1月も終わりに近づき、そろそろ、年初の目標を忘れかけている頃ではないだろうか。
知人が年初からダイエットに挑戦していたようだが、SNSのタイムラインからその話題が消えてしまい、代わりに旨そうなラーメンやら肉やらの投稿ばかりになったのを見ていると、「まあ、人間だもの」と思う。
なぜ私達は「継続すること」が苦手なのだろう
しかし、なぜ私達は、こうも「継続すること」が苦手なのだろう。
継続することさえできれば、人生の可能性は広がることはわかりきっているのに、なぜ途中で挫折してしまうのだろう。
もちろん、プライベートだけでなく、仕事においても継続は重要だ。
実際、私の経験の中でも、コンサルティングの現場で一番苦労したのは「何をすればよい」を示すことではなく、「どうすればこれを実行し続けることができるか」だった。
おそらく、これは万国共通の話である。
例えば、ハーバード・ビジネススクール教授、クレイトン・クリステンセンがインテルの元CEOであるアンドリュー・グローブに呼ばれたときのこと。
クリステンセンが新しいビジネスユニットを立ち上げるなどの戦略を示したところ、グローブはぶっきらぼうに
「ずいぶん世間知らずな学者さんですね、私は”どのように”すればよいかを訪ねたのに、あなたの答えは”何”をすべきかだ。”何”をする必要があるかはわかっている。わからないのは、それをどのようにやるかなんだ”」
と言ったという。
まさにこれこそ、「何かを成し遂げる」ことの本質的な課題であると、私も思う。
実際、コンサルティングの現場では、
「成果を得るために何をすべき」だけでは結局、ほとんどの人は行動を継続できない
ということは、周知の事実だった。
例えば、プライベートにおいても、
「外国語を習得したい」 → 「簡単な英語の本」の「音読」がいいですよ
「痩せたい」 → 「筋トレ」と「糖質制限」がいいですよ。
「プレゼンスキルを上げたい」 → 「プレゼンのコツ」を学んで、あとは「練習」ですよ。
「交友範囲を広げたい」 → 「発信」をSNSなどで行って、「それに興味がある人の集まりなどに出かける」と良いですよ。
と言われても、話としてはまっとうだが、「わかっていても、できない」と言う人が多いだろう。
もちろん「やらない奴がわるいのだ」という意見もあるだろうが、
普通の人にとって、継続のために必要なのは、「やり方を知ること」ではない。
これは重要な気付きだった。
「継続のための工夫」は役に立たなかった。本当に役立ったのは……
なので、ここ2年ほどで、私は自分が完全に間違っていたことに気づいた。
「どうすれば継続できる」について、以前書いたこともほとんどのひとにはハードルが高かった。
そこで「成功事例」をあらためて分析すると、ほとんどの成功に紐付いていたのはなんと「記録」であった。
例えば「営業マニュアル」を作成するよりも、「営業記録」をつけるほうが、遥かに長期的な営業力の改善に役立つ。しかも全記録を開放すれば、営業が自律的に動くようになる。
「再発防止マニュアル」ではなく、「事故記録」のほうが断然有用である。記録を公開するだけで、現場が勝手に改善を行う。
「貯金のコツ」よりも、「家計簿」のほうが、遥かに貯金のスピードが早い。
ダイエットの知識を仕入れてあれこれやるよりも、体重を記録する「レコーディングダイエット」のほうが体重減少のスピードが早い。
記録こそ、継続の可否を決める鍵だったのだ。
「やる気があるから、記録できるんじゃないか」という人がいるかも知れない。
理論的にはそのとおりだ。
だが、やってみるとわかるのだが、実際には「記録しなければならないから、やる気が出る」というシーンのほうが圧倒的に多い。
実はこの事実に、Appleはすでに気づいていた。
なぜなら、Apple watchのキャッチコピーは「運動しよう」ではない。「リングを完成させよう」なのだ。
「記録をつけよう」と呼びかけているのである。
さらに、「運動するモチベーションを高める」とは言っていない。「アクティビティのリングを完成させるモチベーション」と言っている。
Appleは、「記録がモチベーションを高める」ことを知り、それを実装するアイテムを発売した。
そしてそれは、大当たりしている。
Apple Watch Series 4 売れ行き好調で、生産能力が限界に達している?
