大学時代の話だ。

 

部活の飲み会にて好みのタイプを聞かれ

「好みのタイプは特にありません。けど、嫌いなタイプはハッキリしています」

「僕の事を嫌いな人が大嫌いです」

と言った事がある。

 

それを聞いていた上級生が

「お前は子供か!好き嫌いで人を判断するな!!!」

と答えたのだが、僕はこの言葉に結構長い間モヤモヤしていた。

 

なぜモヤッとしていたかというと、多く人は好き嫌いで意思決定を行っているとしか思えなかったからだ。

 

人間は必ず感情に影響されて意思決定を行っている

そのモヤモヤは働き始めた後により強固となった。

 

詳細は控えるが、僕は仕事で意思決定が好き嫌いに依存している人をあまりにもたくさんみすぎた。

この事で心の底から

「人に好かれる事は得しかないが、人に嫌われる事は損しかない」

という事を理解した。

 

実は感情が意思決定の大きな部分を担っている事は脳科学的にも証明されている。

ポルトガルの神経学者アントニオ・ダマシオは脳腫瘍で前頭葉の眼窩前頭皮質を切除した患者がIQ(知能指数)、記憶、学習、言語等においてなんら問題がなかったのに、全く意思決定ができないことに気がついた。

 

彼・彼女らは食事のメニューを決めるといった簡単な意思決定すらできなく成り果てていた。

頭は働かせられるしモノも考えられるのに、何かを決めるという事だけが著しく困難になってしまったのだ。

 

「この不思議な現象は何に起因しているのだろう?」とダマシオは脳の病で眼窩前頭皮質を取り除く手術をした患者50人余りほど集め研究を重ねたところ、前頭葉の眼窩前頭皮質は理性と感情を結びつけている部分だという事が判明した。

この事よりダマシオは“意思決定の最後の部分は理性ではなく感情によりなされる”という驚異的な事実に至った。

 

先程の食事のメニューが決められなかった人たちは「今日は何を食べたい気分」という本能による働きかけが理性にまで伝わらなかったので、最後の最後にエイヤっと踏ん切りがつけられず、それ故に意思決定が無理になってしまったというのである。

 

好き嫌いは本能でだいたい決まってしまう

やっぱり人間の意思決定は好き嫌いのような情動が大きく作用していたのである。

大人とか子供とか、そういう問題では済まされない話だったのだ。

 

そしてこの好き嫌いを決める部分だが、実は脳の理性を司る大脳新皮質ではなく古い脳である大脳辺縁系に多くが依存している。

大脳辺縁系は人間の本能が詰まった部分だが、その決定のほとんどは無意識下で処理されている。

 

そう考えると、女性がよくいう「生理的に無理」という単語はある意味では実に本質をあらわしている。

実際、好き嫌いは理性で制御できるような甘いものではない。

ギャンブルやホスト、アルコールの依存症患者がみな理性でもってこれらの病を克服できてないという例を持ち出すまでもなかろう。

 

人間、好きなものは理由もなく好きだし嫌いなものは理由もなく嫌いな生き物である。

そして好き嫌いを理性でもってある程度は抑制する事は可能かもしれないが、それは感情を抑え込んでいるだけで残念ながら何も感じていないという事とイコールではない。

 

私達は好む好まざるとにかかわらず、好き嫌いの感情が意思決定に影響してしまうようにできている。

その影響を完全に回避できる人間などこの世には居ないのだ。

 

脳が感じる嫌いに対する感情は腐ったものを食べたときと同じ反応だった

続いて、嫌いの感情は皆が思っている以上に脳の中で強烈な感情として処理されているという衝撃的な話を紹介しよう。

 

売り方は類人猿が知っている(ルディー 和子・著)によると、人間が嫌いなものに直面した時に感じる時の顔の動きは、なんと腐った食べ物を食べた時に感じる顔の動きとほぼ同じなのだという。

僕はこれを知った事で嫌いな人間に対して嫌悪感を抱くのはもう仕方がないのだと諦めがついた。

 

今までの人生において苦手な食べ物を好きになった事は何度もあったが…腐った食べ物の味を美味に変換するのは一生できる気がしない。

嫌いという感情は食べ続けたら食中毒となって死んでしまう腐った食べ物の摂取と紐づいているのだとしたら、たぶんそれは人として生理的に克服不可能な何かである。

 

嫌いになってしまった人同士が感情の面で折り合いをつける事は腐ったものを美味しくいただけるようになる事と同じぐらい難しいのだとしたら、気の合わない相手との相互理解や仲直りなんて明らかに非現実的な何かでしかない。

 

なので分かり会えそうにない人との話し合いなんて最初から無駄だと割り切った方が無難だろう。

対話の果てに相互理解が生じる可能性を完全には否定しないけど、それは生理的に無理な人を好きになるのと同じぐらい達成困難だと僕は思う。

 

小泉構文は脳髄を直撃する魔性の弾丸

「好き嫌いが理性の外側にあるのだとしたら、人に好かれたかったら逆に前頭葉のロジカル部分って使わない方がいいんじゃないか?」

この事に気がついた時、僕が小泉構文の持つ破壊力の恐ろしさに身震いした。

 

知らない人も多いだろうから簡単に説明すると、これは自民党の小泉進次郎議員が繰り出す論理的に考えると何を言ってるのかがよくわからない発言を揶揄したものだ。

 

