近年、ゲーム障害やゲーム依存といった言葉が聞かれ、親御さんが「うちの子どももゲーム障害になってしまうのでは?」と心配していることも多いようですね。

もっともな心配ではあります。その定義からいっても、ゲーム障害になった子どもはゲームを上手にやめられなくなってしまい、学業や社会関係に悪影響を受けてしまうわけですから。

 

私が経験した、ゲーム障害の診断基準に当てはまりそうな数少ない患者さんを思い出すと、コントローラを投げるぐらいはマシなほうで、ディスプレイを破壊する、家族に暴力を振るう、等々も併発してしまって、ただのゲーム好き、ただのゲームオタクとは一線を画していました。

 

とはいえ、そこまで明確にゲームで人生が悪くなっている患者さんが巷に溢れているかといったら、どうでしょう? 依存症の専門治療施設や児童思春期の専門施設だったなら、ゲーム障害の診断基準にまさに当てはまり、そのように診断するのがふさわしい患者さんに頻繁に出会うのかもしれません。

 

しかし市中のありふれた精神科病院のフロントラインでは、そういった患者さんはまだ少数にとどまっています。双極性障害(躁うつ病)が悪化しているとか、家族の揉め事がひどくなった結果としてオンラインゲームに居場所を求めずにいられないとか、そういった患者さんならそこそこ見かけるのですけれども。

 

そうしたなか、精神科医の関正樹先生は、子どもとゲームの向き合い方について興味深いお話をさまざま残しておられます。

 

子どものゲーム障害は大丈夫か?ゲーマー児童精神科医に親子で取材
関正樹先生にインタビュー”ゲームと子どものホントの関係”#1

 

「子どもとゲーム」守れるルール作りとは?ゲーマー児童精神科医に親子取材
関正樹先生にインタビュー”ゲームと子どものホントの関係”#2

 

「ゲームで親子関係が悪化」本当のワケをゲーマー児童精神科医が明かす
ゲーマー児童精神科医にインタビュー”ゲームと子どものホントの関係”#3

 

たとえば上掲の三つの記事では、親と子とゲームの間柄について示唆的な、一考に値する内容が記されています。

親が子どものプレイしているゲームについて知っていて、知ったうえでコミュニケーションできること。むやみに禁止した結果としてかえって親からゲームが不可視になってしまうことの問題点。ゲームのなかでも人との出会いがあり、そこが居場所や交流の場としての性質を兼ね備えていること。等々。

 

どれも大切なことではないでしょうか。

今、子育てをしている世代もゲーム機が普及した後の世代ではあります。

しかし、子どもがプレイしているゲームのことも、ゲームとどう向き合っているのかもわからないケースも多く、その結果、ゲームを巡って親子がすれ違ってしまうことも珍しくありません。上掲リンク先のインタビュー記事は、そうした悩みを持っている親御さんにお勧めしたいものでした。

 

ゲームがわかっている親なら、良き規律を与えられるのでは

ここまでは、ゲームについてあまりわかっていない親御さん、お子さんのゲームプレイについて把握の難しい親御さんの話でした。ここからはそうではありません。

では、ゲームがバキバキにわかっている親御さん、お子さんのゲームプレイについてよく知っていて、ゲームやゲーム機を常時共有している親御さんなら、何ができるだろうか? という話に移ってみます。

 

ひとつの可能性として、私の家庭のことを書いてみます。

 

私の家庭ではみんなでゲームを嗜んでいます。そもそも私がゲーム歴四十数年でいまだゲームをやめておらず、嫁さんもだいたい同じです。

子どももゲームをやっているので、ゲーム機本体やゲーミングPCやゲームソフトの購入、(スマホの場合は)ソーシャルゲームの選択、等々について絶えず情報交換や相談が行われています。

 

そうしたわけで、たとえば2022年9月にリリースされて大人気となった『スプラトゥーン3』などは家族総出でやっています。

休日はニンテンドースイッチの電源が入りっぱなしで、ほとんど部活動のような状態です。私も含め、全員がある種の目標意識をもって『スプラトゥーン3』をプレイしていると言っても過言ではないでしょう。

<写真:『スプラトゥーン3』より。勝敗表>

 

