「ライターになりたいんです」という相談を受けた。
そう言うときには、「じゃ、書けばいいじゃないですか。読んでみたいです。フィードバックはします。」と答えることにしている。
でも、その人は何も書かなかった。
人間、そんなもんである。そして、別にそれでもいいと思う。
コンサルティングの現場で、「ウチの会社は、もっと新規事業をやるべきだと思うんです」という人がいた。
私は、「じゃ、あなたが手を挙げて、上長に新規事業やらせてくださいと言えばいいんじゃないですか。」と答えた。
その人は、「あ、そう、そうですよね。」と言った。
でも、その人は手を挙げなかった。
人間、そんなものである。別に、それでもいいと思う。
「給料が上がらない。なんともならない。」と嘆く人がいた。
私は「給料を上げてください、と上司に交渉すればいいじゃないですか。」と申し上げた。
その人は「言ったって無駄ですよ。」と言う。
私は、「では、副業でもなさったらどうですか。今はクラウドソーシングもありますよ。」と申し上げた。
その人は「いやー、時間がなくて。」という。
私は、「では、給料の高いところへ転職なさっては?」と申し上げた。
その人は「そうですね」と言った。
でも、その人は結局、何もしなかった。人間、そんなものである。
別に、それでもいいと思う。
「本を読む時間がないんです」と言われた。
私は「携帯電話を見る時間を減らせばいいんですよ」と申し上げた。
その人は「そうですね。」と言い、「なにか面白い本はありますか?」と聞いてきた。
私はいくつか、私が面白いと思う本を教えた。
後日、「どうですか?」と聞いたら、「いやー、相変わらず暇がないんですよ」と、彼は言った。
まあ、そんなものだろう。別に、それでもいいと思う。
彼らは真に現状維持を望んでいるのだろうか。
おそらく、そうではないだろう。何かしら変えたいと望んでいるはずだ。
だが、彼らは行動しなかった。
リスクやら、面倒臭さやらが勝ってしまった結果なのかもしれないし、熟考した結果、「何もしない」という結論に至ったのかもしれない。
だが、明白なのは「不満はあるが、行動しない」という悪癖を、彼らが持っているということである。
悪癖、というとキツく聞こえるかもしれない。
だが、ここであえて悪癖、と言い切るのは、「とにかくやってみる」ということに勝る行為はないことが、科学的に証明されているからだ。
なぜなら、人生は「成功するから楽しい」「金を持つから楽しい」「尊敬されるから楽しい」のではない。「行動するから楽しい」のだから。
*
「ウェアラブルセンサー」を使って、人間の行動と幸福を解析している、ビッグデータ研究の第一人者、矢野和夫は、著書の中で驚くべき科学的事実に触れている。
それは「人の幸福度は環境にほとんど影響を受けない」という客観的事実だ。
我々は普通、結婚してよき伴侶を得たり、新しい家を購入したり、たくさんボーナスをもらったりすると、自分の幸せが向上すると思う。リュボミルスキ教授の定量的研究によれば、これらには、案外小さな効果しかない。
逆に、人間関係がこじれたり、仕事で失敗したりすると、我々は不幸になると考えている。ところが、実際にはそうでもないというのだ。人間は、我々が想像するよりはるかに短期間のうちに、よくも悪くも、これらの自分のまわりの環境要因の変化に慣れてしまうのだ。
この環境要因に含まれるものは広い。人間関係(職場、家庭、恋人他)、お金(現金だけでなく家や持ち物などの幅広い資産を含む広義のもの)、健康(病気の有無、障害の有無など)がすべて含まれる。
驚くべきことに、これら環境要因をすべて合わせても、幸せに対する影響は、全体の10%にすぎないのだ。(中略)
私は、この結果を知ったとき、大きな衝撃を受けた。一方で、本当だろうか、と疑った。しかし、これは大量のデータに裏付けられて慎重に統計解析された結果なのである。
私を含め、多くの人は、ここでいう「環境要因」を向上させるために日々努力している。その結果が、後ほど幸せに結びつくと信じているからだ。
しかし、データによれば、これは無駄ではないが、幸福感にはあまり効かない。我々の思い込みの部分が大きいのだ。
人間の行動を統計的に解析すると、地位やお金、健康や人間関係と言った、環境要因は、我々の幸福にほとんど影響を与えないのである。
だから、上の人々のように「不満があっても、ほとんどの人は行動しない。」のである。
だって、慣れてしまっているから。
特に楽しくなくても、人生は続けられるのだ。
では「人生を楽しくしたい」と考えている場合はどうか。
何が人の幸福度に影響を及ぼすのかを知りたくなるだろう。
一つは、遺伝である。これが50%の影響がある。
脳科学者の中野信子は、「日本人は不安感情が高い人が多い」と述べているが、遺伝的に幸福を感じやすい人と、幸福を感じにくい人がいるのは事実のようだ。
