以前、ツイッターでこんな発言をしたことがある。

「ああ、床が抜けるほどのストロングゼロが誕生日プレゼントに来たら怖いわ、絶対にやめて欲しいわ、ああ怖い」

これは有名な古典落語である「まんじゅうこわい」に倣って放たれた言葉だ。

怖いものなどないと豪語していた男が「本当はまんじゅうがこわい」と小さな声で告白する。

周りの男たちが面白そうだから怖がらせてやろう、と金を出し合ってまんじゅうを買い、男の寝床に投げ込む。

すると男は

「こんな怖いものは食べてなくしてしまおう」

「うますぎて怖い」

と言いながらパクパク食べる。

本当は大好物だったのだのと男たちも気づき詰め寄る、というものだ。

 

最終的には、本当は何が怖いんだと言われた男が「このへんで、濃いお茶が1杯怖い」で締める。

僕はこの落語の「うますぎて怖い」の部分が大好きだ。この話はここで最高のクライマックスを見せるのだ。

 

つまり、床が抜けるほどストロングゼロを送らないでください! と言いつつ、ストロングゼロ欲しいなあ、と主張するジョークのつもりだった。

ただ、本当にそんなものもらえるとは思わず、そう主張するだけのネタのつもりだった。

 

確かに僕はストロングゼロが好きだ。

昨今の「ストロングゼロはやばい酒」

「ストロングゼロはクズの酒」

「虚無の酒」みたいな風潮が蔓延する何年も前から愛飲していたほどだ。

 

こんな逸話がある。

もう何年も前になるが、近所のドラッグストアで毎日ストロングゼロを買っていたのだ。

そのうちそのドラッグストアが改装工事のために1か月ほど休業するという話が持ち上がった。

その際に在庫を全部処分しようと考えたらしく、全品3割引きという狂気の沙汰みたいな大セールを行ったのだ。どっと客が押し寄せ、商品棚は略奪にあった後みたいになった。

 

その際に、僕は店内のストロングゼロをすべて買い占めた。

それでも40本くらいだったと思うが、セール初日にストロングゼロを買い占める僕の姿に店員が

「よかったですねえ、これは絶対にお客様が買うと思ってました」と言わしめたほどだった。

 

それほど毎日購入しているという熱心さ。

決して昨今のストロングゼロブームに乗っかって言ってるわけではない。そこら辺のクソみたいな大学生が「ストロングゼロやばいっしょ」とか言ってるのとはわけが違う。

こわっぱがほざくな。俺が酒を覚えた時なんてお前らなんて精子だぞ、精子。ほろよいでも飲んでろ。

 

まあそれはさておき、本当に床が抜けるほどストロングゼロが送られてくるなんて思ってもいなかった。

そんなもの送ってくる奴がいたらただのバカだろ、そんなバカいるかよ、そう思っていた。そして昨年の8月だ。我が家に贈り物が届いた。

バカがいた。

どうやら、有志一同でお金を集め、本当に1000本のストロングゼロを購入したらしい。完全に頭ストロングゼロだ。

 

この前日に、宅配業者から異例の電話があった。

「明日、夜七時にいますか?」

「いますけど」

「絶対にいてくださいよ!絶対ですよ」

というものだった。

彼の“絶対に再配達にはしたくない”という強い意志を感じた。

 

この箱には24本のストロングゼロが収められている。その箱が42箱あるので、単純計算で24×42=1008本のストロングゼロだ。

完全に余談だが、1本350mlなので352800ml、352リットルのストロングゼロだ。だいたい家庭用の冷蔵庫がそれくらいの容量なので、あれがまるまるストロングゼロとなって届いたと考えてもらえればよい。

 

さて困ったことになった。まず一番困ったのは

「床が抜けるほど欲しい」

「みんなでお金集めて抜いてやろうぜ」となったのに床が抜けなかった点だ。

思った以上にうちの玄関は強靭な床らしく、びくともしなかった。これじゃあ送ってきた人々、まるでピエロじゃん。

 

とにかく、我が家が酒問屋みたいな状態になってしまったが、こうして1000本のストロングゼロを手に入れて気が付いたことがある。

今日はちょっと趣向を変えて延々とストロングゼロに対する思いを語っていこうと思う。

 

1. 350ml缶という魔力

僕は普段からストロングゼロを常飲している。ただ、自分の中で線引きをしていて絶対に500mlまでしか飲まないと決めていた。

それ以上飲むと「ヒトに戻れなくなってしまう」と思っていたからだ。

 

今回、1000本のストロングゼロを贈ってくれた有志一同は、普段から仲良くしてくれている連中だ。

おそらく、僕の体を気遣って350 ml缶を1000本贈ってくれたのだ思う。いつも500ml缶飲んでるけど、それでもやばい酒だから350mlにしました。飲みすぎないで体に気を付けてね、そんなメッセージが聞こえてくるようだ。なんともありがたい。

 