例えば小泉進次郎議員は2019年に「今のままではいけないと思います。だからこそ日本は今のままではいけないと思っている。」というような発言をした事がある。

 

これは文面に書き起こして読むと全くよくわからないとしか言いようがないものだが、前頭葉に人間の好き嫌いを作る力が無い事を考えると実は大変に凄い技術の可能性がある。

 

先ほども書いたが、人間の好き嫌いはロジカルの外側にある。

だとしたら好き嫌いが決まるのは、ロジカルの外側にある何かが作用しているという可能性がある。

 

そこで先ほどの小泉構文をみなおすと内容を全部取っ払ってみればあれは”テレビでイケメンが自信満々にモノを断言している”という構図でしかない。

 

これが私たちの前頭葉を通過して、脳の奥底にある私達の”好き”をピンポイントに揺さぶる魔性の弾丸として作用する。

あの動きをみる事で多くの人達は無意識のレベルで彼の事を好きになっている。

実際、彼の事を嫌いな人はそういないのではないだろうか?

 

なので小泉構文がロジカルでないからバカだと揶揄している人達は事の本質をまったくもって見誤っている。

あれは人に好かれる呪文の詠唱である。

 

むしろ下手に小賢しい事を言って悦に耽ってる人こそ、その行いで自分が相手の好感度を下げる行いをしているかもと猛省すべきだろう。

論破なんて特に最悪だ。

それは人に嫌われる為の最速の手段だろう。

 

社内政治を馬鹿にしてはいけない

小泉進次郎議員の神業ともいえる技術は彼の支持率を上げるのみならず、彼の身の回りの安全をも守るのにも多分役立っている。

 

皆に好かれている人は他人から攻撃される余地がない。

その逆である誰かに嫌われている人は…いつ何時、攻撃されたとしても全くおかしくない。

かつて僕は礼節や稟議と根回しといったものが何の為に存在しているのかがサッパリわからなかったが、最近いろいろと手痛い目にあって礼節や稟議と根回しこそが自分の平和を守る為に何よりも大事なものであると心の底から思うようになった。

 

残念ながら全ての人に好かれる事は難しい。

誰にでも合う合わないはある。

 

故に合わない人が所属する組織に出てきた時、あなたを守ってくれるのはあなたの事が好きな周りの人だけである。

あなたが嫌われ者だとしたら…追い出されるのはあなたの方である。

なので社内政治をバカにしてはならない。

礼節や稟議、根回しが最も本領を発揮するのはあなたと敵対する誰かが現れた時こそであり、そういう落とし穴のような場面が起きた時、あなたの支持率が全ての行く末を決める。

 

政治力は人として生きやすい筋道を整備する為の必須科目といっても過言ではない。

これは会社だけに限らず家庭や友人といったつながりにおいても非常に強力に作用する。

 

有事に備えて、平和な時こそ支持率をガンガン頑張って上げておくべきなのである。

所属組織における自分の好感度こそが何にも勝る盤石なる平和の為の基盤なのだから。

 

処世術としての人に好かれる技術は、高めれば日本の宰相にまでなれる

最後にある人間の話をしよう。

彼は生まれついての人情と気遣いの細やかさで人心掌握に人一倍長けており、とにかく人に好かれる事にかけては右に出るものがいないと言われていたほどの人間である。

彼は日本の片田舎に生まれ、小学校卒という低学歴ながら54歳で日本の首相の地位に上り詰めた。

 

彼の名を田中角栄という。

 

人間は誰かに好かれるというただ一点を究極レベルにまで突き詰めてゆけば、首相にまでなれるのである。

人に好かれる事の威力を理解するにあたって、田中角栄さんほどに有用な例もそうはない。

 

自分の周りを好感度で固めよう。

礼節や稟議、根回しはやりすぎかと思うぐらい徹底して丁度いい位である。

 

目の前の人を喜ばせてみよう。

褒めるところは意識してみれば誰にも無限にある。

どんなに相手が喜ぶ事を口に出していったとしても、1円すらかからない。

しかしその褒め言葉は相手からすれば大金を払ったとしても聞きたい何かだったりするのである。

 

ゼロ円のコストで相手から好かれる。

こんなにも良い取り引きができるのなら、やらない方がむしろ損ではないだろうか?小泉構文は使えなくとも、他人を褒める事ぐらいなら誰にだって可能だろう。

 

そうして作り上げた好意の渦は必ず巡り巡って貴方を助けてくれる。

もし目の前にあなたの気に食わない奴があらわれたら…頑張って上げた支持率を使う絶好のチャンスである。

 

あなたが直接手を下す必要はない。

用意周到にジワジワと相手を追いつめ、身の回りから追い出してしまえばよいのである。

我慢なんて体に毒だ。支持率が無かったら我慢しか選択肢は無いし、追い出されるのはあなたかもしれないが。

 

そうやって、自分にとって都合のよい空間を自分の裁量でもってコントロールする。

たぶんこれが政治ってヤツの本質なのである。

 

 

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(2024/3/26更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

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高須賀

都内で勤務医としてまったり生活中。

趣味はおいしいレストラン開拓とワインと読書です。

twitter:takasuka_toki ブログ→ 珈琲をゴクゴク呑むように

noteで食事に関するコラム執筆と人生相談もやってます

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