あらゆるビジネスパーソンにとって、コミュニケーション能力はもっとも普遍的かつ強力なスキルと考えられています。

それ故にこれまで、コミュニケーションをスムーズに行うための様々なメソッドが開発されてきました。

 

・結果から話す

・ロジカルに伝える

・解釈と事実を分ける

・エビデンスを示す

・相手の言っていることを言い換えて確認する

・アイスブレイクから始める

・3分以内にまとめる

 

などなど、皆さんも少し考えれば、両手では足りないくらいのコミュニケーションテクをあげることができるでしょう。

これらのテクニックが重要ではないとは、私は思いません。

しかしながら、一番重要だとも思いません。

 

そもそも、ビジネスにおけるコミュニケーションは、何のために行われるのでしょうか?

それは、「人を動かす」ことです。

この中には、「止める」「何もせず待つ」も含まれます。

 

また、今ではなく将来の行動を促すような、時間差を伴うものもあるでしょう。

いずれにしろ、ビジネス上のコミュニケーションの多くは、伝えた相手の行動になんらかの影響を与えることを期待して行われます。

これこそが、コミュニケーションの目的です。

 

そしてこのように目的を設定すると、先ほどあげたコミュニケーションテクよりももっと大事なことが見えてきます。

それは「相手がその気になる」ということです。

 

非の打ち所がない正論を、分かりやすく、論理的に伝えたとしても、相手が感情的にそれを受け入れなければ、そのコミュニケーションは失敗です。

逆に、多少伝え方がマズかったとしても、「いいですよ、やっておきますよ」と相手が快く協力する姿勢になったのなら、そのコミュニケーションは成功です。

 

困難な状況においても抵抗せずに受け入れようとする姿勢は、心理学では「アクセプタンス(受容性)」とも言われています。

この、アクセプタンスを作ることこそ、人を動かすことを目的とするコミュニケーションにおいて、どんなコミュニケーションテクを身に付けることよりも重要だと私は考えます。

 

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では、このアクセプタンスを生み出すためには、私たちは何をすればいいのでしょうか。

私は、以下の3つが特に重要だと考えます。

 

①丁寧な言葉の使い方をする

②人それぞれ違うことを前提とする

③日頃から深い信頼関係を作る

 

 

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①は丁寧語や敬語を使えという話ではなく、相手がどう受け取るかに配慮しない「雑な言葉の使い方」をやめましょう、ということです。

面と向かって話すと穏やかな人なのに、メールやチャットになると、どことなく攻撃的で、なんだか偉そうで、人を馬鹿にしたような、上から目線と受け取られかねない書き方をする人がいます。

その人の真意がどこにあるかはさておき、ほとんどの状況において、人は言葉を通じて、その人が自分をどのくらい尊重しているかを判断します。

 

相手から誤解を招くような、配慮を欠いた言葉の使い方をする人は往々にして、「コミュニケーションが下手な人」ではなく、「悪意がある人」「私を軽視している人」と判断されてしまいます。

もちろん日々の仕事の中では、他人の細かな言葉遣いなどいちいち気にせず働いている人も多いでしょう。

だからといって、不用意に小さな不快感や悪い印象を与え続けると、その人の信頼貯金は徐々に減っていき、コミュニケーションにおいて大切なアクセプタンスの構築からはどんどん遠ざかっていきます。

 

「○○を修正してください」と伝えるのと、「私もふと気が付いたのですが、○○は修正した方がいいかもしれませんね」と伝えるのとでは、受け手の印象は大きく異なります。

こういう配慮を「面倒くさい」と考えている雑な人は、言葉のクオリティがアクセプタンスに繋がり、コミュニケーションのクオリティに繋がり、最終的には自分に対する不利益として返ってくるという認識を持ち、もう少し丁寧な言葉遣いを心がけていくべきでしょう。

 

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②の「人それぞれ違うことを前提とする」は、ある種当たり前の話ですが、「自分がこうだから相手もこうだ」「あの人は大丈夫だからこの人も大丈夫」的な考えを捨てる、ということです。

アクセプタンスがどういう条件で生まれるかは、人によって大きく異なります。

厳しい言葉でハッパをかけられた方が、「よしやるぞ!」という気になる人もいます。

一方、厳しい言い方をされると、ストレスや不満をため込んでしまう人もいます。

 

