少し前、横浜市がRPAを導入し、平均84.9%の作業時間を削減したとの発表を見た。

横浜市役所、RPAで平均84.9%の作業時間を削減–NTTらと実証実験

月報作成、データの収集、入力など、7つの定型業務の一部において、所管部署の職員がRPAツール「WinActor」で手順書を作成し、作業の自動化を試行した。実施期間は、2018年7月から2019年3月まで。(中略)

NTTデータによると、その結果、RPAを試験導入した業務で、平均84.9%、最大99.1%の作業時間削減効果を確認したという

いやー素晴らしい時代が来た。

こうして、マニュアルワーカーのコストがカットできる。もっと役所の効率を上げて、人件費を削減できればみんな幸せ……

 

ではない。

 

思うに、これは、大変に危うい。

危うすぎる。

そう思う理由を書いていきたい。

 

 

日本型雇用の最後の牙城であった終身雇用が、思っていたより、あっけなく終わった。

経団連会長”終身雇用を続けるのは難しい”

経団連の中西会長は、企業が今後「終身雇用」を続けていくのは難しいと述べ、雇用システムを変えていく方向性を示した。

改めて言うまでもないが、これは事実上の、大企業による「日本型雇用」の敗北宣言だ。

もしかしたら、「2019年 日本型雇用の崩壊 後の◯◯の改革の引き金となる〜」といった具合に、日本の歴史の転換点として、後世に年号が残るかもしれない。

 

まあ、冗談はさておき、

もちろん、ほとんどの人の反応は

「知ってた」だろう。

 

会社の方が「終身雇用は無理」と言うのと時を同じくして、

労働者側も「そんなのありえねーのは知ってる。」だろう。

 

事実、新社会人で定年まで/定年後も働き続けたいと思う人は3割強。2年目の社会人に至っては、2割を切っている。

「定年まで・定年後もこの会社に勤めたい」新社会人でも3割強(2019年版)

日本の終身雇用制度的慣習も薄れつつあるとはいえ、正規・非正規雇用問題や社会保障の観点も併せると、多くの就業者は自ら門戸を叩いた会社に長年勤めたいと考えている。一方、就業してからの会社の実態を知るに連れ、長期間の就業は難しい、転職や転業を考えたいとする人も多い。

で。

結局、要はいま「終身雇用」にこだわっているのは、主として市場価値が低く、既得権を持っている40代、50代の大企業正社員だろう。

 

だが、無情にもリストラは淡々と進められている。

例えば、「リストラ」とGoogleで検索し、ちょっと拾ってきただけでも、リストラをやっている「大手企業」の数が凄まじい事がわかる。

NEC、エーザイ、千趣会、日本ハム、昭文社、アルペン、カシオ計算機、協和発酵キリン、富士通、パイオニア、ソニー、野村證券、三越伊勢丹、博報堂、東芝、日本IBM、パナソニック、日立、ローム、富士ゼロックス、日産、大正製薬、MUFG、みずほFG、三井住友FG、ソフトバンク、、産経新聞……

 

こういった事情を見て、日本の経営者の無能を嘆く人も多いが、もちろん、海外でも事情は殆ど変わらない。

例えば、中国の大手企業も、現在淡々とリストラを行う。

ファーウェイ、NetEase、JD。DIDI、鴻海 ……

 

もちろん、欧米企業も容赦ない。

SAP、3M、テスラ、GM、フォード、バズフィード、ベライゾン(ハフポスト)……

 

要するに、世界的な潮流として「リストラのない企業はない」。今や「解雇」は、「雇用」と同じくらい、企業活動の中心の一つなのだ。

 

ピーター・ドラッカーの定義によれば、企業の目的は「顧客の創造」と「イノベーション」であり、「安定雇用」は含まれていない。

安定雇用は、顧客の創造とイノベーションの条件の一つに過ぎない。

 

また、そもそも「企業」と「安定」は凄まじく相性が悪い。

何しろ、近年ではビジネスのルールが目まぐるしく変わりすぎて、収益が安定しないからだ。

 

事実、サンタフェ研究所によれば、従業員の働く年数よりも、企業の寿命のほうがはるかに短くなっている。

いまや雇用は、職業的生活・個人的生活・経済的生活を築くしっかりとした基盤たりえない。なぜなら、これまでのように保障されて安定したものではなくなってしまったからだ。

企業の倒産はかつてないほど多くなっている。

アメリカを代表するスタンダード&プアーズ(S&P)500社の平均寿命は、1920年代には67年だったが、現在ではわずか15年であり、こんなに短いのではキャリアを築く暇もない。

サンタフェ研究所が公開企業2万5000社を対象に最近行った分析によれば、ほとんどの公開企業は10年ほどで衰退していくという。

結局、現在では「終身雇用」に最低限必要な、40年以上に渡って大企業を繁栄させ続けることは、どんな経営者でも不可能だ。

企業にはGAFAも例外なく、「たまたま儲かっている時」と「長い停滞の時代」があるだけなのである。

 

