ヨッピーさんの「明日クビになっても大丈夫!」という本を読んだときに妙に感心した箇所があった。
「ライターになりたいです!どうしたらなれますか?」
たまにヨッピーさんにこう聞いてくる人がいるらしいのだが、そういう人に「じゃあ、書いたものを見せてください」というと、高確率で
「まだ何もしてません!」と言われるのだという。
これはある意味では喜劇である。モノを書くのが好きでない人間がライターになれるわけがない。
1度か2度ぐらいバズを出す事は運が良ければ出来るかもしれないけど、数年にわたって書き続ける事は、書くのが好きじゃないと絶対にできない。
恐らく、質問した人間は、ヨッピーさんなら「誰でもなれる!大人気ライターの秘訣」みたいな方法を知っていると思ったのかもしれない。
確かにちょっとしたコツみたいのはあるだろう。けど、実際にライターになってみればわかるけど、そういうテクニックみたいなのは非常に些細な事だ。それよりも書き続ける才能の方が、ライターになるのには遥かに大切である。
これをもって、ヨッピーさんは「なりたい」という気持ちと「やりたい」という気持ちはまるで別物だという事を理解する事が大切だと説明している。
つまり、ここでヨッピーさんに「ライターになりたい!」と言ってる人は、ヨッピーさんみたいなライターになってバズをバンバン叩き出してお金とか承認欲求がモリモリ稼げるような存在に「なりたい」のであり、「モノを書きたい」という衝動は本質的にはゼロなのである。
実はこれは物凄く深い話なのだ。
ワンピースの作者の労働環境は刑務所より酷い
以前、国民的大人気漫画であるワンピースを読んでいたときだ。
単行本内では、作者である尾田栄一郎さんが読者の質問に答えるコーナーがあるのだが、そこで「朝何時に起きて、何時まで仕事しているのですか?」という質問に答えるシーンがあった。その答えは衝撃的である。
なんと毎日、朝5時に起きて、夜中の2時まで仕事をしているという。つまり毎日21時間労働である。睡眠時間は毎日たったの3時間しかないというのだ。これは厚生労働省が発表した過労死の危機ラインを余裕で超えている。
これはある意味、奴隷よりも酷い労働環境だ。
続く質問で「休みはあるのですか?」という質問があるのだが、それもまた凄い。なんと回答は「休みはありません。もしあったら家族旅行したい。普段は外に出られないから、どこでもいいから外に出たい」である。
繰り返すが、これが国民的大人気漫画を書いている超人気作家の労働環境である。
大豪邸を買って、美人な芸能人と結婚して、何億部も漫画を全世界に売っている尾田栄一郎さんが手にしたのは、21時間労働と3時間の睡眠、休日ゼロという、奴隷以下の待遇なのだ。
さてあなたに聞きたい。
「あなたは尾田栄一郎さんになりたいですか?」
「ってかなれますか?」
「なりたい」という気持ちと「やりたい」という気持ちはまるで別物という事実のホントのところ
人は好きなこと以外、続ける事ができない。
例えば僕は、面白いコンテンツを消費して色々ものを考えるのが好きだし、そこから得た着想を文字に起こして、こうして記事に発信するもの結構好きだ。
それだからBooks&Appsさんで2016年の5月から現在に至る3年もの間、毎週毎週記事を書き続ける事ができている。
時々、ライターをやってお金を貰っていると言うと、不労所得を稼いでるかのように怒られる事があるのだけど、はっきり言うがライターはかなりシンドイ部分もある。
ネタが思いつかない時なんて苦しくて身悶えするし、自信満々に書いたものが全くバズらくて落ち込む事も多々ある。僕に関して言えば、基本的にはネガティブな意見も含めて全ての意見を読んで反省しているし、こうやって机に座って記事を打つのも入念な準備とエネルギーがいる。
だから自分からすれば、そんなに楽ではない労働環境のつもりなのだけど、どうも一部の人からみるとネットサーフィンしつつパチパチPCのキーボードをテキトーに叩いてたら、お金が貰えて、おまけに時々バズって承認欲求がモリモリ稼げるような存在にみえるらしい。
こういう、良さそうな面だけを切り取ってみれば、確かにライターのような存在に「なりたく」なるだろう。
けど、さっきも言ったけど、書き続ける為には、そもそも「書く事自体が好き」じゃないと無理だ。ほとんどのクリエイターは尾田栄一郎さんほどではないにしても、随分シンドイ事もやっている。
実は同じことはトレーダにも言えるのである。次は230億円もの資産を稼いだ日本一のトレーダーの例を見ていこう。
ハゲるぐらい熱中できないと、トレードでは勝てない。むしろ養分になってスッテンテンになる
Twitter上に230億もの資産を投資で稼ぎ出したcisさんという方がいる。
彼は最近、「一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学」という本を上梓されたのだが、これがめっぽう面白い。
この本にはcisさん投資に対する考え方が書いてあるのだけど、全編通して、彼は勝負に勝つ事だけを延々と考え続けている。
彼は「勝負に勝つ」方法を考えるのが好きなのだ。そして、そのためならば必要に応じてリスクもキチンと取る決断も取れる。
この本を「cisさんみたいな投資家になりたい」とか、「億万長者になるためのヒントを得たい」と思って買う人も多いだろう。結論からいうと、それは冒頭のヨッピーさんにライターになりたいと言う人と同じぐらい滑稽な質問である。
多くの人はcisさんみたいに大金持ちに「なりたい」だけなのではないだろうか?
