転職の話をします。

 

しんざきはもともとライトノベルについてはあまり知見がなく、例えば「猫の地球儀」とか「鉄コミュニケイション」みたいなちょっと前のメジャータイトルしか読んだことがなかったんですが、最近ちょっとした事情でちょこちょこと、web発のライトノベルを読み始めました。いわゆるなろう系ってヤツです。

 

皆さんよくご存じかと思うのですが、ライトノベルの一つの潮流というかメジャージャンルとして、「異世界転生もの」というものがあります。

主人公がなんらかのきっかけで現世での生活を失い、異世界に生まれ変わる、あるいは新たな人生を歩み始める。

メジャーになるだけあって、色んなタイトルがあって面白いですよね。

 

で、そんな異世界転生もののタイトルの一つのシナリオ類型として、「異世界でチートスキルを使って無双する」というものがあるわけです。

現世ではパッとしなかった主人公が、異世界という舞台を得て大活躍して周囲を瞠目させていく展開は、読者のカタルシスを刺激するところ大でして、様々なパターンを生みつつも未だ安定した人気を誇っているように見えます。

 

そんな「チートスキル無双系」にも、大きく二つのパターンがあるように見えます。

 

一つは、「転生時にチートスキルを授かった」ないし「なんらかの事情・手段でチートスキルを後天的に身に着けた」というパターン。

転生すると神様に話しかけられてチートスキルをもらった、というようなものはこれに該当します。

 

もう一つは、「もともと身に着けていた現世でのスキルが、その異世界では非常に強力な強みだった」というヤツ。

例えば、現世で機械技師としてのスキルを持っていた主人公が、機械の概念がない異世界で様々な機械を作って、それで周囲を驚かせたり、だとか。

あるいは、料理の概念がろくにない世界で、一流のコックとして大活躍したり、だとか。

戦術知識で異世界の戦争を勝利に導いたりだとか。

 

色んなパターンがありますが、大筋これらの作品は、「自分の文化の強い側面で他の文化の弱い側面をぶん殴る」という構造を共通して持っていると思います。

言い方を変えると、相手の世界の文化にたまたま弱みがあって、自分がたまたまそれについて相対的な強みを持っていたからこそ無双出来た、ということです。

 

ただ、この時一点重要なのは、相手文化の人々が必ずしもその「弱点」を認識しているとは限らない、ということ。

というより、大抵の場合は、そこが自分たちの文化に「足りない」ものだということは認識していない。

主人公が発揮した強みが、自分たちにとっては思いもよらないものだったからこそ驚愕するわけです。

 

「い、今一体何をしたんだ…!?(主人公の活躍に驚愕)」

「…?普通に〇〇しただけだが…?」

 

というヤツですよね。

 

読んでて思ったんですが、これ、転職だなと。

自分は今まで大なり小なり、「前職文化の強い側面で転職先文化の(認識されていない)弱い側面をぶん殴る」ということだけを意識して転職してきたなー、だからこそ今までそこそこ満足のいく転職が出来てきたんだなーと思ったんです。

 

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転職する際、「自分が今持っているスキルで、新しい会社に対して何を提供出来るか」というのは誰しも考えるところかと思います。

何か、相手の会社に足りないものがある。

相手は、それを埋める為に人を募集する。

そこにマッチしたら自分のスキルは高く評価してもらえる。

 

まあ、それは当たり前の話ですよね。

ただ、本来当たり前の、しかし案外忘れられがちな事実として、「転職先の人々が、自分たちの弱みをきちんと認識しているとは限らない」ということがあるわけです。

 

何かのプロジェクトの手が足りない。

何かの運用を回さなくてはいけないけど、回せる人が足りない。

何かのフレームワークについて知見を持っている人がいない。

 

そういう、「明確な課題があって、それを解決する手が足りない」というのは分かりやすいわけです。

別段、それを埋める為のスキルセットが必要とされるのもおかしな話ではない。

当然、それについてはアピールしなくてはいけません。

 

ただ、これは会社にもよるのですが、「表層的な「足りない何か」以外に、実はもっと足りていない何か」が隠れていることがあります。

そしてこれは、転職先の社員の人でも明確に認識していない、あるいは少なくとも課題としては認識していないケースが多いです。

 

