佐々木 裕馬さん、という起業家がいる。
めっぽう変わった方で、少し前まで「失業率60%の国」ジブチにいたが、とつぜん最近、エチオピアで電動バイク販売のスタートアップを立ち上げた。(写真中央)
エチオピアという国は総人口が約1.1億人でアフリカで2位。
しかし、そのほとんどが若者で、中位数年齢が19歳(日本は48歳)と、日本よりかなり若い。
GDPはアフリカ大陸の中で7位(2022年)と上位に位置し、急成長している国だ。
こういう国であるから、佐々木さんの電動バイクの事業は、立ち上げ好調だったようで、8月1日の発売開始から3週間で50台の初期ロットを売り切ってしまったと聞いた。
余談になるが、きわめて市場の可能性が大きいことから、関係者がかなり興奮しており、追加投資がかなり集まっている。
アフリカでの事業展開に興味のある方は問い合わせてみてほしい。
エチオピア人の気質は日本人そっくり
さて、ここからが本題だ。
佐々木さんから事業の話を聴く中で、私が興味を持ったのが、カルチャーや、そこに住む人の気質だ。
佐々木さんによると、「エチオピア人の気質は日本人そっくり」だという。
「はっきりとモノを言わない」ところなどが、特に似ている。
例えば、佐々木さんは暑がりなので、オフィスでは窓の近くに座っている。
とはいえ、首都のアジスアベバは標高2300メートルのところにあり、日本よりかなり涼しいので、窓を開けっぱなしにしていると肌寒いこともある。
そんな時、社員がみな「Yuma寒くないの?」と、心配そうに言ってきたのだそうだ。
最初はすごい気をつかってもらっているのだと思って、「大丈夫、大丈夫」などと言っていたし、
「すごい気づかいの人たちだなー」
と思っていたら、後で聞いた話は全く違っていた。
実は、彼らが本当に言いたかったのは、実は「Yuma、寒いから早く窓閉めて」だった。
後から佐々木さんはそれを知って、愕然としたという。
京都か。
日本のアニメのTシャツだね、いいね! → 褒めてない
こんなこともあった。
佐々木さんは普段、ラフな服装を好んで着ており、アニメ柄のTシャツを着ることもある。
そんな時は、社員たちが、「日本のアニメのTシャツだね、いいね!」とほめてくれた。
しかし、これも後から聞くと
「CEOなんだから、ワイシャツ着ろよ。」
という意味だったという。
難しすぎる。
エチオピアでは、褒め言葉を迂闊に信じてはいけない。
また、佐々木さんは、エチオピアの多くの店で生ビールを置いていないことに不満だった。
どのホテルにも、どのレストランにもないのだ。
それをある時、社員に話した。
「この国に唯一文句あるとすれば、お店に生ビールがおいてないことだよなあ」
すると、社員たちは、こう答えた。
「それはYumaが、いいお店しか行かないからだよ(笑)」と。
佐々木さんは、特に他意もなく、ジョークを言っただけのつもりで、社員も笑顔で受け答えしていた。
が、後で社員たちの言葉の意味を知って佐々木さんは青ざめた。
実は、エチオピアの生ビール(ドラフトビール)は安酒を置いている店にしか存在しない、質の悪いビールだった。
だから高級店は一つ残らず、瓶ビールなのだ。
むしろ瓶ビールを飲んでいることは、ステータスの一つと言える。
だから「生ビールおいてないよなあ」という発言は、「俺は高級店しか行かないぜ!」と、マウントを取ってるのと同じだった。
佐々木さんは、それを知って、顔から火が出る思いだったという。
社員の笑顔がキツイ……
エチオピアは「気遣いの国」
つまり、何かというとエチオピアは「気遣いの国」だ。
自分を主張せず、やんわりと相手に意図を伝える文化だ。
その気遣いの文化のおかげで、佐々木さんはアフリカの国々を10か国以上訪問したが、
「カスタマーサービスのレベルも、他国と比べて極めて高い」
という。
以前に書いたが、ジブチは「サービス」のレベルが低かった。
国で二番目の高級ホテルなのに、部屋の掃除はしない、フロントに頼んだことは忘れる、チェックインには1時間以上かかる、など信じられないような体験をした。
しかし、エチオピアはちがう。
また、エチオピアは、アフリカの国々の中で、唯一植民地になったことがない国だという事もあり、外国人に対する妙な劣等感がない。
「金持ってる外国人に、とりあえず媚びておけ」という雰囲気がゼロだ。
こんな伸びているマーケットで、しかも「気遣いのできる」エチオピア人たちとビジネスできたら、さぞかし楽しいだろう、ということで、佐々木さんはエチオピアで事業を始めることにしたという。
ただし、気遣いの気質にはデメリットもある。
例えば、その一つはエチオピア人は口癖が「そんなこと言っても、しょうがないじゃん」で、変化にはとても消極的な一面がある。