ここについては、あまり介入の余地がないかもしれない。
だが、残りの40%については、介入可能だ。
それは何か。
一言で言うと、「人は、自分から積極的に行動を起こすと、幸福度が増す」ということだ。
自ら意図を持って何かを行うことで、人は幸福感を得る。具体的には、人に感謝を表した理、困った人を助けたり、という非常に簡単なことでもよい。
矢野和夫はこれについて「行動を起こした結果、成功したかが重要なのではない。行動を起こすこと自体が、人の幸せなのである。」と述べている。
これには思い当たるフシがある。
例えば、電車の中で思い切って、席を譲ってみると、感謝されることもあるし、感謝されないこともある。
だが、いずれにせよ、気分はとても高揚する。
「自分は主体的に何かを選び取った」という感覚は、非常に大きな幸福をもたらすのだ。
これは、非常に重要な科学的事実だ。
不満があるのであれば、自ら行動を起こすことで、それを幸福に変えることができる。
矢野和夫は「人生に幸福をもたらすテクノロジーが可能だとすれば、それは人が行動を変えることを支援するものになる」と言う。
捉え方によっては、これは人間とテクノロジーの関係にとって、新たなチャンスでもある。
上記の議論から、人生に幸福をもたらすテクノロジーが可能だとすれば、それは人が行動を変えることを支援するものになるのではないか。これは、従来のテクノロジーの役割とは大きく異なる。
従来のテクノロジーは、それまで時間や手間のかかっていた作業をコンピュータや機械で置き換えることでユーザーを便利にし、省力化することを役割としてきた。むしろ、今まで人間が行動してきたことを、行動しなくてもよくすることが、テクノロジーの役割であった。
これに対して、このハピネスのためのテクノロジーの発想は、真逆である。新たな行動を自ら起こすように、テクノロジーが支援するものになる。人が楽になる環境を提供することがハピネスを高める効果は、ハピネスの理論における環境要因の改善にあたり、最大でも全体の10%しか寄与しない。
それに対して、人が積極的に行動を起こすことを可能にすれば、40%の大きな影響を持ちうる領域だ。インパクトがまったく異なる。
先日、私は「人は、記録をつけると、行動が変わる。継続できる。人生が変わる。」という記事を書いた。
この中で、私はApple watchが、記録をつけさせることで人の行動を変える力がある、と書いたが、それはまさに、Apple watchは人を幸福にする力がある、ということでもある。
*
世界的ベストセラー「7つの習慣」では、第一に身につけるべき習慣を「主体性」と論じている。
これは、科学的事実とも合致する、恐るべき慧眼である。
しかし、この話を受けて、「はいはい、主体性、主体性、知ってた」という反応をされる方もいる。
しかしそれは真の意味での主体性ではありえない。
なぜなら、「主体性」というのは、「知る」ものではなく、「行動する」ことでしか得られないものだからだ。
「人に言われてそうする」とか「不安なのでそうする」という、強迫観念に基づくものでもない。
7つの習慣には、主体性を発揮すること=自立を説明する場面に、こんなフレーズがある。
自立は私というパラダイムである。私はそれができる、私の責任だ、私は自分で結果を出す、私は選択できる、ということである。
幸福は、他人が作り出してくれるものではない。
自分が体と手を動かして選び取る、行動そのものの話なのだ。
なお、矢野和夫は、「幸福感」持って仕事をしている人は、そうでない人よりも、より成果を出しやすいことも、科学的に検証されていると述べている。
もちろん成功は保障はされないが、成功の確率は上がるのだ。
私は、どう考えても会社が全くうまくいっていないのに、やたらと楽しそうに会社をやっている経営者を、何名か知っている。
彼らが幸福であることは間違いない。
一見うまくいっていないような人が、楽しそうにしているのは、主体性を発揮できている、人生をコントロールしていると感じているからだ。
むかし、電通の過労死について書いたことがあった。
仕事において「裁量がない」時の精神的負担は、想像するよりも遥かに大きい。
人間はコントロールへの情熱を持ってこの世に生まれ、持ったままこの世から去っていく。
生まれてから去るまでの間にコントロールする能力を失うと、惨めな気分になり、途方に暮れ、絶望し、陰鬱になることがわかっている。死んでしまうことさえある。
いくら待遇が良くても、それにはすぐに慣れてしまう。
むしろ、主体性を発揮できてない状態では、人間は不幸にしかなれないのである。
何かを変えたい?
行動せよ。
幸福になりたい?
行動せよ。
その向こうにしか、求めるものは存在しない。
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