『10年後に食える仕事 食えない仕事: AI、ロボット化で変わる職のカタチ』(渡邉正裕著/東洋経済新報社)という本を読みました。

 

AI(人工知能)の発達によって、人間の仕事がどんどん奪われていく、という言説は以前からありました。

最初のころは、「AIはなんでもできて、単純作業から、人間の仕事は無くなっていく」というような話だったのですが、AIやロボットがさまざまなジャンルで実用化されていくにつれ、その得意な分野と苦手な仕事が、けっこうはっきりしてきたのです。

 

この本は、最近の知見をもとに、「今後、AIによって人間のものではなくなっていく仕事」と「AIでは代替することが難しい仕事」について紹介されているのです。

人口減で仕事の自動化は否応なく進み、人間に残る仕事は「AIを駆使する仕事」と「手先を駆使する仕事」の二極化が進む一方で、人間の強みが生きる逃げ場(職人プレミアム)も残されている。

もちろん、若者が「消える仕事」領域へ進むのは得策ではない。対応するための最善策は、大学・専門学校選びの段階にまでさかのぼるため、高校3年生が読んでもわかりやすい内容とした。

もちろん、学生の子供を持つ親世代、まだやり直しが利く30代以下の若手、キャリアシフトや逃げ切り策に迫られている40代〜50代と、各世代の全労働者6000万人にとって有用なものとした。

人生の残り時間によっても、「戦略」は変わってくるのです。

 

著者は、「仕事の未来」を5つのカテゴリに分類して解説しています。

・ロボティクス失業――機械やITに置き換わり、失業リスクが高い

・手先ジョブ――人間の手先が必要不可欠で、永遠に残り続ける

・職人プレミアム――テクノロジーとは無縁で、雇用は安定

・AI・ブロックチェーン失業――中核業務は無人化・自動化が不可避

・デジタル・ケンタウロス――AIを乗りこなし、人間の強みを発揮

僕はこれまでも「AIと仕事」についての本をけっこう読んできたのですが、いわゆる「頭を使う、ホワイトカラーの仕事」には、AIで効率的にできてしまうものが少なくないのです。

著者はそれらを「AI・ブロックチェーン失業」としています。

 

その一方で、AIでデータを集約しながら、創造性を加えなければならない仕事は「デジタル・ケンタウロス」(ケンタウロスは半獣半人間の伝説の動物)として、最後まで人間に残り続けるのです。

 

また、AIやロボットは巨大なデータの処置や単純作業はお手のものなのですが、「細かくて微妙な力の調節を必要とする手作業」は苦手としています。

職種でいうと、コンビニの店員は、まさにこの作業を行っている.単なるレジ打ちではなく、おでんや「ファミチキ」のようなホットスナックを手に取り、宅配の荷物を受け付け、タバコを棚からとり……と、その業務内容は多岐にわたって同時並行で進む。

また、寿司職人の仕込みから握りに至る手作業のような、料理人の包丁さばき全般もこの「手先ワーク」の代表である。

農業の大半の作業も、この手先ワークだ。たとえば、イチゴを1つずつ綺麗に12個、2層に並べて、パックに詰めていく作業など、アマゾンのピッキングよりも難しい。機械化したら、潰れてしまうだろう。

回転寿司チェーン店には「寿司ロボット」が存在するのですが、あれは「寿司用に同じ形のシャリを大量に生産する機械」なのです。

もちろん、コストを下げるという面では、大きなメリットがあるのですが。

 

この「手先ワーク」の場合、時給が高い仕事は少なめで、「人間がやったほうが(雇用する側にとって)安上がり」という場合も多いのです。

 

著者は、「AIが得意なのは、3つの要件を満たす業務だけ」だと述べています。

その3つは、

(1)業務に必要十分な情報を「デジタル形式」で取得できる

(2)AIが分析できる範囲内である(指数的爆発を起こさない)

(3)物理的に執行環境が整備されている

だそうです。

 

詳しく内容を知りたい方は、ぜひこの本を読んでみていただきたいのですが、AIにできることは、いまの人間が期待しているよりも、ずっと狭い範囲のことなのだ、ということを思い知らされます。

 

うまく仕組みを整えればAIで可能なことであっても、既得権益者たちが自分の生活を守るためにAIの導入を拒絶することもあります。

あるいは、利用する側が「AIやロボットだと不安」と感じる業務も存在するのです。

これは、実績を積み上げていくことによって、解消されるのかもしれませんが。

 