ただ、実際に飲んでみると、これが大きな罠であったことに気が付く。まず、350mlでは物足りない。

そして僕がヒトでいられる限界値は500mlなので、まあもう一本いけるか、と考える。

2本目の半分よりちょっと手前でやめれば500 mくらいだろ、おやあ、でもせっかく有志の皆さんに頂いたもの残すのはダメでしょ。いっちゃうか。

 

結果、350ml×2でじつに700mlいってしまう。

完全にヒトに戻れなくなっている。

 

さらに700ってのはキリが悪い。

例えば車のナンバーを777とかにしている人がいたら「パチンコ好きなのかな?」とか周囲から思われるだろう。

そうなると、毎日700mlのストロングゼロを飲んでいると豪語すると、7がある、パチンコ好きなのかなと思われてしまうのだ。

 

結果、もう1本あけて1050mlだ。もはやヒトではない。飲み切ってそのまま爆睡だ。

平穏に500ml缶を飲み干すだけの毎日だったのに、350ml缶が届いたことにより2倍以上の量を飲んでしまう異常事態。

識者はこれを「ストロングゼロパラドックス」と名付けて、目下研究中だ。

 

2. 飲み合わせという沼

今までは500mlだけを飲むヒトであったが、350ml缶を複数飲むようになり、ある事に気が付いた。

ストロングゼロには様々なフレーバーがあるのだが、それらが実に個性的なのだ。そもそも贈られてきたフレーバーは以下の通りだ。

・ダブルレモン
・ダブルグレープフルーツ
・ダブルシークワァーサー
・ドライ
・ビターレモン
・ビターライム
・ダブル葡萄

この中で「ダブルレモン」がもっとも基幹をなすフレーバーと言われている。どこのコンビニにいっても置いてある。

 

例えばストロングゼロを置いてるけど1種類しかない、という場合はたいていがダブルレモンだ。いわばストロングゼロ界のインフラと言っても過言ではない。

インフラだけあって万人受けする素晴らしい味だ。僕も好きだ。1000本贈られてくる前はこれの500mlを毎日飲んでいた。

 

ダブルグレープフルーツはそれに次ぐ位置だ。もし、ダブルレモンを陳列していない希有な店があったとするならば、たぶん置かれているのはダブルグレープフルーツだ。

この2種類でおそらく9割以上の店をカバーしていると思う。味のほうはやや甘さが強め。

 

甘さが強いということは同時にとっつきやすいということである。ということで、ストロングゼロ沼にはまるきっかけとなる入門編的な位置と考える専門家も多い。現に僕も最初はダブルグレープフルーツ味から入ったほどだ。

 

それ以外はほとんど飲んだことがなかった。なぜなら、僕は味覚に対してあまり冒険心がないのだ。

味わうものに対してはあまり失敗したくない。結果、買うもの同じものばかりだし、行く飲食店、頼むメニューはいつも同じだ。

 

ただ、今回1000本のストロングゼロをいただくことになり、その中に様々な味わいが入っていた。

そこであまり冒険したくないのでインフラであるダブルレモンと何か、という組み合わせで飲むことになる。これが実にストーリー性があってダイナミックなのだ。以下、代表的な組み合わせを紹介したい。

 

・ダブルレモン×ダブルグレープフルーツ

二大メジャーフレーバーの組み合わせだ。そういう界隈があったら腐女子が「おっほキタコレ」と興奮すること請け合いの王道的カップリングとなっている。

ダブルレモンは比較的甘みを感じないフレーバーで、キュウっとそれを飲んだ後に甘みのあるグレープフルーツで締める。いうなれば長年連れ添った夫婦のようだ。父は厳しく、母は優しかった。どちらがどうではない。二人揃って親なのである。

 

・ダブルレモン×ダブルシークワァーサー

どんな組み合わせでも好きに選んでいいと言われたらこのカップリングを選ぶと思う。どちらも甘みを感じないフレーバーで、味わいも似通っている。続けて飲むと締めのない感覚に襲われる。

それだけに、あえて締めないという粋な感覚を覚える。つまり、いつまでもストロングゼロは終わらない、と感じ、永遠とも思える茫漠とした時間を感じることができるのだ。

 

終わる、完成する、という事象は一見良いことに思えるかもしれないが、その時点から崩落が始まるのである。

永遠に未完成であることが望ましいという考えだ。

この考え方は日光東照宮にも用いられている。あそこにある建造物、装飾品の数々はあえて1か所、未完成の部分を残している。そうすることで完成を避け、永遠に朽ちない栄華を願っているのだ。この組み合わせにはそれがある。

終わらないストロングゼロを飲もう、終わらない唄を歌おう、そう言いたくなる組み合わせだ。

 

・ダブルレモン×ビターレモン

この組み合わせは実に面白い。ダビスタだったら「ナスルーラのクロスがちょっと気になりますね」と言われそうな組み合わせだが、やってみると実に良い。

まずダブルレモンを飲む、そして甘みを抑えたという謳い文句のビターレモンを飲む。

 

