この記事で書きたいことは、大体以下のようなことです。

 

・これまで料理スキル皆無だったんですが、40過ぎになって料理を始めて4年ほど経ちました

・4年間で、ほんの少しの料理スキルと、「自分は炊事について本当に何も分かっていなかった」という気づきを得られました

・今まで「食事の準備」というのはほぼイコール「料理」だと思っていました

・食事の担当を頻繁にするようになって、「料理」というのは「食事の準備」のほんの一分野に過ぎず、他に重要なスキルが山ほどあるのだということにようやく気づきました

・「食事の準備」はタスク整理とスケジュール管理と在庫管理の塊でした

・これを長期にわたって継続してる人は本当に凄いと思います

・この年齢になると初学者の立場になる機会がとても貴重なので、今後もがんがん初学者になっていきたいと思います

 

以上です。よろしくお願いします。

 

さて、書きたいことは最初に全部書いてしまったので、あとはざっくばらんにいきましょう。

手前味噌で恐縮なのですが、4年くらい前、こんな記事を書きました。

40歳で料理を始めてみたら「パソコンを起動できないおじさん」の気持ちがわかった件。

家事の守備範囲分担を言い訳に、火の使用が出来ないレベルで「料理」というものから逃げ回っていた40代男が、コロナ禍と在宅勤務を機として家事タスクの偏り是正の為に料理を始めた、という話ですね。

 

上記記事でも書きましたが、しんざきは本当に殆ど料理が出来ませんでした。別にずっと実家暮らしをしていたわけでもなく、バーの二階に住んだり東京に出たり就職したり、一人暮らしをしていた時期もそれなりにあったんですが、その間もほぼ炊事というものはしておらず、大体節分豆ともずくを食って生存していました(これは比喩ではなく本当に節分豆ともずくだけを食べていたのですが、横道なので一旦省きます)

 

この記事を書いてから4年ほど経ちました。

この4年間、妻のタスク状況によっては月に7割くらいのペースで私が食事の準備を担当するようになり、それなりの頻度で料理もしてきました。

料理に対する苦手意識も徐々に消えてきまして、「今日ちょっと遅くなりそう」「じゃあ作っとく」くらいの気楽さで緊急対応的な炊事も出来るようになりましたし、複数の料理を同時並行で仕上げる作業にも多少は慣れてきました。あと、「事前にレシピを用意してその材料を準備する」ではなく、「冷蔵庫に残っているものから夕飯をでっちあげる」ということがある程度出来るようになりました。

発生当初の単細胞生物から中原生代の多細胞生物くらいには進化出来たのではないかと自負しています。

 

で、その過程で、「いかに今までの自分が何も分かっていなかったか」ということもだんだん分かってきました。

無知の知ではないですが、「自分が何を知らないか」を知るのは案外難しいことです。その為には、自分の知識を現実とすりあわせる作業、例えば言語化やら議論やらライトニングトークやら、なんらかの出力作業を行わないといけません。今回の場合、その「出力作業」が料理と食事の準備でした。

今回私が得た気づきは、社会の大多数の人には当たり前の話なのかも知れないですが、個人的には大きな発見だったのでちゃんと言語化してみたいと思います。

 

まず一つ、

「そもそも「料理」というのは「食事の準備」という大目的の中のほんの一部に過ぎなかった」

という点です。

私は今まで、「食事の準備」というのはニアリイコールで「料理」のことだと思っていました。具材を刻んで整形して、煮るなり焼くなり揚げるなりしてから味付けをして食べられるようにする、それがタスクの大半だと思っていました。

大間違いでした。食事の準備というのは、料理を含んでいつつも遥かに広大なスキル群でした。

 

まず、「食材のやり繰り」と「スケジュール調整」というものがあります。

子どもがいる家庭では特に顕著なことだと思うのですが、家庭運営の上ではイレギュラーな事態が頻繁に発生します。仕事の都合で私や妻が遅くなることもあれば、子どもが体調を崩して手が離せなくなることもある。買い物をして帰ってくるつもりがスーパーに寄る暇すらなかったとか、妻が急に遅くなったので急いで夕飯を準備しないといけなくなったとか、幾らでも予定外の事象が発生するわけです。

 

となると、「作る料理を決めて、レシピを調べて、その料理の材料を準備して」などと悠長なことをやっていられないことなどいくらでも発生します。

仕事が遅れると食事の準備に響きます。食事の準備が遅れると子どもが寝るのが遅くなります。どうしても急ぎで、ということでコンビニに走って既製品を買ってくると金銭面のダメージが蓄積します。

 

そういう時、

「今、家にあるもので何が作れるか」

「どうやれば、可能な限り早く、出来ればそれなりに美味しい食事が用意出来るか」

「今ある食材を使ってしまって、明日の朝食の対応は可能か」

「どうしても足りない食材はどうやってごまかすか」

といった、極めてハイレベルな判断とやり繰りが発生します。

 

子どもの好き嫌いやアレルギーの問題だってあるでしょうし、当然栄養バランスの話もあります。嫌いなものを無理くり食べさせるのは大変しんどいですが、かといって好きなものばかり食べさせていると栄養が偏ります。どうやって最低限必要な栄養を食事で確保するかというのも、殆どパズルの域です。

これ、やってる人には当たり前のことなのかも知れないですが、冷静に考えると物凄く難易度が高いし、習熟も必要なことだと思うんですよ。

 