こんなゲーム一家である私の家庭には、ゲームのプレイ時間についての具体的な取り決めは存在しません。少なくとも、紙に張り出したり約束を取り付けたりするようなものはない、と言えます。

たとえば『スプラトゥーン3』なら、”フェス”というイベント期間中ならゲームプレイの時間が延びるものだ、という暗黙の了解があり、そのような時にはプレイ時間が延びるだろうと誰もが思っています。

 

リリースされて間もないゲームで、なおかつ初動がきわめて重要なゲームの場合も、「初動が大事だもんね。チャッチャとやってしましましょう」と親子ともども考えています。

 

では、ゲームプレイが野放しな状態かといったら、そうではありません。私たち親子のゲームプレイには、規律が存在します。

横文字で言えば、ディシプリンとか、リテラシーと呼ぶべきものでしょうか。

 

もう少し具体的に言うと、「ゲームと付き合う際には、こんな風に付き合うのが常識的だし、仕事や勉強とゲームを両立できる状態にするためにはこんな感じがいいよね」という共通感覚があるのです。

 

ですから、子どもは平日も休日もゲームをするし、もちろん動画を見たりもしますが、勉強もしています。

「ゲームをプレイする時にはもちろんやる。でも、ゲームは課題や宿題とのバランスを考えながらやるものだし、そうやってバランスを取りながらゲームと付き合うものだ」という感覚が大切だと思っていますし、ゲーム愛好家な親としての私は、そういった感覚を親子で共有できるよう、意識しながら過ごしてきたつもりでした。

 

ついでに言うと、勉強そのものもバランスを考えながらやるものだと個人的には思っています。

野放図なゲームプレイと同じく、野放図な勉強もナンセンス。勉強において必要なのも規律であり、ディシプリンであり、リテラシーであって、やるべき時にやることと、やるべき課題に取り組むことが大切だと、我が家では考えています。

 

では、こうした勉強やゲームの規律をどうすれば身に付けられるのでしょうか?

 

確かなことはわかりません。子どもにも親にも個人差がありますから、すべての家庭に通用する方法などないでしょう。

しかし、ゲーム愛好家の親としての私は、右のように考えました ──子どもにゲームと付き合う適切な感覚を身に付けてもらう、あるいはゲームの規律を身に付けてもらうには、まず親がそれを実践し、こんな風にやるんだよ、こんな付き合い方が常識だよと示す必要があるのではないか── と。

 

私の場合、医療と文筆業という二足のわらじを履いているため、自宅で仕事をしたり課題に取り組んだりすることも多く、宿題や課題をこなしながらゲームを愛好するさまを子どもに示すには向いている環境でした。

原稿の〆切。文献調査。ブログなどでの活動、etc…。そうしたことをやりながら家庭生活のなかでゲームと向き合い、折り合いをつけながら遊ぶ姿を子どもにみてもらう。そうすることが、ゲームとの付き合い方を子どもに示し、いつの間にか身に付けてもらう最適な方法だと私は考えました。

 

これは、そのような親の日常を子どもが見聞きしなければ成立しません。私は物書きもゲームもほとんどすべてリビングで、家族と一緒の空間でやるよう心がけました。

私の子どもは「ゲームが遊びたいけれども〆切があるから今はやらない」「ゲームを短期集中で遊ぶなら今しかない」といった判断をしている親の姿を見て育ってきました。私は、それを子どもが見て、きっと継承してくれるだろうと期待していました。

 

果たして、子どもはそのようにゲームと向き合うようになりました。成長するにつれて、好みのゲームジャンルが親と違った方向に変わってきましたが、それもそれで好ましいことです。愛好するゲームジャンルは違っていても、ゲームの遊び方・選び方・付き合い方は親子でそれほど違わないと思います。

「ゲームはこんな風に遊びなさい」と指導する必要はほとんどなく、ゲームとの付き合い方、ゲームについての規律は家庭環境をとおして自動的に子どもに継承されたのでした。

 

ゲームでもっと強くなろうぜ

こうした我が家の取り組みは、もちろん一定の条件下でなければ成立しないでしょう。

たとえば親自身がゲームをだらしなく遊んでいる場合、子どもには、そのようなだらしないゲームとの付き合い方・だらしない規律がインストールされていったと想像します。また、親が宿題や課題に取り組んでいるさまが不可視な環境でも、この取り組みは成立のしようがありません。

