単なるオンラインゲームの思い出話をします。

 

昔、大航海時代オンラインというゲームをやっていました。やっていましたというか、かなり長期間の休止を挟みつつ、今でもたまーーに復帰することがあります。

といっても、最後にログインしたのが2年半前とかなので、ほぼ引退状態といっても相違はないように思います。

 

大体において、MMORPGにおいて「引退します!」と華々しく宣言した人の8割方は数日後には戻ってきているもので、私のようにふらっと消えてそのまま戻ってこない、というような引退者のほうが多いもんです。

「引退常連」「引退ベテラン」などという矛盾した用語が存在し、「4週間ぶり7回目の引退!」などという謎の称えられ方をするプレイヤーもいました。正直意味が分かりません。

 

大航海時代オンラインは、文字通り大航海時代をテーマにしたゲームでして、光栄の大名作である「大航海時代」シリーズの流れをそのまま汲んでいます。

プレイヤーは、ポルトガルやイスパニアなどの所属国を選んで、冒険に交易に海戦にと、大航海時代の提督となって世界の海を渡り歩いたり、バルセロナとパルマの間をひたすら往復したりします。

 

大航海時代オンラインはMMORPGなので、当然自分以外にも色んなプレイヤーがいて、世界中を駆け回っています。で、時にはプレイヤー同士協力したり、時には喧嘩したりします。割合でいうと喧嘩することの方がかなり多いです。

 

大航海時代オンラインの要素の一つ、交易では「相場」の概念がありまして、ある商品を大量に売ると相場が大暴落したり、逆に大量に買い付けると相場が暴騰したりします。

インドから苦労して宝石や香辛料を買い付けて、必死の思いでヨーロッパまで戻ってきて、さあどかーんと利益を挙げるぞ、と思ったら他の航海者が目当ての港で目当ての交易品を売り払って相場暴落、「うぎゃーー」とか「くけーー」とか悲鳴が上がる、なんてこともよくある話でした。インド – ヨーロッパでの胡椒交易時代、懐かしいですよね。

 

業者との闘いの話をします。

色んなMMORPGに共通する話だと思うんですが、大航海時代オンラインには「RMT」と「業者」という問題がありました。

RMTというのはリアルマネートレードの略で、ゲーム内の通貨を現実の通貨で売買しようとするものです。

ゲームでお金を稼ぐのは大変なので、リアルマネーで大金を入手して楽をしてしまえ、というヤツです。ゲーム内経済を簡単に崩し得る要素でして、大抵のMMORPGでは規約で禁止されています。

 

一方、そのRMTで稼ぐことが出来る現実の利益を得る為に、「業者」の存在というものもありました。

大抵は大陸の業者でして、朝から晩までただひたすらゲーム内交易品を運び続け、ただただ機械的にゲーム内通貨を稼ぎ、それをネットで売り払ってお金に換える。その過程で相場も荒らしまわる。

 

なんだかんだでゲーム内通貨の需要は高いので、そういった業者を利用するプレイヤーも多い中、大半のプレイヤーは業者の存在を苦々しく思っていました。

業者は規約など屁とも思いませんし、仕事なので24時間体制で稼ぎ続けますし、コミュニケーションが取れない為周囲に気を遣うこともしませんし、当然マナーなど一切ありません。

大体において、業者が落とす通貨は「中〇マネー」などと呼ばれて忌み嫌われていたのです。

 

大航海時代オンラインでは、立地の関係上ポルトガルのリスボンに人が集まるのですが、リスボンで日本語の怪しいプレイヤーが「胡椒木下」とか「宝石木下」(注:高く売れる交易品を銀行前の木の下で売っているから皆買いに来てね、という意味)などとシャウトしているのを目撃しては、「あいつらに一泡吹かせたい」と思っているプレイヤーも多かったわけです。

 

大航海時代オンラインには、「海賊」というシステムがあります。

いわゆるPK(プレイヤーキラー)でして、地中海などの非戦地域以外では、他プレイヤーの艦隊を襲うことが出来ます。襲って拿捕することが出来れば、相手が運んでいる商品や金品、アイテムなどを奪うことが出来ます。

 

当然のことながら、腕に覚えがあるプレイヤーの中には、「業者艦隊を狩ってやれ」と考える人がたくさんいました。

業者艦隊は利益最重視なので、商船5隻での行動が殆どであり、牽引する船以外は殆ど水夫も載せていませんでした。捕捉して、海戦を仕掛けることさえ出来れば美味しい相手だったのです。

ただし、業者もさるもので、PKから逃れる為に様々な対策を打ってきました。

 

海賊に追われそうになったら素早くログアウトしてしまう、などというのは序の口。

時間を調整して人が少ない時間帯に危険海域を通ったりとか、囮の船を用意してその船で海賊に戦闘をしかけている間に逃げてしまう、危険な海域に一見無関係の船を配置しておいて海域を検索させて、業者狩り目当ての艦隊を見つけたら海域を迂回してしまう。

とにかく様々な対策をとってくる業者艦隊は、膨大にある業務時間を背景に、するりするりと海賊たちの手をすり抜け続けました。

 

