りりちゃんのマニュアル

少し前に「頂き女子りりちゃん」が話題になった。この世の中には頂き女子というものがいて、頂けられてしまう「おぢ」がいるということだった。

 

正直、おれはあまりこの事件に興味をもっていなかった。おれには関わりのなさ過ぎる世界の話だからだ。しかし、ふと、次の記事を読んでしまった。

名古屋「22歳頂き女子」にだまされたおじさん2人が特別対談「僕らがバカだった。若い女子がおじさんとの“餃子の王将デート”を喜ぶはずがない」

 

なんととくべつな対談なのだろうか。おれは夢中になって読んでしまった。

そして、「りりちゃん」のマニュアルを読みたくなった。マニュアルくらいにしては判決が重いな、と思ったような気がしたし、どんな内容なのだろう。もちろん、マニュアルだけの罪ではないが。

 

して、おれはマニュアルを読んで驚いた。これはすごいな、と思った。どのようなすごさかというと、たとえば新入社員とかが、書類を作成するのにこれをお手本にすればいいのではないかというすごさだった。

おれにはこんな理路整然としたビジネス文書を書くことはできないな、と思った。文書作成に困っているビジネスパーソンは生成AIに頼るか、りりちゃんに頼るべきだ。

 

ちなみにおれが読んだのは以下のバージョンであって、これが真正なものかどうかはよくわからない。

https://archive.md/Owyye

これ以後は、上のテキストを読んでもらっていたらいいなという前提で書く。

 

おれは「おぢ」なのか?

さて、45歳男性のおれとしては、頂かれる側の「おぢ」的立場であるのが前提であろう。

しかし、それ以前の大前提として、「おれには金がないので頂かれるものがない」。が、それを別にして、「頂き女子」マニュアルを読んだ。どうにもおれには被害にあった「おぢ」たちに同情するところがある。とすると、おれも「おぢ」なのだろうか?

 

ただ、「おぢ」にも何種類かある。最悪なのは「テイカーおぢ」だ。

テイカ―おぢ

☆人に何も与えず、人から搾取することだけ考えている
☆頂ける確率99パーセント頂けない

☆このタイプのおぢにひっかかってしまって時間ロスしてる女の子多い

☆即切ってください。「死ね」と送ってから。

「テイカーおぢ」の特徴を読めば、「これは人間として付き合いたくないな」と思わせる内容だ。身近にいてほしくはない。

 

こういう人間に注意を喚起してくれる。すばらしいマニュアル。人間が「テイカ―おぢ」にならないように、このテキストを小学校の教科書に載せたほうがいいのではないか?

マッチャ―おぢ

☆こちらが与えた分(信頼関係構築コミット)だけ与え返してくれる(お金)

☆逆に、与えてる分が少ないと見返りを求められる

☆50〜250万までなら頂きやすい

ついで「マッチャーおぢ」なるものが出てくる。これは普通の人のように思える。思えるが、50~250万までなら頂きやすいらしい。この世の中はどうなっているのか。


ギバーおぢ

☆人に与えることを優先して考える

☆自分が与えてもらうことは基本考えてない
☆私の高額頂いてるおぢはみんなこれ

☆とりあえず神なのでこのおぢを手に入れたら頂き無双できる

☆信頼関係構築コミットがしっかりできていたら3桁の頂きがスムーズにできる

これが主な目的である「ギバーおぢ」らしい。神だ。「ギバーおぢ」の特徴はこう列挙されている。

はたしておれには(金がないという大前提を無視して)「ギバーおぢ」の要素があるのだろうか?

