はじめに

会社を存続あるいは発展させるために、事業譲渡をするという選択肢があります。

手続きが煩雑なイメージのある事業譲渡ですが、どのようなメリットやデメリットがあり、またどのような契約書が必要になるのでしょう。株式会社ストライクの犬塚匡俊さんに教えていただきました。

 

1.株式譲渡とどうちがう?「事業譲渡」とは

事業譲渡とはその名の通り、「会社の事業を事業単位で譲渡すること」です。

株式を売って会社そのものを譲渡する株式譲渡とは異なり、事業譲渡は会社そのものを譲渡することはしません。

 

そのため事業譲渡の場合、取引先との契約や雇用契約、賃貸契約などは当然引き継がれません。

買手がそれらを必要とするときは、改めて契約を結び直すか、譲渡について個別の同意を得る必要があります。

事業に直接関わる譲渡対象資産負債などについては、当事者間で事業譲渡契約を結び譲渡を行います。

 

また税金に着目してみると、株式譲渡の場合は、対価は株主に支払われますが、事業譲渡の場合は、譲渡した会社に対価が支払われるため、その譲渡益は法人税の課税対象です。

事業譲渡の場合は、のれんの償却ができる点が税務上のメリットであるといえます。

 

【関連記事】株式譲渡でのトラブルを回避!そのための5つの注意点を解説

 

2. 事業譲渡におけるメリット・デメリットは?

事業譲渡をする場合、買手側と売手側でどんなメリットがあるのでしょうか。

 

(1)買手側のメリット・デメリット

買手にとってのメリットは、必要な資産のみを引き継ぐことができるため、借入金や賃貸契約、雇用契約などの一部を引き継がなくてもよいという点にあります。

簿外債務があった場合でも売手企業に残るため、リスクを背負わなくてもいい点もメリットといえるでしょう。

 

一方、デメリットは、事業運営に必要な各種の契約がうまく引き継げないことや・許認可等は取り直さなくてはならず、手間とコストがかかるうえ、場合によっては許認可等が降りないリスクもあります。

 

(2)売手側のメリット・デメリット

売手にとってのメリットは、会社自体はそのまま存続できる点にあります。

事業を切り分けることで事業の選択と集中ができるため、より戦略的な経営が可能になります。もちろんキャッシュが手に入るというメリットがあります。

 

デメリットは、事業まわりの物事が包括承継されないため、借入金やその他の負債が残ることがあります。

また、一部、従業員や取引先などを引き継いでもらえない可能性があることです。

 

【関連記事】「株式譲渡」によるM&Aのメリットって?メリットや手続き方法を専門家が解説!

 

3. 事前にチェック!事業譲渡契約書の記載事項と印紙税

事業譲渡をすることが決まったら、「事業譲渡契約書」というものを取り交わします。

事業譲渡後にトラブルなどが発生しないための大切な書類です。記載事項と、契約書にかかる印紙税について見ていきましょう。

 

(1)事業譲渡契約書の記載事項

事業譲渡契約書には下記のような項目が記載されます。

 

本件事業の譲渡

譲渡日を取り決めます。また、譲渡対象となる事業を定めます。

 

譲渡財産

事業に関わる譲渡対象の資産と債務は、承継資産、承継債務として目録を作成し、契約書に個別に明記します。

 

また物品のみならず、事業を行うために必要なノウハウや顧客情報、知的財産権、特許など事業に関する一切の重要資産も記載します。

物品は時価で取引がなされ、課税対象資産には消費税がかかります。

記載事項ではありませんが、譲渡対象資産に不動産が含まれる場合は、不動産取得税がかかる点も注意が必要です。

 

債務などの負担

対象事業に関する債務を誰が負担するのか、期日とともに負担区分を明記します。

「○月○日まではA社の負担とする」などといった記述になります。

 

従業員の取り扱い

事業に携わっていた従業員を引き継ぐ場合は、退職後再雇用(場合によっては転籍)の手続きを取ります。

従業員本人には、30日前には予告しなくてはならないので注意しましょう。

 

譲渡価額及び支払い

事業譲渡対価の総額及びどのような形式で授受するのかを明記します。たいていの場合は銀行振込が選択されます。

また、未確定の在庫や債務がある場合は、確定した日にそれぞれ決済することを記載します。

 

取締役会や株主総会での承認

取締役会や株主総会を開催し、決議により承認を得ていることを記載します。

 

移転手続き

譲渡対象資産の引渡しかつ移転について明記します。通常は譲渡日と同日に設定するケースが多いです。

 

競業避止

事業譲渡後、売手が同一又は類似する事業を行うことを禁じる条文です。法律上の定めはありますが、禁止するエリアや期日を当事者間で設定します。

 

譲受の条件

契約上の義務に違反していないこと、契約締結後、譲渡日まで事業の価値に影響をもたらす事由が発生していないことなどを記載します。

 

補償

契約上の義務違反によりお互いが損失を被るようなことがあった場合は、損失を補償する旨を記載します。

 

管轄・準拠法

紛争が起きた場合はどこの裁判所で争うのか、また契約書がどの国の法律に準拠して解釈されるのかを記しておくといいでしょう。

 

(2)事業譲渡契約書における印紙税

事業譲渡契約書には、印紙代がかかります。金額は、取引額に応じた額になります。

収入印紙を契約書に貼って納付します。印紙税を収め忘れないようにしましょう。

 

<契約書に記載された事業譲渡の代金額と印紙代>

記載なし……200円

1万円未満……なし

1万円〜10万円以下……200円

10万円〜50万円以下……400円

50万円〜100万円以下……1000円

100万円〜500万円以下……2000円

500万円〜1000万円以下……1万円

1000万円〜5000万円以下……2万円

5000万円〜1億円以下……6万円

1億円~5億円以下……10万円

5億円~10億円以下……20万円

10億円~50億円以下……40万円

50億円以上……60万円

 

【関連記事】株式譲渡契約書(SPA)の作成にあたって押さえておくべきポイントや注意点を徹底解説!

 

4. 事業譲渡契約書を書くときの注意点

最後に、事業譲渡契約書を書く際には、下記の項目をチェックしながら進めていくことをおすすめします。

 

・譲渡対象資産負債を確定させ、その内容・状態について相互で確認ができている

・対象の事業譲渡について、会社法上の事業譲渡に関する手続きを確認している。

・借入金などの負債を譲渡する際は、対象債務の債権者からの個別の同意を得ている

・譲渡先で従業員との雇用契約が結び直せず、事業に必要な人員を確保できなかった場合の対策について、出向等取り決めしている

・主要な取引先ごとの対応について協議しており、契約を継続できないリスクを承知している

・譲渡先で許認可・契約などが取り直せないリスクについて確認している

 

事業譲渡は、株式譲渡に比べて、手続きが煩雑だと言われることがありますが、一般的な流れは株式譲渡と同様です。

検討項目こそ多いものの契約書の内容はさほど難しいものではありません。

事業譲渡ならではのメリットも多数あるので、必要な際は検討してみてください。

事業譲渡を行う際は、上記のチェックリストも活用しながら、万全な状態で契約書の準備を進めましょう。

 

(話者:株式会社ストライク 企業情報部 提携推進室 室長 犬塚匡俊(いぬつか まさとし)

※本記事は、「株式会社リクルート 事業承継総合センター」からの転載です。

 

 

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