「こいつらを狩るのは一筋縄ではいかない」と、海賊たちは考えました。相手が数と時間の力を使ってくるならば、こちらも数と時間の力を使わなくてはいけない。

当初は横の連携など皆無だった海賊勢力は、「業者狩るべし」という、ただそれだけの目的の為に一時の団結をしました。

国家関係なく、業者狩りの為のみのチャットが作られ(今からはよくわからないと思いますが、当時はゲーム外の「IRC」というチャットソフトが使われていました)、「どうやって大陸業者を狩るか」というただ一つのテーマの為に、それぞれが知恵を絞り、話し合いました。

 

恐らく、当時IRCチャンネルは一つではなく、複数のチャンネルで同じようなことをやっていたのだと思います。

そういう私も、面白半分ではありましたが、業者対策に無駄な情熱を燃やすメンバーの一人でした。私は、海賊チャットの中の一つのIRCチャンネルに所属していました。

 

あれは、PDCAでした。しかも、非常にサイクルの短いPDCAでした。「こうするのはどうだろう?」という提案が、すぐさま検討され、実行に移されました。結果は即座にフィードバックされ、改善策が検討されました。

「お前らその無駄な情熱を実生活の仕事で使え」と思った人の数は一人や二人ではなかった筈です。私もそう思いました。

 

当時、交易の中心はインドのカリカット、セイロンでした。カリカットやセイロンで大量の胡椒やルビー、サファイアを買い付け、ヨーロッパに持ってきて売り払う、というのが大陸業者の典型的な行動でした。

 

海賊連盟が行った業者狩り方策は、多岐に渡っていました。

 

・インド海域に監視員を配置し、業者の行動を共有する

・カリカットやセイロンを封鎖して業者の行動を阻害する

・RMTサイトの在庫を監視し、業者艦隊の行動タイミングを予測する

・RMTの取引をする振りをして業者のキャラクターを把握する

・業者とのコミュニケーションを図り、業者の行動についての情報を得る

・複数艦隊で連携しつつ業者艦隊の帰路を狙う

 

効果がある作戦もあれば、あんまり意味のない作戦もありました。

中には、中国語が堪能な一部のメンバーが、業者間の情報交換の振りをして中国語でコミュニケーションを図る、などという作戦もありました。警戒されちゃってうまくいきませんでしたが。

 

そんな中、様々な提案を複合して、「必殺」とも「芸術」ともいわれる、一つの作戦が生み出されました。私は、今でもあの作戦の成立を一つの奇跡だと思っています。

その手順は以下のようなものです。

 

1.業者の出発を観測し、大体の経路を把握する

2.途中の経路を観測艦隊が回遊しタイミングを計る

3.最初から海賊艦隊が海域にいると警戒されるので、海賊艦隊はログアウトした状態で待機する

4.中華艦隊が通りかかったら、PKの色がついていない捨て艦隊が近づき、すれ違い様に交戦して相手を足止め、援軍を募集する

5.連絡を受けた海賊艦隊が即座にログインし、援軍という形で交戦して業者艦隊を根こそぎ拿捕する

 

数々のPDCAの結実となるこの戦法の効果は抜群で、当時我々はいくつもの業者艦隊を捕捉し、拿捕しました。

その度に、海賊チャットには「〇〇艦隊拿捕成功!」という報告と快哉が響きました。海賊チャットは一体感にあふれ、「風・・・なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、俺たちのほうに」という風情でした。

 

それは一つの勝利でした。一つの成果でした。当時そのサーバーでは、一時的とはいえ業者の活動が激減、RMT在庫の枯渇を達成すらしたのです。

残念ながら、一時の成功はその後の凋落とワンセットでもあります。

 

その後海賊IRCチャットは、

捨て艦隊担当の持ち回りトラブル、

収奪した交易品の分配トラブル、

メンバーの飽きとダレ、

ニートだった一部メンバーに対する親の必死の説得と就職、

そして何よりも中心メンバーの一人が女性メンバーに言い寄ってオフで会おうとして相手が既婚者だったと判明、旦那にも見つかって不倫トラブルになるという、数々のおもしろ案件の末瓦解。

結局また業者艦隊が跋扈する結果に無事落ち着いたわけですが、まあそれはそれ。金と女で内輪もめ、というのも海賊らしくてとても良かったと思います。

 

ゲーム目的とは全く、完全に無関係の活動ではありましたが、当時の海賊同盟とPDCAが底抜けに面白かったことは間違いありません。

その後、大航海時代オンラインでも数々のルール変更が行われ、当時のような業者狩りというのは殆ど行われなくなりました。

RMT需要の低下に伴って、今では業者自体殆どいないのではないかと思います。過ぎ去った盛衰を思い起こすのは、寂しくもあり、懐かしくもあります。

 

大航海時代オンライン面白かったですよね、という、本当にただそれだけの話でした。

皆さんもよかったら遊んでみてください、大航海時代オンライン。あとシブサワコウアーカイブスのSteam版大航海時代IIも超面白いです。

 

シブサワコウアーカイブス

https://www.gamecity.ne.jp/shibusawa-kou/archives.html

 

基礎からのSteam版大航海時代II講座・まとめ

http://mubou.seesaa.net/article/454588710.html

 

今日書きたいことはそれくらいです。

 

【プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ:不倒城

(Photo:Stefania_Lioy(InFame)