 

そういった制約はありますが、もし、親がゲームを遊び慣れていて、ゲームとの付き合い方を心得ているなら、その継承だって立派な財産だと私には思えるのです。

 

言い方を変えるなら、ゲームの規律もひとつのハビトゥスであり、親から子へと継承され得る文化資本ではないでしょうか。

 

だとしたら、ゲームの弊害を防ぐ……ではなく、ゲームとの付き合いをとおして、もっと子どもの成長可能性を広げることもできそうなものです。

 

ゲームは、脳を使う遊びです。遊ぶゲームにもよるかもしれませんが、集中力の維持を必要とし、瞬間的な判断力を養い、忍耐、努力、創意を必要とします。そうでない場合のゲームでも、効率性を考えさせられる場面は少なくないでしょう。

 

最近のゲームはオンライン化していることが多いので、思いやりや礼儀作法、コミュニケーション能力が求められる場面もあります。オンライン化したゲーム環境は、子どもが遊んで構わない場所が少なくなり感染症対策が叫ばれている現状だからこそ、子どもが集まれる新しい場、共同作業に取り組める新しい場でもあります。

<写真:『スプラトゥーン3』より。オンライン上で仲間が集まるロビー画面>

 

また、ゲームを上達しようと思えば思うほど、そのためのノウハウを開拓したり、さまざまな情報収集をしたりしなければなりません。機先を制した情報の価値、その情報を踏まえた努力の構築の必要性にも直面するでしょう。

または、マインクラフトなどのMod (modificationの略、元のゲームに他のプレイヤーが作った追加機能などを実装させるプログラム等を指します) を遊び倒そうと思うなら、さまざまな知識や技能が必要になり、PCの仕組みやプログラミングに触れる入口ともなるでしょう。

<写真:『マインクラフト』より。英語版mod。>

 

英語で遊ばざるを得ないゲーム、英語圏の情報を漁ったほうが近道なゲームもたくさんあります。どこまで英語学習の足しになるかはわかりませんが、英語圏のゲームインターフェースやチャット、英語圏のゲーム攻略情報、英語圏のゲーム実況者などに馴染んでおくのは悪いことではないように思います。

<写真:『Elite Dangerous』より。全部英語のインターフェース>

 

そしていくつかのゲームは歴史を学ぶ入り口としても機能します。ローマ帝国とは。大航海時代とは。戦国時代とは。第二次世界大戦とは。etc…。

 

また、ゲームそのものが子どもに提供するものだけでなく、宿題や課題とゲームを両立させる、そのトライアルをとおして鍛えられるものだってあるでしょう。

ゲームしかできないのは大問題ですが、私に言わせれば、宿題や課題しかできないのもそれはそれで大問題です。両方できたほうがいいし、その両方を状況に応じて加減できるようにもなって欲しい。もちろんこれは、ゲームじゃなく他の娯楽やスポーツにも言えることです。

 

ですから「ゲームで強くなろうぜ」と、ゲーム愛好家の親の一人として、私はいつも思います。大抵の遊びもそうでしょうけど、学業成績を直接的に向上させてくれるゲームはそれほど無いかもしれません。

それでも、そこから得られるもの・それをとおして強くなれることはたくさんあるはずです。また、ゲームをとおして思い出ができたり友達と意見交換したりするのもかけがえのないことですね。そういったものも親としてはなるべく邪魔したくありません。

 

できることが多いに越したことはありません。ならば「ゲームか成績か」と二者択一的に考えるのではなく、「ゲームも成績も」と両方を視野に入れて子どもの成長や可能性を見守っていきたい──ゲーム愛好家の親としては、いつもそんな風に考えています。

 

 

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【プロフィール】

著者:熊代亨

精神科専門医。「診察室の内側の風景」とインターネットやオフ会で出会う「診察室の外側の風景」の整合性にこだわりながら、現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信中。

通称“シロクマ先生”。近著は『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)『「若作りうつ」社会』(講談社)『認められたい』(ヴィレッジブックス)『「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか?』『健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて』(イースト・プレス)など。

twitter:@twit_shirokuma

ブログ:『シロクマの屑籠』

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Photo by Javier Martínez