 

・独り身が多い
→独り身だ。

・全部自己責任の考え
→自己責任的な思考はしやすいが、他責思考も強そうだ。自分でもよくわからない。

・普通のサラリーマンが多い
→底辺だが普通のサラリーマンではある。

・仕事にやりがいを感じてなくて、ただなんとなく生活のために出社している
→これはそうやろ。

・毎日仕事行って帰って寝るだけを繰り返している
→まさにそうやろ。

・夢や希望がない
→実にそうやろ。

・お金の使い道がない
→馬券に使うが、「それが使い道と言えるのか?」と言われると答えに困る。

・自分にあまりお金をかける癖がない
→金自体ないし。

・寂しいと感じている
→寂しくはないというか、孤独を好む。

・癒しを欲しがっている
→癒しは欲しいだろ。

・自分の話を聞いてくれるような人が周りにあまりいない
→周りどころかネットにぶちまけているが。聞かれているかは知らない。

・清潔感は一応ある
→一応あるつもりです。

・ネット世界に興味無い(TwitterとかFacebookとか)
→残念、興味ありすぎる。

・モテたことがない
→幼稚園と小学生のころはモテたよ!

・恋愛経験が少ない
→少ない。

・熱中する趣味はない
→競馬とカープ。あと、将棋観戦とか、「おぢ」の趣味。

・女の子への理想が低い
→生意気なことを言うと、高いような気がする。

・気遣いをしてくれる
→するほうだと思いたい。

・こちら目線でいつも考えてくれる(待ち合わせ場所はそっちに合わせるよなど)
→考えるほうだと思いたい。

・無駄な誘いをしてこない
→誘うのは苦手。

・一人でいることが多い
→多い。

・一人暮らしの人が多い(実家暮らしでも頂いたことある)
→一人暮らし歴も長い。

・寂しいからLINE即レスで返してくる
→LINEは即レスする。

 

というわけで、けっこう当てはまっているような気はする。でも、肝心なところで当てはまっていないかもしれない。

しかし、部分的には、おれも寂しい「おぢ」なのかもしれない。おっさんはだれもが心に小さなギバー「おぢ」を飼っている。

で、いい「おぢ」を見つけると、「無害ガチ恋をつくる」信頼関係構築コミットという段階にすすむ。

信頼関係構築コミットとは…
おぢに世界で1番の特別感のある会話、行動をしてあげること。
↓↓
ぼく生きててよかったんだ
ぼくって存在価値あったんだ
この子のおかげで生きる理由に気づけた
この子との楽しい日々をもっと経験したい

更に「誰よりも信用できる女の子」になること
↓↓
こんなに純粋で信じれる子は他に居ない
この子ならなんでも信じられる

と思わせてあげることです

これは刺さるものがある。おれのような自分の存在価値が低い人間にはとくに。

 

でも、そんなに一方的になってしまうものか。やはり、おれはどうも理想の「おぢ」失格のような気がする。ギブ&テイクみたいなところがあるだろう、人間関係。あ、でも、こんなに存在価値を与えてくれるなら、お返しするというのも当然か。

……いや、信頼関係構築に至るまでの女性の設定も嘘だし、実際にお金を求める話も嘘だし、「当然か」ではないだろう。マニュアル読んだだけで、すでに騙されている。

 

年の差の交際はきもちわるいのか?

しかしなんだろう、この事件について、「おっさんが若い女の子とつきあえると思っているのがキモい」という意見もある。

たしかに、被害者も馬鹿だよな、と思われてもしかたないかもしれない。ただ、おれはこのマニュアルを読んで「こんなにやられたら騙されてしまうのもしかたないかも」などと思ってしまったわけだが。

 

とはいえ、年の差ってそんなにあれなんかね。おれは20代のころに20歳年上の女性と付き合い始めた。そういうこともある。

じゃあ、逆もあっていいのではないか。べつにおれはお金を頂いたわけでもない。それが目的ではなかった。逆ならだめというのも平等ではないように思うのだが。

 

モテたいっすね

まあ、それを置いといても、一つ、ちょっと、あれだな、これから書くことは忘れてもらいたいのだけれど、すべてのおっさんの心のどこかに、「自分だって若い女性にモテてもいいじゃないのか」という気持ちはないだろうか。

