異動の時期である。
昇進し、マネジャーなどの管理職となった方も多いだろう。
管理職になると、組織の中枢として新しい仕事の仕方が求められるようになる。
裁量も報酬も大きくなり、「組織を動かす」やりがいを強く感じる人もいる。
だが、それにうまく適応できない人も多い。
「管理職がこれほど難しいとは思いませんでした」
「部下が思った以上に言うことを聞きません」
「コミュニケーションが大事だとわかっていても、時間が取れないです」
そんなふうに、管理職の難しさを語る人は数知れない。
しかし、いちメンバーであったときは様々な仕事をうまくできたはずの彼らがなぜ、管理職という仕事に「適応できない」ケースがこれほどまでに多いのだろう。
*
私は前職、管理職研修の講師を頻繁に行っていた。
私がやっていた中で、特に人気があった研修は、「新任」の管理職研修だ。
「具体的で」「すぐに使えて」「効果の高い」、管理職としてのTipsを数多く紹介する研修になっており例えば、
・部下の話をいきなり否定しない
・小さなことでも表彰する
・声掛けをする
・お客さんの満足の声をフィードバックする
などの施策を紹介し、毎回、8割、9割以上の高い満足度を得ていた。
だが、研修を実際に受けたマネジャーたちが、その後、本当に良い管理職になったのか、うまく組織の中枢に適応できていったか、というと、若干の疑問が残る。
事実、「管理職研修で学んだことを実践していますか?」という質問に対して、多数のマネジャーたちが
「実践できていない」
「忙しくてやる時間がない」
という、現実を抱えていた。
また、実践してみたが、
「習ったとおりには行かない」
「うまく行っているかわからない」
という管理職も多数いた。
私が行っていた管理職研修は、結局の所、活かせるかどうかは「本人次第」であったし、研修を受けた人と受けなかった人とで、その後のマネジメント能力に有意な差がでたとは言えなかった。
要するに、「時間のムダ」であったのだ。
私はそれを受け入れるのに少し時間がかかった。
自分の一生懸命やってきた研修が、無意味なものであるとは認めたくなかった。
だが、それが現実だった。
現実を受け入れなければ、新しい一歩は踏み出せない。
私は、「マネジャーに求められるもの」とは、一体何なのかを、真剣に考えるようになった。
*
その後、マネジメントの権威である、ピーター・ドラッカーの文献に立ち返ったときのことだ。
その中には、次のように書かれていた。
人を管理する能力、議長役や面接の能力を学ぶことはできる。管理体制、昇進制度、報奨制度を通じて人材開発に有効な方策を講ずることもできる。
だが、それだけでは十分ではない。根本的な資質が必要である。真摯さである。
最近では、愛想よくすること、人を助けること、人づきあいを良くすることが、マネジャーの資質として重視されている。そのようなことでは十分なはずがない。
私は、ドラッカーに見透かされているような気がした。
「お前が教えているような、小手先のテクニックで、マネジャーとして一流になれるわけがないだろう」と。
私は食い入るように、その次の文章を読んだ。答えがあるはずだ。
事実、うまく行っている組織には、必ず一人は、手を取って助けもせず、人づきあいも良くないボスがいる。
この種のボスは、とっつきにくく気難しく、わがままなくせに、しばしば誰よりも多くの人を育てる。
好かれている者より尊敬を集める。一流の仕事を要求し、自らにも要求する。基準を高く定め、それを守ることを期待する。
何が正しいかだけを考え、誰が正しいかを考えない。真摯さよりも、知的な能力を評価したりはしない。
このような資質を欠く者は、いかに愛想がよく、助けになり、人づきあいがよかろうと、またいかに有能であっって聡明であろうと危険である。
そのようなものは、マネジャーとしても、紳士としても失格である。
私は呆然とした。
今まで私が研修で教えてきたことは一体何だったのか。
失格ではないか。
それ以来、私は管理職研修ができなくなってしまった。
だが、マネジャーに必要なことの言語化をすることはできた。
つまり、こういうことだ。
マネジャーになったら、「スキルの成長」から「人格の成長」に軸足を移さないと、行き詰まる。
いち社員として、仕事になにより必要なのは、純然たる仕事の遂行能力、つまり、スキルである。
スキルを磨き、できることの幅を広げ、多くのネットワークを築き、収益につなげる。
しかし、マネジャーの仕事は、その延長線上にあるものではない。
究極的には、マネジャーに必要なのは、真摯さ、つまり人格の本質にかかわることであって、スキルではないのだ。
もちろん、マネジャーが真摯さを発揮するには、スキルが必要な場面もある。
だが、土台たる人格の問題を避けて、スキルの習得に走っても、それは砂上の楼閣というものだ。
*
広辞苑で「真摯であること」について調べると、次のように出てくる。
管理職となった人々も、かつては部下であっただろう。そのときに、上司に期待したことは一体何だったのか。
真面目で、仕事にひたむきであり、その人と合う、合わないはともかく、正しさについて真剣であることではなかっただろうか。
部下を持つ、ということは、部下の人生の一部について責任を持つ、ということだ。
適応できないマネジャーたちは、短期的に成果を出そうと焦るあまり「マネジメントスキル」に囚われていることも多い。
しかし、それでは部下たちに見透かされるだけである。
「打算的な人だ」と。
そんな時は、本来あるべき土台となる「真摯さ」であり、自らの「人格」に立ち返るのも良い。
むしろ、真摯さや、マネジャーに必要な人格についての逸話は、小説や映画、そのほかありとあらゆるコンテンツで学ぶことができる。
自らが尊敬する人を思い返しながら、自省することもできる。
毎日、部下の反応を見ながら、反芻して改善も可能だ。
それは、毎日の仕事の中でできるし、特別な時間など、必要ないのである。
4月から新しく管理職になる方々、どうか頑張っていただきたい。
その努力は、必ず誰かが見ている。
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