また、ディスカッションのときには、「ヒエラルキー」が重視される。
本当は、経営者としては、意見を出し合って、一番いい解を出したいが、エチオピア人は、自分の意見を堂々というカルチャーではない。
地位の低い人が主張しても「お前が何を言うんだ」という目で見られてしまう。
エチオピアの人たちに、上下関係なく意見を求めるならば、
「意見言わないとクビ」
くらい言わないと、意見を言おうとしない。
ただ総括すれば、エチオピアの人たちは、空気を読みすぎる傾向はあるが、言われたことはきちんとやる。
特に「マニュアル」があるような仕事では、コツコツと仕事をし、成果をあげる。
「でかい」は正義。
エチオピアはまだ発展途上のさなかなので、構造上、頑張れば頑張るほど報われる。
逆に、怠けるとチャンスはなくなる世界だから、みな上昇志向や、ステータスへの欲求が極めて強い。
例えば、日本にくらべて家も車も、「所有すること」に対する憧れが非常に強いという。
むしろ日本では「シェア」がクールだと言う風潮だが、エチオピアではそれが通用しない。
実際、エチオピアでは道が狭く、ガタガタなのに、多くの庶民は、「でっかいガソリン車」を欲しがる。
人気なのはアメ車的な車や、ランドクルーザーなどで、「効率」「省スペース」は商品の特性として、訴求力がない。
根本的な価値観は、「デカいは正義」だ。
そういう価値観だから、クルマは「最高スピード」が重要だ。
二輪車も同じで、エチオピアでは、バイク乗っている人がいちばん気にするのは、最高速だという。
佐々木さんはよく「このバイク、最高何キロ出る?」と聞かれたそうだ。
しかし、佐々木さんの商材のバイクは、あえて重厚長大ではなく
「電動」
「コンパクト」
「見た目はスクーター」
の逆張りで商売をしている。
当然、「なんで小さくて、弱そうなのに、価格高い(4割くらい高い)の?」と聞かれる。
「これは老人用だ」「女性用だ」と言われることもしばしば。
しかし、「でっかいガソリン車」には大きなデメリットがある。それはランニングコストの高さだ。
エチオピアは内陸国なので、輸入品の価格が非常に高い。
特に輸入車は日本よりはるかに高い。
例えば、ランドローバーは8000万円
ベンツは5000万円。
20年前のトヨタのヴィッツが、400万円もする。
同じように、ガソリンも輸入品なので、とても高いのだ。
いま、ガソリンの2輪車を使っている人は、UberEatsのようなデリバリーの仕事をしている人、いわゆる「ギグワーカー」が殆ど。
彼らは月の稼ぎが2万円~2万5千円程度なのに、そのうち1万円はガソリン代に消える。
いわば、ガソリン代を稼ぐために働いているようなものだ。
学がないと、搾取される
ところが、エチオピアはアフリカで一番、電気代が安い国でもある。
ナイル川の源流にあたる国なので、豊富な水力をもとにした発電がおこなわれており、周辺国に電力を売ってもいる。
だから、デリバリーを商売にしている人は、二輪車を電動にしたら、ランニングコストが、極端に言えば1/100になる。
「早く電動バイクに切り替えれば、初期コストなんて早々に回収でき、圧倒的に儲かる」のが目に見えている状態だ。
しかし、売れた初期ロット50台のうち、ギグワーカーが買ったのは一台もなかった。
買ってくれたのは、地元企業が7割、そして富裕の知識層が3割だった。
なぜ、いちばん得するはずのギグワーカーたちが、買っていないのか?
それは、はっきり言えば「学がない」からだ。
文字が読めず、計算ができないギグワーカーたちは、電動バイクにすると、どの程度コストが低くなって、どの程度儲かるか。
そういった「計算」ができない。
だから彼らは「周りが何を言っているか」でしか判断ができず、いつまでも損なガソリン二輪車に乗り続けている。
一方で、富裕の知識層は、買った電動バイクを自分の使わない日中に、二輪車をまだ買えないギグワーカーたちに貸し、カネを稼ぎまくっている。
電気代が極めて安いので、恐ろしく儲かるのだそうだ。
佐々木さんは、「いちばん電動バイクを必要としているはずのギグワーカーたちが買わず、計算高い富裕層が先に買っているのは皮肉だ」という。
いつの世でも、世界のどこでも、「学がない」のは搾取の対象となってしまう。
そうした時代を超えた課題の解消を、佐々木さんは夢見ている。
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【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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