年末から年始にかけて、仕事がないのでほとんどTwitterばかり見ていたせいで、「ケータイ見てニヤニヤしてんじゃないよ」と、家族に怒られた。

 

そんな事言われても、Twitterが面白いので、仕方ない。

iPhoneのスクリーンタイムをみても、Twitterに費やす時間が明らかに増えた。

 

なぜTwitterは面白いのだろう。

改めて考えてみると、おそらくTwitterは「知らない人」の投稿を目にする機会が多いからだ。

特に、Facebookに比べて。

私は「自分とは異なるネットワークを持つ人々」に惹かれているのだ。

 

逆にFacebookは最近、馴染みの情報ばかりが多く、仕事の連絡以外にはあまり使わなくなっている。

自分がよく知る人からの情報は安心感があるのだが、たいてい私も同様の情報を知っているので、興奮と感動はあまりない。

 

これは、理論的にはスタンフォード大学の、マーク・グラノヴェッターが発表した「弱い紐帯の強さ」という研究で明らかにされており、ソーシャルネットワークを使いこなす上で、非常に重要な考え方だ。

興味のある方は、以下の書籍がおすすめだ。

人は弱いつながりの人脈を豊かに持っていれば、「遠くにある幅広い情報を、効率的に手に入れる」という面で有利になる。結果として、ビジネスのさまざまな局面で優位に立てるのだ。

現在のところ「弱い紐帯」を手にするための正解は、Facebookではなく「Twitter」だと、私は思う。

(ということで、是非一緒にTwitterやりましょう。→安達裕哉のアカウント

 

 

ところで、本記事の主題はTwitterの素晴らしさではなく、暗部にある。

 

それは、Twitterを巡回していて、たまに見かける「SNSにつながるのをやめたほうがいいのでは……」という人々だ。

彼らは概ね、次のような行動によって特徴づけられる。

 

・不満ばかり書く(ので、投稿を見る多くの人がうんざりする)

・自分のことばかり書く(ので、投稿が共感をよばない)

・そのわりには自己顕示欲が高い(ので、人にカラミに行く)

・結果として何かに強烈な不満を抱えながらSNSをしている(ので、不幸に見える)

 

もちろん、SNSをやるのは自由でありあれこれ口出しをするのは野暮というものだろう。

それはわかる。

だが、ぜひ「SNSを見ないようにしたほうがいいですよ。」と言ってあげたい。

 

この、「SNSをやればやるほど、不満が溜まって生活のクオリティが下がる」という現象は、「SNS疲れ」として、度々指摘されているが、理論的にはハーバード大のニコラス・クリスタキスによる著書が詳しい。

 

一言でいえば、「SNS疲れとは、他者との比較によって不幸になること」だ。

人びとは自分の絶対的な立場よりも、世間での相対的な立場を気にする場合が多いということだ。

人間とはうらやむ存在である。他人が持っているものを欲しがり、他人が欲しがるものを欲しがる。

一九五八年、経済学者のジョン・ケネス・ガルブレイスは、多くの消費需要は本質的な必要性からではなく社会の圧力から生じると論じた。

人は、自分がいくら稼いでいるかとか、どれくらい消費しているかではなく、知り合いとくらべていくら稼ぎ、どれくらい消費しているかによって、自分の成功の度合いを判断するのである。

ニコラス・クリスタキスは「裕福であるとは「女房の姉妹の亭主よりも少なくとも一〇〇ドル多い年収」を得ることだ」と指摘する。

 

クリスタキス氏は、こんな実験も紹介している。

人は、下ののどちらで働きたいと言うだろうか?給与以外の条件はすべて同じとする。

 

1.自分の給料が3万5千ドル、ほかの全社員の給料が3万8千ドルの企業

2.自分の給料が3万3千ドル、ほかの社員の給料が3万ドルの企業

 

 

実は、ほとんどの人は 2. の会社で働きたいというのだ。

絶対的な給与の多寡よりも、相対的に集団で優位となる方を、多くの人は選択する。

 

クリスタキス氏は、それを評してこのように述べている。

私たちは小さな池の大きな魚になりたいのであり、それより大きな魚になれてもクジラがうようよいる大海を泳ぐのは嫌なのである。

この傾向は、容姿などの肉体的な魅力についても、同様の結果が得られている。

 

