みなさんお元気ですか? インターネット楽しんでいますか?
ここで「元気です! 楽しんでいます!」と即答できる人は、案外少ないんじゃないかと思う。
現代社会においてネットはもはや水道や電気といったインフラと同じようなものだから、「楽しい」という自覚をもって使っている人は、たぶん多くはない。
だからこそ、あえて、改めて言いたい。
傲慢な情報の消費者にならないために、感謝を忘れないようにしようよ!と。
作品を読んで「ありがとうございました」と書く人々
『pixiv』というサイトをご存知だろうか。小説や漫画、イラストなどをアップできる、有名な創作サイトだ。
あまり大声では言わないが、わたしはゴリゴリのオタクである。こういった創作サイトも大好物だ。
基本的には見る専(作品はアップせず見るだけ)で毎日何作品も見てはニヤニヤしているわけだが、ふと気が向いたので、先日勢いで書いた小説をアップしてみた。本当に、ただの気まぐれで。
そしたらなんと、その小説はとあるジャンルのランキングに入り、たくさんの人に読んでいただけたのである!!
さらにありがたいことに、数名の方からコメントをいただいた。
「楽しかったです。ありがとうございました」
「続きが気になります。ありがとうございました」
「更新頑張ってください。ありがとうございました」
などなど。
これには、ちょっと面食らった。
なぜならわたしは、ネット上でお礼を言われる経験をあまりしたことがなかったから。
わたしの記事はいままで何度も、Yahoo!ニュースのようなコメント欄つきのサイトに掲載された。当然、良くも悪くもいろいろ書かれている。なかには「さすがに理不尽だろ!」と思うようなものもある。
それはどのサイトでも似たようなもので、小説投稿サイト『小説家になろう』のコメント欄なんて、なかなかひどいものだ。
「もう読まない」「更新頻度上げろ」「文章力低すぎ」「このキャラがムカつく」なんてコメントもかなり多い。
世の中の消費者様の目は厳しいなぁ……。
なんて思っていたところに突然降って湧いた、「ありがとうございます」という言葉。ほっこりした。
心がじんわりして、その日1日……実際のところ1週間くらい、ずっといい気分だった。「こちらこそ読んでくださってありがとうございます!」という気持ちだ。
そしてふと気づいたのだ。わたしが、インターネット上で感謝の気持ちを忘れていることに。
気づけばみんなが批評家になるインターネット
インターネットユーザーというのは、基本的にタダでコンテンツを楽しんでいるくせに、当然の顔をして偉そうにああだこうだと批評するイキモノである。わたしも含めて。
それはネットの匿名性や相手の顔が直接見えないといった理由もあるだろうが、手っ取り早く評価できるサイトが増えているのも一因じゃないかと思う。
多くのSNSには「いいね」機能があり、amazonをはじめとしたショッピング系サイトにはレビュー欄がある。
わかりやすいのはyoutubeで、クリックひとつで動画に「高評価」か「低評価」をつけられる。
ユーザーがこういったシステムに慣れたからか、もともとインターネットにこういう傾向にあったのかはわからない。
しかし現状、ユーザーはコンテンツやサービスを「いい」か「悪い」かで判断するのが当たり前になってしまった。
だから「これはつまらない」だとか「もっといいものをよこせ」とか、現実世界では言わないようなキツイことも平気で書けてしまう。
「自分はあくまで評価する側である」というおごりがあるからだろう。ユーザー様は神様であり、みんな批評家気取りなのだ。
これはネットの特徴のひとつだから、丸ごと否定するつもりはない。わたしだってネットでさんざん好き勝手書いているし、みなさんもわたしの記事についてアレコレ書いていただいてかまわない(好意的なコメントであればもちろんうれしいけれど、否定的な意見を書く権利はだれにでもある)。
でも改めて考えると、「自分は評価する側である」という考えって、結構傲慢なんじゃないだろうか。
感謝を忘れれば傲慢な消費者に成り下がる
たとえば八百屋さんでりんごを買ったとしよう。品物を受け取るとき、わたしは「ありがとうございます」と言う。
レストランで食事をすれば、お店を出るときに「ごちそうさまでした」と頭を下げる。当然の礼儀だ。
「俺はサンふじよりジョナゴールド派だからそれも用意しとけよ」なんて言わないし、「こんな料理をよく提供できるな。もう来ねぇ」なんてよっぽどのことがない限り言わない。言ったこともない。
おいしいかおいしくないか、という感想はあっても「評価してやろう」とは思わないし、自分の好みの味じゃない=まずい=文句をつけようとも思わない。「この味は自分の好みではないなぁ」と思うくらいなものである。
しかしそれをネットに書くとしたらどうだろう。食べログのようなレビューサイトに一言書くとしたら。
そうなればわたしたちは、それが「いい」のか「悪い」のかで判断しようとする。
好みの味でなければ「悪い」になるし、食べたいものがメニューにまったくなければ、これまた「悪い」評価になる。
そして「接客は星いくつ? インテリアは? 清潔感は?」とどんどん評価者の目線になり、しまいには「ああしろこうしろ」と要求したくなる。
「ごちそうさまでした」と頭を下げる礼儀正しい消費者だったはずなのに、ネット世界にアクセスした瞬間、偉そうな批評家になってしまうのだ。
もちろん、いろんな意見をぶつけ合うこと自体は健全だし、自分の意見を気軽に書けるのがネットの良さであることは重々承知している。批判や評価することが悪いわけではない。
しかし、「自分は選ぶ側の人間である」と強く思いこむことは、感謝を忘れた傲慢な消費者に成り下がるということであり、自分が偉い人間だと錯覚し、あれこれと要求を突きつけるのが当然の権利だと思い込んでしまうことでもある。
ネットユーザーの大半はコンテンツやサービスを享受している立場なのに、「自分は評価する側だ」と傲慢にしてしまうのがインターネットの力。いやはや、恐ろしい。
あえて思い出すべき「感謝」
ネットを使うのであれば、「あえて」感謝をするように意識しないと、偉そうな批評家として評価する傲慢な消費者でしかなくなってしまう。自分が恩恵に預かっている立場だなんて思わず、偉そうにどんどん要求していくだけのクレーマーになってしまう。
そう思うと、ちょっとぞっとした。
「ありがとう」と「ごめんなさい」は人間として忘れちゃいけない感情のはずなのに、ネットに入り浸っていると、かんたんにその感謝の気持ちを忘れてしまうのだから。
繰り返すが、批評が悪いわけではない。わたしはこれからも、ああだこうだとネットで発信をするだろう。
ただ、それを当然の権利のように思い、自分が判断「してやっている」側だと思いこまないようにしたい、という話だ。
たまには「自分は恩恵に預かっている立場である」ということをあえて思い出して、「いいモノをありがとう、楽しかったよ、これからも応援しています」なんて、打つのに10秒とかからない一言を添えるように気をつけていきたい。
それを意識することで、傲慢な批評家にならず、謙虚で礼儀正しい消費者でいられるのだろうから。
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【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
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(Photo:Pedro Alves)