賃金を上げないからろくな人が来ない問題(novtanの日常)

考えるべきなのは、「給料が安い割に要求が高い」という仕事を減らすということですよね。

今日日、コンビニの店員すらやることが複雑化していて(各種受付等、商品販売じゃないものや、店舗で調理するものとか)しんどいわけでね。

だから、給料を上げるのではなく、人手に余裕をもたせるのが本来のあり方なんじゃないかと思うんですよ

この記事を読んで、最近、「仕事とお金と働きかた」について、ぼんやりと考えていたことが、なんだか少し僕のなかでまとまったように感じたのです。

 

以前、西原理恵子さんが『女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと』

という著書のなかで、こんなことを書いておられました。

六本木にある外資系のステーキレストランに行ったら、受付からボーイまで全員美男美女。

しかも、お客も外国人が多いから、全員英語が話せるんです。

東京って、美男美女で英語もしゃべれて、やっとこういう店で時給1500円くらい稼げるんだと思ったら、もうやんなっちゃう、どうしようって、泣けてきた。

今って、頑張ったことに対する対価があまりにも安いですよね。

いくら才能があっても、対価が安いんじゃやる気がでない。

そう言いたくなるのもわかる気がします。

 

いまの世の中って、どんな仕事にも、要求されるスペックが高くなりがちです。

総理大臣や官僚や医者には「それなりの能力」が必要、というのは理解できるけれど、時給を考えれば、コンビニでスプーンを入れ忘れられたり、ファストフードでポテトが入っていなかったりしたくらいで、そんなに目くじらをたてるのはおかしいのではなかろうか。

 

……とか言いつつ、僕もこの手の「コンビニでのちょっとしたミス」みたいなものに、内心、ものすごくイライラしてしまう人間ではあるのです。

言葉遣いとかにも、いちいちカチンと来たりするんですよ。

 

そういう「好待遇とはいえない仕事にも、高いレベルのサービスを求めてしまう客」が、「きつい仕事」を生んでいるのも間違いありません。

まあでも、そういう感じ方というか、接客業に求める水準を一朝一夕に変えるのも難しいですよね。

 

そんなことをずっと考えていたなかで、京都にある国産牛ステーキ専門店『佰食屋(ひゃくしょくや)』の店主・中村朱美さんが書かれた、『売上を、減らそう』という本に出会ったのです。

『佰食屋』は、美味しい国産牛ステーキ丼が1000円+税で、一日100食限定、ランチのみ営業しています。

 

人気店を経営していながら、会社として成長すること、大きくなることを「捨てる」ことを中村さんは選択したのです。

佰食屋は、どんなにお客さんが来ていても、「100食限定」を変えることはないそうです。

 

営業はランチのみで、早いときには14時半には最後のお客が食べ終わり、営業終了。

ただし、早く営業が終わったときも、早退はなしで、仕込みや清掃などを丁寧にやるのだとか。

以前、「営業が早く終わったら、早く帰れる」ような仕組みにしていたところ、接客や清掃がどうしても雑になってしまいがちだったから、とのことでした。

 

そんな「甘い」経営をしていて、店を続けていけるのか?

僕もそう思ったんですよ。

ところが、けっこううまくいっているみたいなのです。

 

僕がこの本を読んでいて、いちばん印象的だったのは、佰食屋の「採用」の話だったのです。

佰食屋の採用基準は、「いまいる従業員たちと合う人」。

それだけです。

面接では、一人につき1時間くらいかけて、どんなふうに働きたいのか、どんな暮らしをしたいのか、じっくり話を聞きます。

 

そしてその人が「なるべくたくさん働いて、たくさん稼ぎたい」と考えているのなら、「きっとうちの会社では物足りないと思う」と率直に話します。

「100食限定」と決めているのに、「もっと売りませんか?」というそのアイデアで、いまいる従業員たちを困らせたくないのです。

そうやって説明すると、その方も「じゃあ、ほかを受けてみます」と納得してくれます。そんなふうに、一人ひとりときちんと向き合って、面接を行っています。

 

佰食屋で採用するのは、どちらかというと、人前で話したり面接で自己PRしたりするのが苦手で……つまり、ほかの企業では採用されにくいような人です。

わたしたちが「従業員第1号」として採用したSくんも、そういう人でした。10人ほど面接に来られたのですが、Sくんはなんと、履歴書を忘れてきたのです。

「あなたは……どなたですか?」からはじまる面接なんて、後にも先にもあれっきりです。

 

彼は、調理師の免許こそ持っていましたが、コミュニケーションが苦手で、おとなしくて、人の目を見て話すことができない人でした。

面接したなかには飲食経験者も多く、「大手ファミレスチェーン店でエリアマネージャーをやっていた」という人もいました。けれどもわたしは、Sくんを採用したのです。

 

その1か月後に採用したYさん……そう、のちに佰食屋の店長を務めてくれた社員です。

彼女もまた、面接では緊張しすぎて、ちっとも目を合わせてくれず、なにか尋ねても、ボソボソッと答えるような人でした。

「いつか自分でカフェを開きたい」という夢を持っていたにもかかわらず、カフェのアルバイトに応募しても、面接で落とされるばかりだったのです。

 

ではなぜ、佰食屋はそんな二人を採用したのか。佰食屋には、「アイデア」も「経験」も「コミュニケーション力」も必要ないからです。

佰食屋にはメニューが3種類しかないので覚えることが少ないし、一日100食だけ売ればいいので、店頭での呼び込みや、お客さんに「今日のおすすめ」をセールストークする必要もない。

