私が仕事の中で教わり、その後も公私に渡ってたいへん役に立った技術の一つに、「相手に、課題に気づいてもらうテクニック」があります。

私が所属していた組織ではそれを「気づかせ術」と呼称していました。

 

そう聞くと、もしかしたら

「課題は、ストレートに指摘するほうが誠実」

とか、

「はっきり指摘しないと、相手は気づかないよ」という方もいるでしょう。

 

でも本当にそうでしょうか。

課題を指摘されて

「ズバッと言ってくれて、ありがたいです」

「ああ、私がまちがっていました。確かにそれは課題です。直します」

なんて人、どれだけいるでしょうか。

 

残念ながら、ほとんどそういう方はいません。

「内容が正しかろうが、正しくなかろうが、課題を指摘しても、ほとんどの人はそれを受け入れない」のです。

 

それを理解しているかどうかが、コンサルタントとして、うまくやっていけるかどうかの境目でもありました。

 

 

例えば、以下のやり取りを見てください。

 

コンサル「喫緊の経営課題は、「ベテランが、新人にうまく教えられない」ですね。現場のヒアリングで判明しました。」

社長 「そうそう!よくわかってるねー。」

 

コンサル 「ウチ、研修で解決できますよ!」

社長 「どんな研修?」

 

コンサル「じゃ、お時間いただきますね。」

社長 「わかった。」

 

このやり取り、コンサルティングの現場を知る人からすると、かなり「あり得ない」やり取りです。

なぜでしょうか。

それは、コンサルタントが課題を指摘し、社長がそれにあっさり同意しているからです。

 

コンサルタントが課題を指摘するのは、普通じゃない?と思う方もいるかもしれませんが、実は、普通ではないのです。

 

課題は他人に指摘されたくない

実は、経営者に限らず、人間は「課題」を人に指摘されることを非常に嫌います。

 

課題をズバッと指摘されたら、大抵の人の反応は、「それが課題なのか?本当か?検討してみよう」ではなく、「何このひと、嫌い」です。

指摘された課題を吟味なんてしません。「自分のことを批判する嫌なやつ」と思うだけです。

 

なぜなら、たいていの人は課題を指摘されることとと、人格否定されることを区別できないからです。

ですから、よほど親しい間柄であっても、課題を指摘すると人はほぼ100%、「否定」します。

9割方、次のような返事が返ってくるでしょう。

 

社長 「いやいや、教えようとはしてるよ。ただ、なかなか時間が取れないようでね。」

 

「結果だけ見れば、同じことじゃない?」とツッコミたくなるかもしれません。

が、とにかく、こちらのいう事は必ず否定されます。

 

これは、言葉の使い方とか、課題の定義の仕方とか、そういう話ではありません。課題を他者に指摘されると、ほとんどの人は反射的に、それを否定してしまうのです。

これは、純粋に反射的なものであるため、「中身が正しいかどうか」は、あまり気にされません。

 

私は上司から

「ほとんどの場合は、課題をストレートに指摘するな。絶対に否定されるから。相手を怒らせてしまう時もあるし、意固地になることもある。」

と教わりました。

 

しかし。

仕事においては、課題を改善してもらうことを避けて通ることは出来ません。

しかも、上司から部下に対してだけではなく、クライアントや上司など、自分よりも立場が強い人に対して課題を改善してもらうことが多々あります。

 

そんな時に使うのが、相手に自発的に課題に気づいてもらうための、「気づかせ術」でした。

 

課題は指摘するものではなく、気づかせるもの。

では、具体的にどうしたら良いのでしょうか。

 

いろいろなやり方がありましたが、私が主に使っていたのは、とてもシンプルなものでした。

 

1.褒める

2.質問する

3.同意する

4.今やってることを聞く

5.要点をまとめて気づかせる

 

では、先ほどの会話に対して、「気づかせ術」を使って、アプローチするとどうなるでしょう。

 

 

ーーーーー1.褒めるーーーーー

コンサル 「現場で確認しましたが、社長のところには優秀な新人がそろってますね。」

社長 「(顔が少し緩む)確かにいい人たちが入ってきてくれてるねー。」

 

コンサル 「新人の一人が、さっそく商談を持ってきてくれたと聞きました。」

社長 「彼はできるよ。採用が頑張ってくれたから。」

 

ーーーーー2.質問するーーーーー

コンサル 「うらやましいです。では、ほぼ課題はなさそうですね?」

社長 「いやいや、そんなことはないよ。ベテランを新人につけてるんだけどね、成長のスピードが、人によって結構まちまちなんだよね。ミスが目立つ人もいるし。」

 

ーーーーー3.同意するーーーーー

コンサル 「それ、ウチと全く同じですよ。成長の遅い人が自信を失っちゃうことがあるんですよね……フォロー難しいですよね。」

社長 「そうなんだよ。不安がる人には、今は気にしなくていい、って言ってるんだけどね。」

 

ーーーーー4.今やってることを聞くーーーーー

コンサル 「なるほど……それに対して今動いていることはありますか?」

社長 「ベテランと新人の面談を、週1回設定してるけど、面談も簡単ではないようで。これ、何とかしたいんだよね。」

 

ーーーーー5.要点をまとめて気づかせるーーーーー

コンサル 「ということは、社長が認識している課題は「ベテランの面談力・指導力」という事になりますかね。」

社長 「誰もが面談が上手なわけじゃないからね……まだ手探りですよ。」

 

コンサル 「ひょっとして「評価者面談」に興味ございますか?」

社長 「どんなやつ?」

 

 

上の会話は単純化してありますので、各パートのやり取りは、実際にはもっと長くなります。

が、概ね「相手の課題」についての話は、上のような流れで、相手に「気づいてもらう」というアプローチを使っていました。

 

中でも重要なのは1.の褒めるパートです。

褒めることで「課題」を吟味するスペースを、相手の心にセットするのです。

 

人は十分にほめられた後でなければ、自分の課題に対して、正面から向き合うことはできません。

そういう意味で、1.には十分すぎるほどの時間を割きます。

 

社内の評価面談も「気づかせ術」で

もちろん、「気づかせ術」は、クライアントだけに適用される技術ではありません。

特に、プライドの高い人が多い、コンサルタントの評価面談には、「気づかせ術」を使うことが必須でした。

 

その人の課題、直してほしいところ、出来なかったことから評価面談を始めると、どうしても上司は「嫌なヤツ」、挙句の果てには「敵」の扱いになります。

そして一度「敵」と認識されてしまうと、そのあとの話を受け付けてもらえません。結果的に、面談は失敗、ということになります。

 

そうではなく、良くできたこと、うまくいったこと、得意なことの話から始めることで、彼の業績を褒める。

そのうえで、もっと業績を伸ばすためには何が必要かを、一緒に議論しましょう、という態度で面談に臨めば、建設的な時間が期待できるのです。

 

 

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【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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