どちらもレモンだ。そしてビターレモンは甘みを抑えたと謳っている。

ただのダブルレモンの時点であまり甘みを感じないわけだから、ビターレモンを飲むときは「ほんとにぃ?」という懐疑の気持ちが大半を占める。

しかしその気持ちは見事に裏切られる。

飲んでみると本当にビターレモンは甘みを感じない。「ほんまや!」となる。様式美だ。伏線がストンと回収された爽快感があるのだ。まるで出来のいい推理小説のようだ。

 

・ダブルレモン×ビターライム

僕はずっとライムってやつを信頼していなかった。ライムという響きにはチャラいなにかがあると信じて疑わなかった。

なんかライムという響きは、バーとかでチャラチャチャラチャラ飲んでいるイメージがあるのだ。精子どもが調子ぶっこいて「うぇーい」とか言いながら飲んでいるイメージがあるのだ。

 

そんなチャラいライムがビターになって帰ってきた。いうなれば、昔やんちゃしていた男が真面目になって帰ってきた感じがあるだろうか。

でもヤンチャ時代のソウルは少し残っていて髪型はツーブロックだ。スーツもエグザイルだ。

 

そんな男を連れてきたのは娘だ。ダブルレモンが「いい人なのよ」とツーブロックを連れてくる。

それは嬉しくもあり寂しくもあり、いいや心配な気持ちだろうか。本当にその人でいいのかい? それでも決断しなければならないのだろうか。ずっとずっと娘でいてくれないのだろうか。そっとグラスを傾け涙する。

ラジオからは松任谷由実が流れていた。

 

・ダブルレモン×ドライ

僕はドライを飲むやつは物の怪の類だと思っていた。あんな味のしないものを飲んで何が楽しいのかと思っていたが、飲んでみるとまあ悪くない。

なんというか故郷だ、これは故郷だ。

 

僕が生まれ育った街は過疎化が進んでいる。放置された空き家も多く、帰るたびにその風景は変わっていて、それも発展という形ではなく、衰退という形で変化しているのだ。

あの家は取り壊されたか、あの家も更地になった、爺様が亡くなったからな、そんな話ばかり聞かされる。

 

ダブルレモンは言うなれば都会だ。新宿だ。

そしてドライは故郷だ。味も素っ気もない生まれ育った街。

東京で暮らす僕らは、東京では故郷のことを考えない。寂しくなるからだ。

でも考えないようにしても故郷は衰退し、そこには年老いた親がいる。今年は何かプレゼントでも贈ろうか。でもいきなり親孝行したらびっくりするかな。

新宿の高層ビル群が一瞬だけ、故郷の山々に見えた。

 

・ダブルレモン×ダブル葡萄

これは最大級に危険な組み合わせだ。いうなれば高山VSドンフライだ。

 

ストロングゼロの特徴に、飲みやすいのしっかりお酒、という点がある。

9%という高いアルコール度数を誇るお酒は、それまでお酒であった。おお、酒だ、みたいな口当たりだ。

 

そこで9%もあるのに飲みやすくて酒を感じさせない、これがストロングゼロの革命だった。

平成の時代の酒の歴史はストロングゼロ以前と以後に分けられると分析する専門家もいる。それくらい、酒じゃないのに酒が特徴で凶器でもある。いいや、狂気か。

 

まず、ダブルレモンはその傾向が顕著だ。そして、ダブル葡萄、これがやばい。

これはたぶん人類の最終兵器だ。酒の味が全くしない。グレープジュースを飲んでるがのごとくだ。

 

つまり、ダブルレモンを飲んで、酒の味じゃないのに酒なんだよなあ、としみじみ感じていると、それよりやべえダブル葡萄がそのあとに続く。

俺より強い奴を探しに行く! 格闘ゲームのような展開だ。まだ見ぬ強豪がこの世界のどこかにいる。それまで俺がナンバーワンなんて言えない。人気ナンバーワンと驕り高ぶっていたダブルレモンを戒める意味合いもある。そして強い奴を求めてダブルレモンは旅立った。

 

このようにたった2本でもストーリーが展開する。さらに前述したように、3本飲む。もうそうなると組み合わせは無限大だ。

ストロングゼロをみながら出来のいい映画を見ている気分にすらなる。この酒はそんな酒なのだ。

 

3. 肝臓のなんかの数値がやばくなる

あたりまえだ。

今回、1000本のストロングゼロを誕生日プレゼントに頂いて、本当にありがたかった。

そして大きな気づきも得た。そして8月にもらったこれは4月現在で残り200本ほどだ。ただやはり肝臓の数値は怖い。とにかく怖い。

 

ということで、完全にストロングゼロ怖い状態なので、もう誕生日にストロングゼロを贈るようなことはやめてください。

 

まだ床は抜けていない。本当にストロングゼロ怖い。

誕生日は8月です。ストロングゼロ怖い。うますぎて怖い。

ここらで一杯、濃いストロングゼロが怖い、なのである。

 

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著者名:pato

テキストサイト管理人。WinMXで流行った「お礼は三行以上」という文化と稲村亜美さんが好きなオッサン。

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