ストレスは少ない職場ではあるけれど、新しいことをどんどんやりたい、自分を職業人として成長させたい、という人には物足りなさもあるだろう、と中村さんは考えているのです。

 

経営側が「なんでもできる、ハイスペックな人材を求める」には、それなりの待遇が求められます。

でも、現状では、日本の企業にはそんなに賃金を出す余裕がなく(本当は、もっと人にお金を使うべきだとは思うのですが)、AIの発達で人間がやらなくてもいい仕事も増えてきています。

 

起業やフリーランス、YouTuberなどの「クリエイティブで、自由な働きかた」をしている人が採りあげられることは多いのですが、世の中の労働者の多くは、そんなに能動的には生きられないというのが僕の実感です。

 

どんどん働いて、もっともっと稼ぎたい、自己実現したい、という人がいる一方で

「仕事は好きじゃないけど、食べていくにはしょうがない。できるだけ面倒くさくない仕事を短い時間やって、自分で好きなことができる時間をたくさんつくりたいなあ。そんなに稼げなくても、偉くなれなくてもいいから」

っていう人も、大勢いるはずです。

 

後者を「怠惰な唾棄すべき連中」とみるか、「仕事の内容を彼らのニーズに寄せてあげれば、それなりの賃金で安定して雇用できる働き手」と考えるか、なんですよね。

 

つい最近、こんな記事も読みました。

「医師が一斉退職」一人残った34歳医師に職員たちが体を預けた理由(PRESIDENT ONLINE)

 

「ああ、身を削って地域医療のために働く、ワーカホリック医者の感動ストーリーか……こういうのを読むと自分のやる気のなさが悲しくなるんだよなあ」って思ったんですよ。

 

読んでみると、たしかに、この院長は「スーパーマン」ではあるのです。

ここまで人を動かすバイタリティは、誰にでも備わっているものじゃない。

それでも、この三重県志摩市の病院で働く医者を集めるための発想には「そういう手があったか!」と感心せずにはいられませんでした。

江角さんはフレキシブルな勤務体系にすることで、現在自分を含めて常勤医師3名と非常勤医師1名という診療体制を築くことに成功している。

さらに、4人の医師は全員、総合診療医であるため、皆がすべての患者を診ることができる。そのために、一人の医師に過重な負担がかかることを防ぐことができているという。

 

「最近では医師でも起業したい人や、NPOやNGOを作りたいという人が増えています。しかし、医師との二足の草鞋わらじを履かせてくれたり、3カ月の海外プロジェクトに参加さえてくれたりといった働き方を許してくれる病院はほとんどありません。そこでうちの病院では、これを叶える給料システムや雇用システムをつくりました。医師が希望する働き方をとにかく受け入れて、できる範囲で病院に来ていただけるようにしたのです」

 

こうして働いているのが、81歳のアメリカ人医師クー・エン・ロックさん。

クーさんは日本とアメリカ、カナダ、中国の医師免許を持っていて、それを使って半年は志摩市市民病院で働き、残り半年はアメリカで奥さんと自由に過ごしている。

江角さんは2014年にピースボートの船医として働いていた。クーさんとはその時に出会い、彼が望む働き方に応える形で志摩市民病院に来てもらったのだ。

3人の常勤医師のうち、1人は院長、そしてあと2人は院長のお父さんと、このクー・エン・ロックさん、というのは、「血縁と個人的な交友関係を活かしただけ」という気もしなくはないのですが、それでも、「どんな患者も断らない病院」をここまで運営し続けているというのはすごいことです。

 

医師免許を持つ人であれば、よほど地域に愛着があるか、好待遇でもなければ、あえてこの志摩市で働こうとは思わないはず。

この病院の経営状況を考えると、驚くほどの高給というわけにもいかないでしょう。

 

でも「半年はキッチリ働いてもらうけれど、あと半年は自由にしていいですよ。それでも常勤として社会保障などはちゃんとします」

という、一般的な病院ではまず考えられないような条件を出せば、それに魅力を感じる人はいるのです。

 

臨床医の仕事って、入院患者を担当していると、常に何が起きるかわからないところがあり、気が休まらず、長期の休みがとれなかったり、急な呼び出しがあったりするのがつらい。

「1年の半年は、世界中を旅行したり、趣味のために時間を使えて、残りの半年は医者の給料をもらえる」のであれば、人生をもっと楽しめる。

 

「1年中、志摩できちんと働いてくれる人」を1人近隣で採用するよりも

「1年の半分だけ、働いてくれる人」を全国から2人見つけるほうが、ずっと探しやすいはずです。

 

いろんな資格を持った人でも、それを活かして徹底的に働きたい、仕事で何かを成し遂げたい、という人もいれば、資格を活かして稼ぎながら、仕事以外の人生も楽しみたい、という人もいるのです。

 

「ずっと求人を出しているけれど、なかなか良い人がいない」と悩んでいる経営者は、「賃金」だけではなくて、「仕事の内容や働きかた」を見直してみてはいかがでしょうか。

みんなが「必要以上のハイスペック人材」を求めているなかで、「そんなにデキる人、やる気がある人じゃなくても、こなせる仕事にする」ことができれば、「それなら働ける、働きたい」という人は、ものすごく増えるのではないかなあ。

 

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(2024/1/22更新)

 

 

【著者プロフィール】

著者:fujipon

読書感想ブログ『琥珀色の戯言』、瞑想・迷走しつづけている雑記『いつか電池がきれるまで』を書きつづけている、「人生の折り返し点を過ぎたことにようやく気づいてしまった」ネット中毒の40代内科医です。

ブログ:琥珀色の戯言 / いつか電池がきれるまで

Twitter:@fujipon2

Photo:Giulio Gigante