本記事では、マーケティング3.0の目指す世界から、企業がSDGsに取り組むべき理由を述べたい。
共通目的は世界をよりよい場所にすること
マーケティング3.0は、フィリップ・コトラーによって提唱された概念である。
モノを売り込むため製品中心だった1.0や顧客満足を重視した消費者志向の2.0に対し、マーケティング3.0では、人々を単なる消費者として見做すのではなく、自社の掲げるミッションやビジョンを共に実現しようとする倫理的なパートナーとして捉えている。
企業は、人々が持つ社会的・経済的・環境的な根源の欲求に製品・サービスだけでなく、自社のミッションやビジョンで応える必要があり、提供価値もより精神的な充足感を与えるものでなければならない。
表 マーケティング1.0、2.0、3.0の比較
出典:『コトラーのマーケティング3.0 ソーシャル・メディア時代の新法則』(2010年、朝日新聞出版)を元に知見録で作成
第1回で述べたように、SDGsが目指すのは「世代を超えてすべての人々がよりよく生きられる世界」であり、マーケティング3.0の目指す世界観と一致する部分が大きい。
近年、日本でも購買決定時に社会的・文化的な意義を求める「イミ消費」という消費行動も見られるようになっているが、若い世代を中心に消費者の価値観も確実に変容してきており、企業にはこうした潮流を捉えて事業展開していくことが求められはじめている。
ビジネスはミッション・ステートメント達成のための手段と言い切るパタゴニア
アウトドアメーカーのパタゴニアの製品を愛用している方も多いだろう。
同社は、2019年の参院選の投票日に全国22箇所の直営店を全て臨時休業にし、従業員に投票を促したことでも話題になったが、長年、環境問題に対して強くコミットしている企業の一つである。
アメリカでは、消費者が年間で最も買い物をする日として「ブラックフライデー」があり、当然、多くの小売店がこの日に合わせて大規模なセールを展開している。
しかし、パタゴニアは2011年のブラックフライデーに“DON’T BUY THIS JACKET”(このジャケットを買わないで)という広告を掲載した。
その真意は、大量生産・大量消費社会に対して疑問を投げかけ、消費者に対して「その商品が本当に必要かどうか、購買決定前に熟考せよ」との問いかけであった。
自社製品を買わないで、と呼びかける前代未聞の広告であったが、それは、環境を改善するためにビジネスをするというパタゴニアのミッションに沿ったプロモーションだった。
さらに大きな反響を呼んだのは、2016年のブラックフライデーで行われた「100% Today, 1% Every Day」というキャンペーンである。
これは、従前から実施していた世界中の直営店・オンラインショップの売上の1%を草の根環境保護団体に寄付するという取り組みに加え、ブラックフライデーには売上の100%を寄付するというものだった。
「購入金額に応じて数%を寄付する」というような貢献の仕方は、コーズマーケティングと言われる手法として多くの企業で行われているが、一日のみとはいえ、売上の全額を寄付するという取り組みは大きな話題となった。
実際に、このキャンペーンは消費者からも圧倒的な支持を獲得し、同社が当初予想していた約2億2000万円の5倍を超える約11億円の売上を記録した(参考:ブラックフライデー(11月25日)の過去最高売り上げを地球のために全額寄付|パタゴニアHP)。
このように環境問題の解決に力を入れて取り組んできたパタゴニアであるが、日本上陸30周年を迎えた2019年にミッション・ステートメントを刷新し、より力強いメッセージを発信している。
従来は「最高の商品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。
そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」という理念を掲げ、既にビジネスを通じた課題の解決を謳っていた。
新しい理念では、「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む。」という一文で、目的と手段をシンプルに、かつ強固に打ち出している。
顧客と共創する「よりよい世界」
パタゴニアが打ち出す明確なスタンスは、環境配慮を重視する消費者からも熱狂的に受け入れられており、「世界をよりよい場所にする」ことを顧客と共創するマーケティング3.0を具現化している事例と言えるだろう。
あらゆる製品・サービスのコモディティ化が進む一方、Z世代が消費のボリュームゾーンに入って来るにつれ、消費者の価値観も大きく変化してきている。
2021年には、マーケティング5.0がリリースされる予定だが、日本企業の多くは未だにマーケティング2.0から移行できていないという意見もある。
マーケティングは企業のパーパスに基づき、自社が実現したい価値を顧客と共に創り上げていくためのツールである。
もちろん見せかけだけのSDGsウォッシュとならないよう、本業を通じて社会価値の最大化に取り組むことが大前提であるが、SDGsの視点から、自社のマーケティング活動をアップデートすることが求められている。
(執筆:本田 龍輔)
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