しかし、cisさんが突きつけている事実は非常に残酷だ。
「勝負に勝つ」為に「考え続ける」事が「メチャクチャ好き」で一冊の本が余裕で書ける位、毎日毎日延々と考えられないような人間は、トレードなんてやっても億万長者には絶対になれない、むしろ養分になって搾り取られるという事をこの本は最初から最後まで延々と述べ続けてる本だからだ。
この本は希望の書ではない。はっきり言うが、絶望の書である。
果たして、何人が寝ても醒めても、それこそ3時間睡眠だろうが、勝負に勝つための戦略を考え続ける事を「やりたい」のだろうか?
たぶん、そんな人はほとんどいないだろう。
だからみんなcisさんのような卓越したトレーダーにはなれず、単なるギャンブル狂いとなり、期待値に収束しスッテンテンになるのである。
ちなみにcisさんはトレードで勝つための戦略を考えるのがあまりにも好きすぎて、毛髪がハゲあがるレベルで没頭していたのだという。こんなの尾田栄一郎さんと同じで、特殊な才能がないと絶対に不可能だろう。
脱社畜サロンに入って、人は果たして稼げるようになれるのか
昨今、インターネットではイケダハヤトさんの脱社畜サロン関連の話題が非常にホットだ。
知らない人も多いだろから簡単に説明すると、イケダハヤトさんとはぁちゅうさんが主催する脱社畜サロンは、東京で満員電車に揺られる人達のことを社畜と呼び、そういう不自由な存在から逸脱し、自分で自由に生きる為の方法があると謳ってインターネット上で脱社畜サロンというセミナーを開いている。
謳い文句はこうだ。
「会社を辞めて、起業したい。時間や場所にとらわれずに働きたいを実現しよう!」
この手の”自分で稼げるようになる為の技能”を売るセミナーは実は昔から色々ある。
プログラミング教室とかもそうだし、コピーライター教室とか、ライティングセミナーとか、いろんなものがある。暇な専業主婦をターゲットとした、ママ起業セミナーなんていう、本当に酷いものもあった。
しかし、ここまで読んで来た人ならば、いかにこれらの夢を売るセミナーが滑稽な事かわかるだろう。
「なりたい」を肴にして、いくら他人に技術を教えようが「やりたい」だけは絶対に他人に習得させる事はできない。これは純然たる事実だ。
ちなみに先ほど例に出させてもらったcisさんも、一時期、会社を作ってトレードを人に教えた事があったそうなのだけど、ものの見事に誰一人としてトレーダーは育たず、結局損をして会社を畳んでしまったのだという。
思うに、ライティングやトレードというのは一種のアートだ。
故に、テクニックはあるにはあるのだが、人に教え、そしてそれを同じ様な形で使えるように教育する事が滅法難しいし、それを教えた所で、好きでない人に教えても猫に小判、豚に真珠である。
猫に小判を与えても、ガジガジするだけだ。
豚に真珠を与えても、バリバリ食べるだけだ。
適性がない人間にテクニックを与えても、何者にもなれず「いい勉強になりました」でおしまいになるだけなのだ。
本当の意味での脱社畜を目指すために
とはいえ、誰だって楽しい仕事にありつきたいだろう。最後に「なりたい」という気持ちを「やりたい」という気持ちに結びつける為のヒントを出そう。
実は仕事には2種類のものがある。
一つはお金をもらう為の仕事だ。これは生きるために必要なお金を稼ぐために、やりたくない事をやってでもやらなければならない、いわゆる社畜という生き方がこれだろう。
もう一つは人生を楽しくするための仕事だ。刑務所より酷い労働環境に置かれている尾田栄一郎先生が、あそこまで身を粉にして働いているのは、集英社の社畜だからではなく、それが彼の人生を楽しくしているからに他ならない。
では私達は上のような社畜的な生き方から、後者である人生を楽しくするための仕事をみつけるために、何をすればよいのだろうか?
その一番キッカケとなる大切な感情が、世の中でもてはやされているものをみたときに、こう思えるかだ。
「何でこんなのが評価されてるの?絶対、私の方がうまくやれる」
こう思えるものを見つけた時、ゆっくりじっくりと、あなたの思うように色々やってみよう。はじめは、あなたの影響力は微々たるものだから、すぐに爆発的にヒットする事はない。
けど、それでも本当にそれが好きならば続けられるはずだ。そうして、ゆっくりとコンテンツ力を高める事に成功すれば、そのうち知る人ぞ知る存在となり、そしていつしか影響力がコンテンツ力に追いつくようになる。
あのちきりんさんだって、はじめの2年間は全く注目される事なく埋もれていたし、ちょっと前に爆発的にヒットした結婚相談所のブログも、爆発するまでに4ヶ月もの歳月を要したという。
きっと、あなたにも1つぐらい、そういう上手くやれそうだと思えるモノがあるはずだ。それに余暇をあててみよう。きっと、いつか花が咲くはずだ。
頑張って、あなただけの人生を楽しくするための仕事を見つけ出して欲しい。
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趣味はおいしいレストラン開拓とワインと読書です。
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(Photo:Rafael Matsunaga)