昔、営業チームの改革を行うため、ある中小企業を訪れた時のこと。

 

この会社は近年、営業チームの弱体化が課題となっており、競合企業にシェアを奪われつつあった。

また、離職率も高止まりし、収まる気配がない。

「パワハラがある」との訴えも、社内でチラホラ聞かれる。

 

商材にはまだ一日の長があるとはいえ、このまま放置して良い問題ではない。

経営者は、焦っていた。

 

 

そこで経営者は、外部のコンサルタントに調査を依頼した。

 

営業チームの弱体化の原因は何か。

現状を打開するにはどうしたらよいかを明らかにしてほしい、と経営者は言った。

 

ヒアリング、調査を重ね、コンサルタントたちはいくつかの客観的な事実から、営業チームの弱体化には、いくつかの要因が考えられることを報告した。

 

例えば、以下のような事象である。

・営業の力量が落ちてきている

・営業ツールの質が低い

・顧客の担当割り当てが、効率的ではない

・事務仕事が多すぎる

……

 

経営者は、これら全てに対し、「異論はない。」と言った。

 

だが、経営者はコンサルタントへ言った。

「ですが正直、いま言っていただいたようなことは、前からわかっていました。」

コンサルタントは頷いた。

「至極、当たり前かもしれません。」

 

経営者は言った。

「しかし、私が気にしているのは、「なぜ、そういったわかりきったことが、実行されないのか」です。外部の力を借りたいのは、そこです。一体、どうしたら解決できるでしょう。」

 

評判の悪いマネジャー

「そうですね……その解決方法なのですが……。具体的な解決策の前に、一つお聞きして良いですか。」

「なんでしょう。」

「仮定ですが、Oさんがもし、いなくなったら、会社はどうなりますか?」

Oさんとは、営業チームのマネジャーだ。

 

質問に、経営者は即答した。

「困るでしょうね。」

「何故ですか」

「彼のチームが、稼ぎ頭だからです。Oさんが営業部のかなりの割合の数字を作っている。」

 

コンサルタントは、一息ついて、ためらいながら言った。

「そうですよね。でも、Oさんの評判が、かなり悪いこともご存知ですか。」

経営者は、黙ってしまった。

 

コンサルタントは続ける。

「営業部で、Oさんの話はよく出ました。新人教育をしていた時「そんなもん、やっても意味ないよ」と、自分の部下を研修から連れ出して、営業同行させたらしいですね。」

「「研修より、実践でいい題材がある」と訴えられたので、私が許しました。」

「成果を出しているチームのやり方を、営業ツールに落とし込む、というプロジェクトも、Oさんのところが何もしないので、頓挫していると聞きました。」

「ああ……そうでしたね。」

 

コンサルタントは、経営者に気を使いながらも、ハッキリと言った。

「社長、様々な施策が実行されない理由は、すでにご存知なのでは。」

 

経営者はじっと考え込んでいたが、とうとう、口を開いた。

「私が悪い、と仰るわけですか。」

「誰が悪いか、はあまり問題ではないと思いますが、やらなければならないことは、非常にはっきりしていると思います。」

「……。」

「結局、売上減少のリスクを社長が負えるかどうかだけかと。」

「……そうですね……。」

 

「成果出してりゃいいんだろ」というマネジャーが、組織を壊す

社長は後日、コンサルタントを再度、呼び出した。

「私は何をすればいいだろうか。」

 

コンサルタントは言った。

「社長、私はあらゆる会社で「成果出してりゃいいんだろ」というマネジャーが、組織を壊すのを見てきました。」

「他でも同じようなことがある?」

「ベンチャー・スタートアップ、中小企業では必ず一人はいるタイプです。彼らは成果を出すことにかけては一流ですが、組織を作ることに関しては三流以下です。」

「……」

「パワハラ、セクハラなどの温床になるケースも多い。そういった話もちらほら、聞こえました。」

社長は、じっと聞いている。

 

「人には、それぞれ得意分野があります。組織を強化したいなら、Oさんにはマネジャーを降りてもらうべきです。給料はそのままでもいいです。でも、組織を重視しない人に、権限を与えてはいけません。」

「……だが、Oさんは、創業以来、ずっと一緒にやってきた。なんとかならないかね。」

「もちろん、チャンスを与えるかどうかは、社長次第です。Oさんに変わるチャンスを与えるのも良いでしょう。ですが……」

「何か?」

「得意ではないことをやらせても、たいてい成果はあがりません。」

「……。」

「二兎を追った結果、Oさんの売上が大きく落ちてしまう可能性もあります。そうなってしまったら、元も子もありません。」

 

あらゆるマネジャーに共通の仕事は5つ

ピーター・ドラッカーは、「マネジメントは技能」であり、学ぶことができるものであると主張した。

彼は、あらゆるマネジャーに共通の仕事として、

  1. 目標を設定する
  2. 組織する
  3. 動機づけとコミュニケーションを図る
  4. 評価測定する
  5. 人材を開発する

の5つを挙げる。

 

ただ、実際には上で述べたOさんのように、①以外には何もしていないマネジャーが存在し、それによって、組織が十分に機能しなくなってしまうことは珍しくない。

 

成果出してりゃいいんだろ、というマネジャーを、許してはいけない。

彼は短期的には数字を作ることができるが、長期的には、組織を崩壊に導くリスクそのものである。

 

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