。
退職後、4/12にエプロンを返しに店に行った。本来なら繁忙期で店も教科書会場もごった返しているはずなのに閑散としていて、明らかにやっつけ仕事の棚を見て悲しくなった。
教科書販売は発注漏れがたくさんあったらしい。教授たちも何人か店の様子が変わったことに気付いたよ、と先生からメールが来た。
1年ぶりに来てくれた出版社の営業さんから私のスマホに『店に知ってる人がいないんですけど!』と電話もあった。
人が変わると店も変わる。これからとってもいい店になる!と支店長も言っているのでゼロから頑張るのでしょう。
もう私は新人と同じ給料で他人をフォローしながら働くの疲れました。
(ひとつの本屋で起きたこと。)
これも、まあ色んなエピソードがあるものの、根本的には「書店の店員」という仕事のスキル、重要性が全く理解されず、評価も尊重もされないために起きた問題のように見えるなあ、と。
スキルを持った人、仕事を分かっている人、展開力を持った人が重んじられず辞めてしまう。
あるいは経営側から切り捨てられてしまう。そして、「誰でもできるだろ」精神で他の人があてがわれて、結果的に大きなダメージを残してしまう。
正直なところ、最近すごーーく頻繁にみる、一種の定型パターンのような気がするんですよ。
ちょっと前には、「保育士なんて誰でも出来る仕事」みたいなこといって炎上した人がいましたよね。
図書館の司書さんの話でも、デパートの店員の話でも、似たようなエピソードを目にした記憶があります。
繰り返しになりますが、コストの見直し自体は重要なことです。
コストとベネフィットをきちんと勘案して、リスクを承知したうえでそのコストを削る、ないしそれ以上のコストを振らないということであれば、それは経営の判断としてアリでしょう。
ただ、それは飽くまで「そのコストの重要性、必要なスキル、削ることによるリスク」を慎重に検討した上でなされるべき判断なのです。
少なくとも、「削った時のダメージを把握していない、あるいはダメージを許容できない」という状態で、単に「高いし利益生まないし誰でもできそうだから」などという浅い知見で行われるべき判断ではない。断じてない。
別に経営判断だけの話ではありません。
皆さん、例えば身近な仕事でも、「あんな仕事誰でも出来るだろ」「あんな仕事なくても困らないだろ」と思ったこと、ありませんか?
その時、あなたは本当に、その仕事の価値、内容、削った時のリスク、必要なスキルについて理解できていると言えますか?その仕事は本当に「誰でも出来る」のでしょうか?「なくても困らない」のでしょうか?
「あんな仕事要らないだろ」と思うとき、もしかすると我々は、「保守費用必要ないと判断した経営者」と同じことを考えているかも知れないのです。
そう考えると、自分に理解できない、十分に理解していない仕事やスキルの価値判断については、厳に慎重にしないとなー、と思う次第なのです。
一見理解されがたい仕事のスキルの所有者たちが、正当に評価され、報われますように。
そう願うばかりです。
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【プロフィール】
著者名:しんざき
SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。
レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。
ブログ:不倒城
(Photo:Minnesota DOT)