最近、「病院の待ち時間」に関して、Xで論争が巻き起こった。
発端と思われるポストはこれだ。10万いいねがついている。
みんな勘違いしてるけど病院の予約時間って『この時間に診れますよ』じゃなくて『この時間には院内にいてくださいね』の時間なのよ。他患者の具合によってはすぐ診れるときもあれば待つときもある。レストランの予約時間とは違うのよさ。
— 早くやめた医 (@DrYametai) September 20, 2024
それに対し、医者へのヘイト高めの反論がつき、さらに「いや医療っていうのはさ」という反論がつき……と拡散され続けている。
商売やってる身からすると有り得ない話。有料ファストパスを導入したり、順番待ちがわかるシステムを入れたり、せめて待合室に机を置いて仕事ができるようにするとか、患者側の視点が欲しいものです。仮に待ち時間を解消できなくても、ストレスを減らす方法はあるだろうに。 https://t.co/P18cAt4Cuy
— ゆる麻布 (@yuruazabu) September 22, 2024
医者ってこうやって他業種(今回はレストラン)をナチュラルに見下す
そもそも予約時間過ぎても毎回待たせるのなら、時間枠あたりの人数設定がおかしいのにそれを見直しするつもりもない
医者の時間は貴重だけど患者の時間はたいした価値がないと思っているからこんなこと言えるんだろうな https://t.co/S6Vly1vN5U
— 泰ちゃん@元エンジニアのママ経営者 (@taichan51707057) September 21, 2024
うーん。申し訳ないのですが、病院はホテルではないので、待合室で仕事をされては困ります。その机を置くスペースはベンチを置いて少しでも座れるようにします
順番待ちのシステムはあります。
あと、有料ファストパスは医療の公平性の観点から厳しいです。ファストパスは具合の悪い方を優先します https://t.co/e7WkKoQCSj
— 北里紗月 小説家・臨床検査技師・胚培養士 (@kitazatosatuki) September 22, 2024
その後は社会保険料や医療費などの話に拡大しているが、今回は「病院の待ち時間」に限定して、思うところを書いていきたい。
この議論を眺めていたわたしの感想は、こうだ。
「どんな状況でも自分をお客様だと考えるクレーマーばっかりで大変だなぁ。そんなんだから、業務の合理化が進まないんだ」
数時間待てば診てもらえる日本は恵まれている
もちろん、だれだって病院での用事なんて早く終わらせたい。待ち時間は少ないほうがいいに決まってる。
とはいえ病院は突発的なトラブルばかりが起こる場所だから、待つのは当たり前なのだ。
産婦人科で待っているとき、お腹を抑えながらうめき声を上げる女性が駆け込んできて、すぐに処置室に案内されていた。
それを見ても、割り込まれたことに腹が立ったりはしない。心配はするけど。逆に、自分が急患になることだってある。病院とはそういうところだ。
そもそも、数時間待つだけで診てもらえるなんて、恵まれているじゃないか。
わたしが住んでいるドイツでは、メガネで耳がただれて腕時計で発疹が出たので金属アレルギーを疑い皮膚科に連絡したところ、4軒断られ、ようやく予約できたのは3か月後。
しかも2月に電話して予約できたのは5月。「金属アレルギーの検査は数日間シャワーを浴びれないので、夏の期間はできません」と断られて、開いた口がふさがらなかった。
妊娠がわかって産婦人科を探したときも門前払いが続き、どうにか頼み込んで診てもらえることになったのは3週間後。すでに妊娠してる、甲状腺の持病があるからすぐに検査してほしい、と言っても「新患は受け付けません」の一点張り。
そういう国で生活しているから、「数時間待つくらいでごちゃごちゃ言うな」というのが正直なところだ。
さらにいえば、日本の病院(外来)は基本的に患者を拒否しないから、病院はサービスを向上するメリットがほとんどない。客を呼び込みたい飲食店やホテル業とはちがい、なにもしなくとも患者が来るのだから。
というか、サービスに労力やコストを割けるほどの余裕がないところも多いんじゃないだろうか。つねに人手不足だし。
だから、「待合室で仕事ができるようにしてほしい」なんて意見を見て、ちょっと笑ってしまった。そんなことして、病院になんのメリットがあるの?と。
たとえそれが叶ったとしても、得をするのは患者だけじゃないか。
診てもらえなくて困るのは患者なのに、患者目線で「快適にしろ」と要求するのは、いかにもクレーマーの思考回路という感じだ。
そうではなくて、「業務を簡易化して医療従事者の負担が減った結果、患者の待ち時間が減る」というような、両方が得をする方向で考えていけばいいのに。
病院の業務簡易化が患者の利益になる
ドイツでは今年から、電子処方箋が義務化された。(日本でも部分的に導入されているようだが、4年ほど帰国していないので詳細はわからない)。
いやもう、これが本当に便利でね。
たとえば、毎日飲んでいる甲状腺の薬がなくなったとき。
かかりつけ医に「この薬の処方箋をください」というメールを送る。同時に、近所の薬局にその薬をオンラインで注文する。
数時間後、医者から「処方箋を書きました」という返信が届き、薬局からも「16時以降受け取り可」の連絡が来る。
薬局に行って薬剤師に保険証を見せれば、保険証に送られている電子処方箋を確認後、注文していた薬を出してもらえる。ちなみに翌日でもよければ、無料で薬の配送も可能。アプリで事前登録すれば、代理人が薬を受け取ることもできる。
