先日、髪を切りに行ったときのこと。

「どんな感じにしますか?」と聞かれ、「写真撮影をするために切るので、それを前提にお願いします」と回答した。

 

美容師さんは、そうした手合いにも慣れているのか、

「襟足は長めにしますね」とか「前髪は眉にかかるくらいでいいですかね」

とか、いろいろと確認を入れてくるが、正直なところ、私は素人なので仕上がりのイメージは切ってみないとわからない。

 

だから、最終的には美容師さんを信頼して「お任せします」と言った。

それ以外に言いようもない。

 

プロの判断を信じ、任せた結果は受け入れる。

それが、「プロに任せる」ことの本質だと思う。

 

 

これは、タクシーなども同じだ。

利用するとよくドライバーさんから「どういった行き方にしますか?」と聞かれるが、本質的な答えは

「一番安く、かつ早く行ける行き方で」

しかない。

 

私は運転のプロではないし、ベテランのタクシードライバーにくらべて、道を詳しく知っているとは思えない。

新人や、わざと遠回りする悪質なドライバーもいるのだろうが、ほとんどのドライバーは「ベストを尽くす」だろうし、その判断を信じるのが結局のところ、良い結果を生むだろう。

 

服選びも同じ。

私は服を選ぶことについては、できうる限りサッサとすませたいし、周りから見て「おかしな服装」と思われなければそれでいいと思っている。

だから、お店に入ると「用途と好み、予算を伝えて、あとは100%、店員さんのお勧めに従う」ことにしている。

 

 

しかし、どうやら世の中はそういうケースばかりでもないらしい。

美容師さんの話を無視して、さんざん注文を付けた挙句、「美容師が悪い」とクレームをつける人がいると聞く。

 

タクシードライバーさんが「どうやって行きますか?」と聞くのは、最短距離のルートを通っても、道にケチをつける人が後を絶たないからだという。

 

服装に至っては、「お似合いですよ」としか言わない、いい加減な店員さんもいるのだろうが、そもそも「人の話を全く聞かない客」には、それしか言えることがない。

 

なお、実際に、私が遭遇したことのある人は、「コンサルタントを雇っているのに、話を聞かない経営者」だ。

別にお金さえもらえればそれでもいいのだが、どちらかというと彼らは「意見が欲しい」のではなく、「自分の話を聞いてほしい」だけなのだろう。

そういうケースにおいては、

「社長のやりたいようにやればいいと思います」

としか言えない。

 

つまり、世の中には「プロに任せる」のが下手な人が、数多くいて、そういう人には大きく2種類いる。

 

一つ目は、プロと称する偽専門家に騙された経験のある人。

痛い目に合った経験を二度としたくないから、もう専門家を信じない、という方針の人だ。

 

ただしこれは一定の合理性があり、実際、専門家の判断が、大して素人と変わらないことが統計的に明らかになっている分野は存在している。

ダニエル・カーネマンによれば、「予測的判断」、例えば政治や金融、マーケティング、経営コンサルティング、採用などの分野では、「ノイズ」と「バイアス」によって、専門家の意見も大きくばらつくことが主張されている。

だから、特定の分野については、そこまで専門家を信頼すべきではない。

 

しかし、二つ目の方は、重症だ。

世の中には、「そもそも人の話を聞かない人」が大勢いる。

 

相手が専門家かどうかにかかわらず、自分の了見でのみ、行動する人だ。

医師の診断に対して、「webで聞きかじった知識」を披露し、治療を困難にする人もいると聞く。

 

 

どちらのケースも最終的には「自己責任」であり、人がとやかく言う事ではないと思う。

私も面と向かってそういう人に「その考え方は直せ」という事は絶対にない。

 

が、「専門家を頭から拒否するのは、損するなあ」と思う事はある。

 

多少騙されたとしても、トータルで見れば、専門家の意見に従うことは、自分が思っている以上に、効果という点で思わぬメリットを享受できる。

 

「普段やらない髪型」に仕上がって、ちょっと「大丈夫かなあ」と思っていたら、家族に予想以上に褒められたとか、服装も「いつもと違っていていいね」と同僚に言われたりとか。

タクシードライバーに任せたら、ものすごい裏道を使って、ショートカットしてくれたりとか。

 

案外、新しい世界との出会いは、そうしたプロが示してくれたりするのだ。

 

 

実は、4月19日に出した本『頭のいい人が話す前に考えていること』は、私が普段書いている文体とはかなり違う文体で書かれている。

これは実は、ダイヤモンド社の「編集者」である、淡路さんに相当手を入れていただいているからだ。

 

私は多少なりとも、自分で文章を書いてきた自負があったが、淡路さんに手を入れていただいた結果、大変驚いた。

『圧倒的に、書籍としての完成度があがった』のだ。

 

決して私単独では書けない、webではなく「書籍ならでは」の文章に仕上がっていると、私自身が強く感じた。

 

プロを評価し、合理性があれば信じて、任せてみる。

本当に、大事なことだと思う。

特に、これからの世の中は、専門分化がもっと進んでいくだろうから。

 

 

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(2024/12/6更新)

 

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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