例えば、プロジェクトの進捗を管理することは問題なく出来てもいても、リスク発動からのリカバリプランの構築・実施のノウハウが会社にない、ということであったり。

例えば、コンプライアンス部門にシステム開発の知識がなくって、コンプライアンス部門とシステム部門の橋渡しができる人がいなかったり。

 

会社って基本的には閉じた空間なので、外から見ると分かりやすい瑕疵であっても、案外中からは見えにくかったりするんですよね。

知ってる人からすると「何でこんな部分が欠けているの?」と思えるような部分が、中の人には認知されていなかったりする。

 

これ、会社の規模にあんまり関係ないです。

むしろ大きな会社の方が、「認知されていない瑕疵」がある場合が多いかも知れない。

中には瑕疵に気付いている人がいたとしても、組織が大きいだけに直すのが大変で見逃されている、と言うパターンもあります。

 

転職での面接の場は、自分が相手の求めているスキルを満たしているということを伝えるのと同時に、相手に「自分が強みを持っている部分での弱み」がないかどうかを探す場でもあります。

なにせ、弱みがある異世界であれば、現世人の自分はチートスキル無双と同じことが出来る。

 

だから、相手と色々話していて、「これはもしかすると相手が認識していない弱みでは」というところを見つけたら、それはチャンス以外の何物でもありません。

そこについて、自分はこういうオプションを提示出来る。

こんな風に解決出来る強みを持っている。

 

言ってみれば、自分は「期待通り」のスキルだけでなく、期待していなかった、あるいは「期待を持つことすら出来ていなかった」部分についてぶん殴れるよ、と。

異世界転生でいうところの異文化チートスキル所有者だよ、と。

 

そういうすり合わせを行うことこそ、転職時の面接の一番重要なところではないかなーと私は思っているわけです。

 

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で、じゃあ肝心の異世界転生先をどうやって探すの、という話ですよね。

もちろん、転職する際の条件というのは人によって千差万別ですし、そういった諸々の条件はクリアした上での話ということになりますが。

 

これら「認知されていない弱み」というものをただ面接時の会話だけから探り出すというのは、当然結構難しいです。

そもそも面接する相手の人が知らない問題だったりすることもあります。

出来れば事前に、面接とは別の機会で会社の内情について聞きたいところなのですが、毎度そういう訳にもいきません。

 

しんざきの場合、「配属予定、ないし面接を担当してもらっている部署とは別の部署の人ともお話をさせて頂けないか」とお願いしてみることが多いです。

 

というか、過去何回かの転職の時には、毎回そういうお願いをして、実際に話をさせてもらっています。

中途採用って会社側からしても失敗したくないイベントなので、案外こういう要望ちゃんと受け入れてもらえるんですよね。

 

岡目八目というヤツでして、自分たちのチームの弱みは認識していなくても、他の部署についてはその弱みが分かっている、という場合があります。

あるいは、その部署の人が話している内容と、他の部署が話している内容で、若干齟齬がある場合があります。

そういうところに、「認知されていない弱み」は眠っています。

 

飽くまで例えばの例なんですが、システム部門の人は他部門の要望にちゃんと答えられているつもりなんだけど、他部門の人に聞いてみると案外「俺らの要望がちゃんと理解されていなかった」というようなことがある。

そこを深堀りしてみると、課題管理についてきちんとしたノウハウを持っている人がいなかったりする。

あ、俺が本来求められているスキルとはちょっと違うけど、俺の得意分野だな、とか。

 

こういうの、お宝さがしみたいで結構楽しいです。

こっちの会社は期待された通りのスキルしか発揮できないけど、こっちではそれ以上のことが出来そうだな、という判断基準になったりします。

 

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ただ「相手の求めるスキル」を提示するだけではなく、「相手が気付いていない弱みに対する自分の強み」を探し出す。

意識的にチート無双が出来る場所を見つけ出す。

 

そういうのが転職の一つの醍醐味であり、そうやって「異世界転生」的な転職が出来た場合、その後成果を出すのも色々楽ちんになるよーと。

転職って人生でも極めて大きなイベントなので、そういうところまで考えるのもアリだよね、と。

 

そういう話でした。

 

今日書きたいことはそれくらいです。

 

 

 

 

 

【著者プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ:不倒城

 

Photo:Amelia Bueno Timón