なまじ成功体験があると、「自分がこうだったから」という発想で言動を決めがちですが、自分がそうだったから相手にもそうする、というのは他者のことを考えるのを放棄した自分勝手な発想です。

「こんなことでストレスを感じるなんてストレス耐性が低い」、あるいは「自分のやり方に付いてこれない方が未熟だ」といった考えに支配されている人が、いくら正論を述べ、ロジカルに分かりやすい話し方をしても、多くの人は「この人の言葉に従ってみよう」という気持ちにはならないでしょう。

 

仕事なので、時には厳しいコミュニケーションが必要な状況も出てきます。

意図があって、状況を見極めて、それを選択しているのならいいと思います。

しかし、誰彼構わずいつも厳しさ一辺倒の対応をするのは、単にコミュニケーションを面倒くさがってサボってるだけ、と受け取られていても仕方ありません。

 

人はそれぞれ違うし、自分とも違う。

アクセプタンスの発生条件も人それぞれ違う。

テンプレートのように一辺倒な接し方をするのは、アクセプタンスを作り出すことと反する行動である。

こういった前提に立たないと、アクセプタンスを生み出すことも、その先にある大きな目的である人を動かすことも、うまくはやれないでしょう。

 

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アクセプタンスにおいて大事な3つの中で、私が一番大事と考えているのは、③の「日頃から深い信頼関係を作る」です。

仕事というのは、最終的には成果を出せるかどうかで判断される厳しい世界なので、誰かに対して厳しいフィードバックや難題を伝えなければいけないことは、長いキャリアの中で当たり前に起こります。

 

そんな時、日頃から悩みを聴いたり、ランチに行ったり、といった関係ができている間柄と、そうしたことが一切ない、定型的な挨拶と業務以外の話をしない割り切ったドライな関係の間柄とでは、当然アクセプタンスも変わります。

「相手によって態度を変えるなんてプロじゃない」と非難する人もいるかもしれませんが、何が正解かも分からない状況の中で、相手にとって難しい協力を依頼しなければいけない時、「この人は信頼できる」という思いが根底にあるかどうかに、人の判断は左右されるものではないでしょうか。

 

今の時代は、どちらかと言えば、個人に深入りするようなウェットなコミュニケーションより、一線を引いたドライなコミュニケーションを好む人の方が多いかもしれません。

私自身も、ドライなコミュニケーションをより好んで、ここまでのキャリアを進めてきました。

しかし、難しく大きな課題に取り組む時、ウェットなコミュニケーションで繋がっている関係の強さを実感することもあります。

 

どうしても、仕事の人間関係に深入りしたくない、ということであれば、①や②を徹底的にやり切れば、大きな問題は発生しないかもしれません。

しかし、①や②も不十分で、③もドライ路線だと、いくらコミュニケーションテクを身に付けても、コミュニケーションの成功確率がなかなか上がっていかないでしょう。

 

なぜなら、アクセプタンスができていない状況では、人は動いてくれないからです。

価値ある仕事ほど、高度で難しいものです。

そんな仕事ほど、アクセプタンスを作れるどうかが、成功するかどうかに大きな影響を与えます。

 

コミュニケーションの技術は飛躍的に進歩していますが、「人は感情で動く」という基本はずっと変わっていません。

感情には、あらゆる合理的な説明も、充実したエビデンスも、滑らかな話術も、すべてを無効化する力を持っています。

そのことに目を向けることができなければ、真に「コミュニケーション能力が高い人」になることは難しいでしょう。

 

 

 

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(2024/3/26更新)

 

 

 

 

【プロフィール】

 

枌谷 力

株式会社ベイジ代表。

新卒でNTTデータに入社。4年の企画営業経験の後、デザイナーに転身。制作会社を2社を経て、2007年にフリーランスのデザイナーとして独立。2010年に株式会社ベイジ設立。経営全般に関わりながら、クライアント企業のBtoBマーケティングや採用戦略の整理・立案、UXリサーチ、コンテンツ企画、情報設計、UIデザイン、ライティング、自社のマーケティングや広報、SNS運用、ブログ執筆など、デザイナー、マーケター、ライターの顔を持つ経営者として活動している。

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