著者は「デジタル・ケンタウロス(機械と人間との恊働によって相乗効果が得られる仕事」の一例として、外科医を挙げています。

外科医がデジタル・ケンタウロスたる所以は、この、機械と人間の相乗効果で格差が開いていく点にある。一見、手術機器が進歩すれば、誰でもラクに手術ができるようになり格差が縮まると思うかもしれないが、現実は、真逆だ。

「ラーニングカーブが大きいんです。ダヴィンチによる心臓血管外科手術について言えば、最初は8時間かかったものが、150〜200件経験すると、最後は2時間でできるようになる。泌尿器だと20例くらいで短くなっていくデータもあります」(外科医・渡邊剛氏)。

製造業の工場における「経験曲線」と同じ理屈である。

 

件数が増えれば、患者の安全性も向上する。高額な医療機器の稼働率も上がり、投資の回収も早い。

医師が件数をこなすためにも、患者がよい手術を受けるためにも、1か所に集約するほうが効率的なので、件数が多い拠点に、患者も医師も集まる。

「高度な機械を使った手術は、件数が多いハイボリュームセンター(High Volume Center)に集約され、そこで経験を積んで生き残れる少数の医師と、それ以外の医師とで、格差が広がっていきます。外科医は『上澄み』しか残れない時代になりつつある」(同)。

 

テクノロジーの進化が、外科医の格差を拡大させていく。

機械は、いつまでたっても機械だ。

「結局機械というものは人間と一体になってはじめて完全になりうるもので、機械はいつまでたっても機械」

「如何によい機械でもそれを動かしうるまでの訓練が(原文ママ)積まなかったら、銘刀も鈍刀と同じである」

と述べたとされるトヨタ自動車創業者・豊田喜一郎の言葉は、AI時代に、ますます説得力が増していく。

なんでもAIに任せて、人間は娯楽に徹すればいい、と言う人もいるのだけれど、現実的には、いま生きている人間は、AIによってみんなが遊んで暮らせるようになる未来よりも、さらに格差が広がっていくことを心配したほうがよさそうです。

 

AIが人類を支配することはなくても、AIを使いこなせる少数の人間が、その他の人間の上に立つ未来は、あり得そうなのです。

最新の国勢調査結果(2015年調査)では、日本国内の15歳以上就業者数5889万人の職業が、232個のいずれかに分割されている。

それぞれの職業について、本書での定義に基づき、上下(知識←→技能)、左右(機械←→人間)の切り口を入れていくと、5つのエリアのどこで何人が働いているのか、がざっくりわかる。全体に占める比率を示したものが下の図で、次ページの図には、それぞれのエリアで多い順に10の職業を記した。

 

左側が、「現状の業務内容を前提とすると、中核業務がいずれテクノロジーに置き換わる」という意味での、”失業エリア”である。

ロボティクス失業(1)が28.5%、AI・ブロックチェーン失業(4)が5.5%、計33.9%となった。

別途、「分類不能の職業」が5つのエリアの外に5.1%あるので、これを除外した94.9%を100として計算し直すと、全体の35.8%が図の左側に位置し、計2106万人が、現状のままだったら失業する計算になる。

本では、わかりやすい図で説明されているので、ちゃんと知りたい方は、そちらを参照していただきたいのですが、ざっと3分の1の人が、近い将来に失業してしまう、ということになりそうです。

 

ただ、先のことはわからない、というのも事実なんですよね。

いまから20年前の2000年に、「ユーチューバー」なんて仕事で食べていける人が出てくると予想した人は、ほとんどいなかったはずです。

たぶん、今から10年後、20年後にも、「いまの人間には想像もつかない仕事」が生まれているのでしょう。

 

今回、新型コロナウイルスの感染予防のため、リモートワークが推奨されました。

そういう時期だからこそ、「やはり、人間が直接現場でやらなければならない仕事」と、「リモートワークでも可能な仕事」が見えてきた面もありますよね。

 

 

 

 

 

【著者プロフィール】

著者:fujipon

読書感想ブログ『琥珀色の戯言』、瞑想・迷走しつづけている雑記『いつか電池がきれるまで』を書きつづけている、「人生の折り返し点を過ぎたことにようやく気づいてしまった」ネット中毒の40代内科医です。

ブログ:琥珀色の戯言 / いつか電池がきれるまで

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