19世紀から20世紀にかけて大企業が担ってきた「社会保障」という役割は、もう期待できない。

期待するだけムダである。

そのような能力を、すでに企業は失ってしまった。

 

「企業には社会保障の一部としての安定雇用は無理。」

この事実を受け入れることから、今後の雇用の議論は始まらなくてはならない。

 

 

一方で、「それなりの富を築くことのできる人材」へのハードルはあがり続ける。

就活転換、専門性必須に 脱・終身雇用が一段と

経団連と大学側は22日、新卒学生の通年採用を拡大することで合意した。

IT(情報技術)などの高い技術を持つ人材の通年採用が進めば、新卒一括採用で入社した人も含めて専門性が求められる時代になる。

人材の流動化につながり、戦後続いた新卒一括採用と終身雇用に偏った雇用慣行は転機を迎える。

【関連記事】「勉強する学生が欲しい」 経団連、通年採用の本音

この傾向は、個人的にもかなりの実感がある。

例えば最近では、企業が採用したい学生は文理問わず、「修論」「卒論」の中身がその企業の方向や戦略にマッチしたものであるかどうかを気にする会社が増えている。

要するに「研究で成果を上げた学生がほしい」というわけだ。

 

そして、その専門性さえあれば、良い研究成果を残している学生であれば、新卒であったとしても、給料はもっと高くてもよい、という会社がいくらでもある。

「日本企業は待遇面でGAFAなどの外資に負けている」「安い給料で、スペック高い人を求めすぎている」なんて批判もあるが、

実際には、エンジニア。年収1500万から。修士卒、画像解析の専門家 みたいな募集が、続々と出てきている。

 

ただ、数が少ないので、目立たないだけだ。

そこで採用されたような人は、本当に優秀であるから、どの会社でも引っ張りだこで、働く場所も時間も自由、副業もラクラクとこなして、SNSで発信する。

そして、20代、30代のうちに、数千万、数億といった、それなりの規模の富を手にする。

それが現在の「それなりの富を築くことのできる人材」だ。

 

どの会社も「人材不足」なんてとんでもない。そもそもリストラしているのだ。

足りていないのは、以前の記事にもあったように、「金を積んでも来てほしい、優秀な人」なのである。

 

 

一方で、マニュアルワークの価値はどんどん下がる。

マニュアルがないと仕事できない人は、今後スキルもつかず、賃金も低水準。いつまで経っても、生活水準が向上する兆しすら見えない。

だが、現在の労働者の多くは、ここに入ってしまう可能性がある。

 

そして、そのような状況に置かれれば、当たり前だが、人は良からぬことを考え出す。

アタマが良くてマーケットがわかる人しか稼げない社会は「要らない」。

【そんな社会を認めて構わないんですか?】

→「だったら革命だ!」

そうだろうなあ、と思う。

 

そうして、フランスでは実際に革命によって、独裁と恐怖政治、諸外国との戦争が起き、200万人が死んだ。

1800年までの戦争における死者が40万人、ナポレオン戦争で100万人、内乱で60万人、念の為に付け加えるならさらに断頭台での死者もいる。総計200万人が死んだのである。(中略)

フランスはヨーロッパ大陸における優位を失った。ロシアが追い越し、オーストリアが追いついた。他の国々もフランスとの距離を縮めた。

そうして、フランスは世界のトップの座から転落したのである。

革命に良いことなど、一つもない。

 

 

では、そんな誰得の状態を回避するためには、一体何が必要なのだろう。

 

根本的に、あらゆる人が求めるのは、

一つは、経済的な安定。

そして

二つ目は、社会の中での役割と尊厳を得ること。

すなわち、その人が存在する価値を認めてもらうことである。

この2つを果たさずして、社会の安定はない。

 

だが、企業が担ってきたこの役割は、すでに企業の手に余る。

「ベーシックインカム」は、経済的な安定は提供するが、金を受け取るだけで誰からも感謝されず、社会的な尊敬を集めることもない。

 

そこで「役所仕事」だ。

手続きと権限、責任がきっちり決まっている役所は、マニュアルワークの塊である。

そして、役所は「マニュアルワークしかできない人」の雇用の吸収源としての役割を果たせる。

 

また、役所の仕事はたとえそれが平凡な仕事であったとしても、地域の人とのつながりや仕事で感謝されることを含む。

しかも、永続的な雇用も保証できる。

 

 

人の都合に関係なく、いずれ、企業からマニュアルワークは徹底的に排除される。

それが最適解かどうかはわからないが、その時に雇用の受け皿となるのは、間違いなく公務員やNPOだ。

 

だからこそ、役所はAIなどの、仕事の合理化につながる仕組みを導入してはいけない。

 

役所はできうる限り、企業を邪魔せず、かつすべての人に、それなりの役割が与えられるよう、非効率に運営されなければならない。

極端な話、国民の70%が公務員、そして残り30%が大きなリターンを追いかける起業家たちで十分国が回れば、それで良い。

 

私は平和のうちに、そのような社会が漸進されることを密かに望んでいる。

 

 

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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)

 

 

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