以前は毎回病院に行って1時間待って処方箋を受け取って、薬局に行って、薬がなければまた出直して……だったから、本当に楽になった。
連邦保健省によると、処方箋の電子化は、
・患者は病院への訪問回数が減る
・病院は署名や書類のやり取りが不要になり薬の管理がしやすくなることで、日常業務が簡素化される
と書かれている。
患者にとっても病院にとってもメリットがある改革だ。
ちなみに血液検査の結果も電話で教えてくれるし、薬が変わる場合その指示も電話で終わる。
産婦人科医が「甲状腺の数値が高すぎるからかかりつけ医にこれを見せて相談してね」と、メールで検査結果を送ってくれたこともあった。胎児のエコー検査では、その場で胎児の様子をスクショし、アプリ経由でわたしに送信。
患者としてもめっちゃ楽だし、病院としても患者の来訪数が減るうえ、処方箋を印刷したり署名したりする手間もなくなる。診察時間外に電話やメールでどんどん仕事をさばける。
つまり、業務の効率化が結果的に患者の利益になっているのだ。
だから今回の議論でも、「患者が待たなくて済むように」よりも、「医療現場の仕事が効率化され、医療従事者の負担が減った結果、患者の待ち時間が減るといいね」という方向で話が盛り上がればなぁ、と思うわけだ。
電子処方箋にかぎらず、議論の方向性として。
病院にクレームを入れるより、業務簡易化の援護射撃を
そもそも優先度でいえば、どう考えたって、業務の簡易化>患者の待ち時間短縮である。
仕事量が減れば必然的に診療できる患者が増え、待ち時間は減る。
一方で、待ち時間を減らすために病院内の仕事が増えれば、結局は手が回らずに患者の不利益になる。
それなのに、「客である患者の満足度」のために、非合理的であっても病院の「サービス向上」を求めるのって、誰得なんだろう?と思う。
もちろん、「こうだったらいいなぁ」と要望を伝えること自体は問題ない。病院が患者をどう扱ってもいいわけでもない。
とはいえ病院側にはサービス向上の要求を受け入れるメリットが少なすぎるから、「なに言ってんだ……」と白い目で見られるだけ。
それならもっと、「両方の得になるように」って考えたほうがいいと思う。
待ち時間を短縮するために患者の受け入れ人数自体が減ったり、ファストパスで金積んだもの勝ちになれば貧困層が診てもらえなくなったりしたら、困るのはこっちだし……。
改めて書くけど、数時間待っただけで診てもらえるなんて恵まれてるからね。
門前払いされて途方に暮れる経験なんて、日本ではしたことなかったよ……。
むしろ、待ち時間減らしてガンガンさばいていきたいのは病院側だと思うんだよな。だってそうしなきゃ、自分たちの仕事が終わらないもの。
でも病院は、医療は、そうはいかないんだよ。とくに来るもの拒まずの日本の医療現場は。
だから声を上げるなら、「病院は待たせすぎ! 時間を守れ! 患者をなんだと思ってるんだ!」ってクレームじゃなくてさ。
「業務を効率化してどんどん診てくれ! なんでそれができないんだ!? 制度改革しろ!」のほうじゃないかな。
医療従事者たちが「こうしたい」と思っても、いろんなルールで縛られてむずかしい場合も多いはず。患者として来院する人たちは、そこで声を上げて援護すればいい。
理想論ではあるにせよ、病院側と患者は敵同士ではなく、本来はともに病気やケガと戦う仲間のはず。
業務を効率化して現場の負担が減って、結果的に患者に還元されていくほうが、みんなにとって得だよ。絶対。
それでも納得がいかないなら、プライベート保険に入ってアメリカに行って札束を積もう!
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。

<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【今回のトーク概要】
- 0. オープニング(5分)
自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」 - 1. 事業再生の現場から(20分)
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例 - 2. 地方創生と事業再生(10分)
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む - 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説 - 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論 - 5. 経営企画の三原則(5分)
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する - 6. まとめ(5分)
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)
【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
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ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
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