 

だが、SNSはそれをブチ壊しにする。

嫌でも「ムカつく成功者」が目につく。

それが問題なのだ。

 

 

話は変わるが、しばらく前から、ZOZOの広報の方と、「貧者を救う」NPOの代表の方が事あるたびに論争しているのをTwitterで見かける。

もちろん、法的な範囲で私人や株式会社がカネを何に使うのかは自由だ。

また、貧者への支援の義務があるのは、公的機関であり、一私企業ではない。

だが、「大きなお金を使う」だけで、必ず批判は集まる。

 

また、ZOZOの経営者が打ち出した、1億円のお年玉についても賛否が別れている。

個人的には、異なるネットワークで顕著に見解が異なるのが、見ていて非常に面白い。(Facebookでこういうのは少ない。Twitterはこれだからやめられない)

この騒ぎの源泉となっているパワーは「人間とはうらやむ存在」というクリスタキス氏の指摘のとおりであろう。

 

以前、絶対的な貧困よりも、主観的な貧困が問題になる時代がやってきた、と書いた。

 

「数百億を、自分の旅行に使える人」と自分を比べた場合、ほとんどの人は格差を感じるだろう。

そして、その中の一部の人は、格差に強烈な不満を持つ。

 

それこそ、自分の生活を破壊してしまうくらいに。

 

 

誰もが「生活に100%満足する」という状況は当分はやってこないだろう。

身近な他者との比較が、人を不幸にするからだ。

「知人が結婚した」

「知人がいい車を買った」

「知人が大手企業で活躍している」

「知人のツイートがバズった」

「知人のパートナーの容姿が良い」

……

そして、過剰な競争意識は寿命を縮める。

例えばクリスタキス氏は、「20歳時点で、女性比率の少ない環境に置かれていた男性は、競争のせいで寿命が短い」という、ショッキングな調査結果を発表している。

 

だからこそ、自分のところに入ってくる情報のコントロールは、生活のクオリティを保つために非常に重要となる。

 

他者の生活レベルや、成功の度合い、人気、配偶者の容姿などについて、とても気になる人は、

「生活のクオリティが下がるので、SNSにつながるのをやめたほうがいい人」だ。

寿命が縮まりかねないので、本気でSNSを辞めることをおすすめする。

 

いくら「弱い紐帯」を手にするためとはいえ、自分の生活のクオリティを下げてしまっては、元も子もないのである。

 

 

ただ、一方では、成功者はSNSに必要以上に「成功」の情報を流すべきではない。

「表現は自由じゃないか」という方もいるだろうが、誰もが見られる場所に「格差」を意識させる情報を流すことは、嫉妬を煽り、安定した社会の形成にとって害となる。

 

あまり知られていないが、ピーター・ドラッカーは、著書「マネジメント」で経営者の超高額報酬を批判している。

(経営者の超高額報酬は)ともに生き、ともに働くべき異なる階層間の人間の信頼関係を破壊する。

やがて誰も得をせず、社会、経済、マネジメント自身に対して害を与える政治的な措置がとられるだけである。

巨大企業の社長の年収50万ドルにしても、ほとんどは見せかけである。それは所得ではなく身分である。

どのような抜け穴を見つけても、ほとんどが税金にもっていかれる。ボーナスにしても、所得の一部を多少なりとも税率の低い形の報酬で手にするにすぎない。

いずれも経済的にはたいした意味がない。しかし社会心理的には、「知りながら害をなしている」。弁護の余地はない。

「知りながら社会に害を及ぼす」ことに、弁護の余地はない、というドラッカーの厳しい言葉を、我々は肝に銘じなければならない。

 

 

しかし、奢った富者が、「誰でもアクセスできる場所」で、必要以上に自らの成功を誇示しつづければ、ドラッカーの指摘どおり、必ずなにかの形で報復を受けることに間違いはない。

富者にも「慎み」という、モラルが、自己防衛のために必要な時代なのである。

 

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(2024/3/26更新)

 

【著者プロフィール】

◯Twitterアカウント安達裕哉(最近改めて、Twitterはいい。かなりいい。)

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(Photo:Simon Cockell