「記録」の自動化が、習慣を作り上げる
「んなこと言ったって、記録するのが面倒じゃん。」という方も多いだろう。そのとおりである。
だから、「記録」と「自動化」は、できうる限りセットにするべきだ。
むしろ、記録を自動化できれば、かなりの高確率で良い習慣を作り上げることができる。
最近では、私は何かを習慣化したいと考えたときに、真っ先に、スマホやウエアラブル端末で使える「記録ツール」を探すようになった。
記録ツールが優れていると、本当に驚くほど、習慣化が簡単になる。
例えば最近では、Apple watchなどのおかげで、健康に関する記録はかなり充実している。
睡眠時間も自動記録できるし、筋トレの記録も容易だ。当然、運動量も増える。
貯金はマネーフォワードなどのクラウド家計簿を使って管理したほうがいい。
また、ほとんどの決済をクレジットカードで行うと自動で記録ができるため、支出の分析に役立てられる。
「クレジットカードはお金を使いすぎる」は過去の話で、今はリアルタイムで家計簿を見ることができるキャッシュレスのほうが優れている。
読書については、KindleとTwitter、Evernoteが連携できるので、読んだ本で気になった部分をTwitter上(一緒にTwitterやりましょう!)、Evernote上に記録すると、あとで検索可能になるので、読書の習慣づくりに貢献している。
他にも、「おくすり手帳」のアプリを薬局に勧められて使っている。
これもQRコードで薬を読み取るだけで薬に関する知識が貯まるので、記録をつけること自体が面白く、継続している。
あまりワインに興味はなかったが、ラベルを撮影するだけでそのワインの評価を教えてくれるVivinoというアプリも素晴らしい。
おかげで、安いワインを買ってきて撮影し、評価を見るという習慣がついてしまった。
唯一、今の所良い記録ツールがないのが、「食事の内容」だ。
「あすけん」「Balance」など、いろいろアプリを試してみたが、食事は手軽に記録できるツールがほとんどない。
食べたものに合わせて手動で記録が必要なため、食事の改善の習慣が付きづらくて困っている。
(だれか、良いアプリ知らないでしょうか?)
現代は「記憶✕ 記録◯」=「人生」
話を戻そう。
「記憶」こそが、人生を作る、という人がいたが、私の今の観点は少し異なる。
記憶はあやふやで、あとの自分によって都合の良いように捻じ曲げられてしまう。
でも、もう我々は貧弱な「脳」という記憶装置から開放された。
外部記憶装置を活用することによって、膨大な「記録」が自動化でき、そこから「人生の質」まで大きく変えることができるのだ。
記録は真に人生を変えることができる。
この時代に生きていて、本当に、心から良かったと思う。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】 ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。
(2025/6/2更新)
ティネクト代表の安達裕哉が東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。
ティネクトでは現在、生成AIやマーケティング事業に力を入れていますが、今回はその事業への「投資」という観点でお話しします。
経営に関わる全ての方にお役に立つ内容となっておりますでの、ぜひご参加ください。東京都主催ですが、ウェビナー形式ですので全国どこからでもご参加できます。
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ——
「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。
【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
【著者プロフィール】
◯Twitterアカウント安達裕哉(最近改めて、Twitterはいい。かなりいい。)
◯安達裕哉Facebookアカウント (安達の記事をフォローできます)
◯Books&Appsフェイスブックページ(Books&Appsの記事をフォローしたい方に)
◯ブログが本になりました。
(Photo:Ali Edwards)