しょせん、なんの才能も、ろくな稼ぎも、理想的な人格も、よい見栄えもない……とか思いつつ、心のどっかに「なんかワンチャンあってもおかしくないんじゃないのか」みたいな、本当にちっぽけなゴミくずの小さなプライドはないだろうか。

 

いや、正直言って、おれにはある。ひょっとして、なんかちょっと、タイミングとか合って、話が合う、若い女の人と出会えること、つきあえることもあるのではないかって、ほんのちょっぴり、そんな気持ちがある。

自信とまではいかないが、可能性が0ではないというていどのなにかだ。

 

そして、このなにかがおれのなかにはあって、もし「何百万円も頂かれてしまうだけのお金を稼いでいる健常者のおっさんなら、もっとそう思っているんじゃないかな」と感じる。

 

人間は愚かで、男も愚かで、おっさんも愚かだ。愚かだけど、人間だもの。

ほんのちょっぴり、そういうところがあるんじゃないかって、消えてしまいそうな淡い期待があって、そこにバキバキに仕上がった頂き女子が現れたら……。

そりゃあきついよ。負けてしまうよ。下心、もっと率直に言えば性欲に負ける、そういう部分もあるだろう。

 

でも、それ以上のものに負けるんだよ。もっとなにか、生きてきたすべて、人生のすべて、それに負けてしまうんだ。

悲しいな。悲しいけれど、それが現実だろう。われわれおっさんは、りりちゃんの人間力に負けてしまう。主語が大きいか?

 

「おぢ」はどう生きるべきか

最初のほうに書いた騙され「おぢ」二人の対談。おれは「このおじさん二人でタッグを組んで婚活の荒波を乗り越えていってほしい」と書いた。わりと本心だ。

 

おれは婚活というものがわからない。身長、収入、学歴、なにもかも足りない。足切りどころか頭をはねられてしまうようなレベルだ。

そもそも、ある人を好きになって、つきあいたい、結婚したいという流れならわからないでもない。ただ、先に結婚という目的があるという心がよくわからない。

 

が、このよくわからない心に多くの人が悩んでいる。そして、婚活という地獄に飛び込んでいく。

先に人を好きになるのなら、ほかのものは後からついてくる。でも、婚活という目的が先にあると、スペックが先に出てくる。姿も形もない対象を求めるのだ。

 

できたらスペックが高いほうがいいだろう。男女双方、そうなってしまう。だから地獄だ。

ただでさえ地獄とは他人のことだ。そこに立ち向かわなければいけない。

 

もちろん、そこで傷つくものもいる。癒そうとするものもいる。その癒しが、頂き女子……とか言ったら変な話になる。

それにしても、いったいどんな金額が頂かれているのか。どうなっているんだ。そのお金はどこに行くのだ?

 

こうなったら、もう、「おぢ」が直接ホストクラブに行けばいいのではないか? あるいは「おぢ」が直接湘南美容クリニックに行けばいいのではないか? 間違っているか? いや、後者は効果があるかもしれない。

 

そして、「おぢ」は「おぢ」同士仲良くなって、「こんなLINEきたけど、どうかな?」とか協力して戦う必要があるかもしれない。でも、「おぢ」は「おぢ」同士なかよくなるのがむずかしい存在のような気もする。

 

人間には人間のことがわからない。ただ、頂き女子だけが「おぢ」の心を知っているのかもしれない。

冷めたるココアのひと匙を啜りて、そのうすにがき舌触りに、おれも知る、「おぢ」のかなしき、かなしき心を。

 

 

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【著者プロフィール】

著者名:黄金頭

横浜市中区在住、そして勤務の低賃金DTP労働者。『関内関外日記』というブログをいくらか長く書いている。

趣味は競馬、好きな球団はカープ。名前の由来はすばらしいサラブレッドから。

双極性障害II型。

ブログ:関内関外日記

Twitter:黄金頭

Photo by :Tetiana SHYSHKINA