「仕事を教えてください」と言われると、大抵の人は困った顔をする。
しかし「できました。チェックしてください」と言われると多くの人は結構ちゃんとミスを指摘できる。
これ、実に興味深くはないだろうか?実はこのエピソードに教育とか成長のコツが結構つまっているのである。
というわけで今日は教育とか成長に関しての雑感を書き綴っていこうかと思う。
成長とは淡々とミスを指摘され、淡々と受け入れていくこと
働く前に、仕事についての心構えでも学ぼうかと思い、当時ライフネット生命の副社長だった岩瀬大輔さんの「入社一年目の教科書」を読んで、とある記述に愕然とした。
当時、ボストン・コンサルティング・グループに勤めていた岩瀬さんは、70点ぐらいで成果物をサクッと仕上げたら上司に提出し、そこで提出したものを赤ペンで真っ赤に修正されていたのだという。
在学中に司法試験に合格するようなウルトラエリートの岩瀬さんですら、メチャクチャにミスを指摘されるのだなぁという風に僕は驚きつつ、次の記述に僕は文字通りおったまげたのであった。
「他の奴らはミスを指摘されると嫌そうな顔をするのに、岩瀬は嬉しそうな顔をするよなー」
この何気ない一文はウブだった学生時代の僕の心を随分と揺さぶった。
私達はミスはあまりよい事ではないという風な教育を施されている。テストでは100点が一番良いと思いがちだし、完璧を常に徹底しろという風な事を様々な場面で言われる。
しかし本来、特に初学者の段階ではミスはやっていいものなのだ。
最近読んだ大変興味深いエピソードのうちの一つに、将棋の名人を倒したAIプログラムPonanzaの開発者である山本一成さんのプログラムのエラーが出ることを怖がる学生さんたちという話がある。
プログラムのエラーが出ることを怖がる学生さんたち – Togetter
山本さん曰く、「大学のプログラミングの授業を生徒さん達に教えている時でとにかく衝撃的だったことは、生徒さんが『プログラムを実行しないこと』だ」という。
どうやら「プログラムを実行すると、文法エラーや結果が全然あってないなどの「間違い」が発生するのを恐れている」のがその原因だという。
これに対して、とある方の返答でこのようなものがあった。
「私が小学生のころに読んだC言語の本には、例外なく「コンパイルエラーは怖くない、実行エラーも恐くない、実行してみよう」という事が繰り返し書いてあって、その通りにしていてこの考え方が身に付いた」
「たぶんこれは、初学者にとっては思った以上に自明じゃない」
このように、多くの人はミス≒してはいけないこと、恥ずかしい事だと思っている節がある。
しかし学習初段階においては、ミスは「自分がどこをわかっていないのか」を明らかにしてくれる唯一のヒントである。
プログラムも書いたらとりあえず実行してみて、走ればそれで良し、エラーがでればどこが間違っているのかを探し、何度も何度も修正する事で初めて、「自分がどこを理解できてないのか」がようやく理解できる。
実はこれ、冒頭で書いた岩瀬大輔さんの入社時の赤ペンエピソードと全く同じである。
ハーバードMBAを取るようなウルトラエリートですら、入社時は成果物を真っ赤に訂正されるのだから、いわんや私達のような凡人をや、である。
ミスは決してしてはいけない事ではないし、ミスを指摘される事も、決して恥ずかしい事ではない。
むしろ、間違ってくれないと、指導者側もどこをどう理解できてないのかがわからず、教育の施しようがないのである。
だから、冒頭に書いたように、多くの指導者は「仕事を教えてください」と言われても、大抵の人は困った顔をしてしまうのだ。
けど「できました。チェックしてください」と言われると、多くの指導者は、「あーここが理解できてないのか」という事がわかりやすく可視化されるので、簡単にそれを指摘する事ができる。
ここまできて、教育とは、学習者サイドからすれば、
「手取り足取り教えてもらう事ではなく、間違いを直してもらい、それを愚直に受け入れる個人の心の鍛錬」
であるという事が初めて理解できる。
そして指導者にとっての教育とは
「ミスはしていいものである。っていうかしてもらわないと指導しようがない」
「残念ながら私はテレパシー能力を持ってないので、あなたが何をどう理解できていないのかを察する事ができない。だからミスはしてくれないとむしろどう教えていいかがわからないので、困る」
「加えて言うと、ミスの指摘は決してあなたの事を怒っているわけではない。あの東大・ハーバード卒の岩瀬さんですら初めはミスだらけだった。失敗を怖がらずにゆっくりと成長していこう」
という事をしっかりと伝える事であるという事がわかる。
こういう事をキチンと学校なり会社なりで徹底化させていくと、なんつーか教える側も教えられる側も、もうちょっと生きるのが楽になるのになーと思うんですけどね。
結局のところ、仕事というか物事のモチベーションっていうのは、自分がやった成果物に対して褒めとか称賛が入るってことでしか回転しないものなんですよね。
けど学習初段階では、褒めも称賛も簡単には手にできないじゃないわけですか。
だからやる気のない人の教育って難しいんですよね。だって学ぶ動機が全く湧き上がらないわけですし。
だからこの初めの段階をサクッと終わらせてあげて、そこそこ評価される成果物を出せるようになれるところまで持ってってあげられれば、多くのやる気のなかった人もやる気スイッチがガクンと入ってモリモリ働けるようになれると思うんですけどね。
やっぱし、生産できるって喜ばしい事ですよ。何かして、人の役に立てて、それで褒めてもらえる。
こういう生きる喜びみたいなのを、もっとみんなが簡単に手にできればいいなって思いながら、今日も上司からの遠慮のない辛辣な言葉によるミスの指摘を笑顔で受け入れ、後輩の心が壊れないように細心の注意を払いつつ、ミスの指摘ならびに何を訂正すればいいかの指導を淡々と行っております。
疲れる(´;ω;`)
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】 ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。
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【セミナー内容】
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3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
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・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
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・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
【プロフィール】
都内で勤務医としてまったり生活中。
趣味はおいしいレストラン開拓とワインと読書です。
twitter:takasuka_toki ブログ→ 珈琲をゴクゴク呑むように
noteで食事に関するコラム執筆と人生相談もやってます→ https://note.mu/takasuka_toki
(Photo:Perry Hall)