ちょっと前のこと。

ある企業で、私は営業の会議に出席していた。

その企業では、顧客との関係は営業が責任を持っていたため、「どれだけ営業が顧客の責任者に会えているか」が成果指標の一つになっていた。

 

この指標は、如実に営業の力量を反映する。

そのため、彼らは会議の席上、この指標に基づいて、営業のメンバーに改善指導を行っていた。

 

同じミスを繰り返す営業メンバー

目の前で、数名の営業メンバーが成果指標の達成率について発表していく。

 

と、あるメンバーの一人が「今月は、大幅に成果指標を下回りました」と発表した。

理由は、3週間前に大型の取引があったため、その手続に時間を取られて、十分な外部訪問の時間が取れなかった、というものだった。

 

そのメンバーの発表が終わると、間髪入れず、一人のマネジャーが、彼にツッコミを入れた。

「確か、先月も同じように時間が取れなかった、とおっしゃっていましたね。」

「えー、はい。そうだったと思います。」

「先月も同じことを言ってたじゃない、なんで改善してないの。」

「……申し訳ございません……。」

「時間管理は営業の基本ですよ。たしか、きちんとタスクを消化できているかどうか、確認しながら進める、と前に言ってましたよね。」

「はい。」

「ちゃんとやったんですか。」

「一応、やりました。」

 

皆で記録を見ると、なんともおそまつである。

書き方が甘く、タスクがきちんと分解されていないので、これでは時間管理は使えそうにない。

 

この粗末な記録を見て、マネジャーがまた怒ってしまった。

「ちゃんと記録をつけないと駄目だと、あなたが言ったんじゃないですか。」

「も、申し訳ございません。書いてみてはいるのですが、忙しいとどうしても後手にまわってしまって……」

 

マネジャーはそれを聞いて、怒ってしまった。

「あのね、言い訳しないでください!」

「……」

「同じミスを繰り返していては、なんの進歩もないですよ。どうするんですか、これから。」

「……」

 

そのメンバーは、うなだれている。

 

「まあまあ、彼の話を聞いてみましょう。」

すると、課長が、

「まあまあ、もう少し、彼の話を聞いてみてはどうですか。」

といった。

 

そして、メンバーの方に向いて、言った。

「時間が取れなかった、というお話しはよくわかりました。ただ、この状態がつづくと、お互いに良くないと思います。もう少し、話を聞かせていただいて良いですか?」

「はい。」

 

「この記録ですが、結構ざっくりと書いてありますよね。「提案」とか「準備」とか。」

「はい。そうです。」

「例えば、準備とは一体何を指しているのですか?」

「えーと、持っていくものの準備をすることです。」

「具体的には?」

 

そのメンバーは、標準化されているいつくかの営業資料の名前を挙げた。

だが、それは間違っていた。準備の標準手順から、かなりの項目が抜けている。

 

先程の怒ったマネジャーが、今にも「お前はなんにもわかってないのか!」と怒鳴りだしそうだ。

 

しかし、課長は、さらに穏やかに質問した。

「他に、やることはありますか?」

「特になかったように思います。」

「いくつかの項目が抜けていますが、ご存知ですか。」

「えーと、確認しようと思ったのですが、ファイルがどこに入っているかわからなくて……。」

また言い訳が始まった。

 

それを黙って聞くと、課長は丁寧に説明を始めた。

いくつかの資料を用意することと、営業前に義務付けられている顧客プロフィールの調査をすること、そして訪問計画を建てなければならないことなど。

それは、前にも説明がされたことばかりだったが、彼はすべてを繰り返し、説明した。

 

そして、課長は最後に

「では、1週間後に、もう一度ちゃんとそれができているか確認します。」

といい、話は終わった。

 

対照的な二人のマネジャー

この場には二人の対照的なマネジャーがいた。

「言い訳をしないでください」と怒ったマネジャーと、「言い訳を黙って聞いた」課長。

 

私は、二人の管理職の対照的な一連のやり取りを見て、「言い訳するな」と、発言を封じるのは、デメリットが結構大きいのだな、と改めて認識した。

 

「できない理由」をきちんと分析するためには、ある程度当人の話を聞く必要がある。

ところが、できていない人は、大抵の場合分析が甘いので、原因を追求してくと、どうして「言い訳がましい」話となってしまうことが多い。

 

そこで上の人間が「言い訳するな!」と言ってしまうと、もはや何が起きているのか、全く把握できなくなってしまう。

 

「言い訳するな」という発言は、そのイライラの表れである。

実際には、言い訳であっても、きちんと話を聞くことで、部下を取り巻く状況について、良い情報が入手できることも多い。

 

 

米国マサチューセッツ工科大学の、「システム思考」で知られるピーター・M・センゲは、学習する組織に必要なのは、構成員同士の「対話」だという。

 

そして、その対話で重視されるのが、以下の3つである。

1.全参加者が、自分の前提を「保留する」こと。(決めつけはいけない)

2.全参加者が、互いを「仲間」と見なければならない。

3.対話の文脈を保持する進行役がいなければならない。

そして、「言い訳を許さない上司」は、この3つのいずれにも反する。

自分の前提を部下に押し付け、部下が自分の思い通り動かないとイライラしてしまう。

 

結局、そのような状態では、部下は「学習」をしないばかりか、上司の意向だけを伺うようになるだろう。

 

上の課長は逆に「もう少し話をを聞きましょう」と、対話を促した。

これにより、「言い訳がましくても」部下は自分の考えていたことを表明でき、また、上司の促しによって、自分がどうすべきか考えることもできる。

 

そう考えれば、課長の「言い訳を許す」態度は、なかなか実践的な態度であると、私は感じたのだが、どうだろうか。

 

 

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(2024/3/26更新)

 

 

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