別にイレギュラーケースに限らず、長期的に食事運営をするならなるべくコストも削減したいですし、となると自然と「何をどの店で調達すればコストが安くなるのか」という判断もすることになります。

かつて私は「40円安いだけで店を選ぶ必要あるのかな」などと思っていましたが、これこそ無知of無知というもので、40円でも250回重ねれば1万円になるわけです。そして、日々の食事の準備の上では、250回というのは「あっという間」です。大きく距離が変わらないなら、そりゃ安い店を選んだ方がいいに決まっています。

「今家にある食材や調味料の把握」
「実現可能な範囲で、それなりに栄養もとれて、子どもが食べてくれる献立の判断」
「不足している食材の代替方法の案出」
「調理時間と他の家事タスクの優先度判断」
「食材の最適な調達手段とそのコストの判断」

といった、いわゆる「料理」以前の段階での対応が、滅茶苦茶な短納期で求められる。

しかもこれがほぼ毎日、場合によっては朝昼晩の3回発生する。

 

「マジか」って感じでした。小規模なプロジェクトマネジメントを延々続けるようなものです。これを不断にやり続けている家庭人の皆様本当にすごいし、当然うちの妻も凄い。もう心の底から感謝するしかない。

 

また、これも当たり前のようで私にとっては当たり前でなかったことなのですが、「ごく当然のようにマルチタスクが時間制限つきで発生する」ということもあります。

「多少は料理が出来るようになった」と思った当初、最大の問題点は「品数を増やせねえ」ということでした。余りにも調理スキルが低いので、一度に一つの作業しか出来ず、何品も作ろうとするとそれだけでやたら時間を食ってしまうのです。

「カレー作った」「チャーハン作った」だけでは、基本「食事」は成立しないというか、まあそれだけでご飯に出来ないことはないけど長期的に見ると栄養面でちょっとな、という感じになります。

 

当然「出来合いの惣菜を買ってくる」とか「とりあえず豆腐だけ切って冷や奴として出す」「カットキャベツをサラダ代わりにする」といった様々な解決法がありますし、現在でもそれらの手段を駆使してはいるのですが、とはいえ「料理を同時並行で数品目作る」という手段を選べるか選べないかでは、コストもクオリティも天地の差があります。

となると、「この調理のこの工程を進める内に、こっちの調理の工程をここまで実施」みたいなマルチスレッド対応を山のように、しかも極めて短いスパンでループする必要があるわけで、これをある程度こなせるようになるだけで2年くらいかかりました。自分の工程のシーケンス図が必要。

 

当然のことながら、「食器の準備」とか「後片付け」も重要な工程ですし、収納をどう解決するかだって脳のコストを使う問題です。

しんざき家では基本的に「自分の食器は自分で洗って片付ける」という制度をとっており、子どもたちにも後片付けはきちんとさせているとはいえ、やはり「次の食事に向けて体勢を整える」となるとそれなりに労力もかかりますし頭も使います。

ちなみに、ちょっと各論になるんですが、いわゆる「調理」スキルとして一番でかいと思っているのは、「揚げ物が苦にならなくなった」という点かも知れないな、と思っています。

特に鳥のから揚げは子どもたち全員大好物で、鶏肉が1kgあっても割とあっという間に消費され尽くしてしまうので、定期的に業務スーパーで冷凍鳥ももを補充してきています。業務スーパーは神。

その他、「自分で食事の準備をするようになって初めて気づいたこと」というのは山のようにあって、40年生きてきて何やってたんだと思う一方、大きなトラブルがなければまだ向こう数十年は人生が続く可能性が高いわけでして、気づかないままより気づいた方が1万倍マシだった、ということも確かです。

その点、ここ4年間、非常に貴重な経験が出来たなあと心から思う次第なのです。引き続き頑張ります。

 

***

 

話が料理から逸れるのですが、それがどんな分野であれ、「初学者になる機会」というのは非常に貴重です。

学ぶという行為にはコストがかかります。脳は基本的に怠惰なので、油断するとすぐ「今持っているスキル」だけでやり繰りをしようとし始めます。「なんも分からん、どうしよう」というところからの自分なりの解決法を、脳が忘れてしまうのです。

となると、自分が学習する効率も下がるし、他人に何かを教える際、「何も分からない」という状態に共感しにくくもなる。新入社員の指導において、これ滅茶苦茶重要な要素だと思うんですよ。

 

初学者の気持ちは、初学者にならないと実感出来ません。そして、「新たな何かに挑戦する」ことのコストや心理的なハードルは、時間が経つ程に上がっていきます。

だから、多少無理矢理にでも、「まっさらな状態から学び始める」機会をなるべく作っていく必要がある。何も分からない、を定期的に体験しておく必要がある。

その点でも、今回「料理」という滅茶苦茶に広く一般的な分野を新たに開拓出来ているのはとても幸運なことで、この点だけはコロナ禍に感謝してもいいかも知れないなと、そう考えているわけです。

 

幸いというべきか、私は割と知識が偏っているというか、社会的常識にところどころ大穴が開いているタイプなので、この先も「初学者」に身を置くチャンスは少なくなさそうです。人生あと何年あるのか知りませんが、なるべく色んな分野で自分の無知を打破していきたいと考える次第です。

今日書きたいことはそれくらいです。

 

 

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(2024/12/6更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ:不倒城