人生哲学なんてたいそうなものは持ち合わせていないが、わたしは選択肢の多い人生を送りたいと思っている。
「これしかできない」よりも「たくさんの可能性のなかから選べる」という人生の方が、楽しそうだからだ。
でも、「日本は人生の選択肢について考えづらい国かもしれないなぁ」なんて思っている。
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日本では、中学を卒業したら高校へ進学し、高校に進学したら大学に行くか就職するのが「ふつう」だ。
わたしも長い間、日本的な規定路線に疑問をいだかずに生きてきた。
中学3年生になったら自然と進学塾に行くようになり、成績を鑑みて地元の公立+私立の滑り止め1校を受け、予定通り高校生になった。
高3になれば、大学受験を見越して勉強する。わたしが通っていた高校はほぼ全員進学希望だったから、これまた深くは考えなかった。大学は知名度とアクセス、偏差値からある程度絞り、一度も触れたことのない学問をウィキペディアで調べて受験した。
大学生になったら、ちゃんと単位を取り、時期が来たらみんなで一緒に就職をするのが決定事項。大学は企業への就職を後押しするばかりで、ほかにもいろんな働き方があることを伝えることは少ない。だからわたしも、当然のように就活に片足を突っ込んだ。
どの学校へ行くか、どの企業で働くか。その場その場で「どれにするか」という選択はあっても、「どう生きるか」なんてことは、まともに考えたことはなかった。
日本には規定路線があるから、自分の人生なんてむずかしいことをわざわざ考えず、なんとなく「こう生きてればいい」という道しるべにしたがっていたのだ。
こういう人は、多いと思う。
規定路線に沿うことは、悪いことじゃない。
ただ、規定路線の上にいることで、それ以外の選択肢があることを気づけないのは、ちょっと問題だなぁと思う。
わたしがドイツの大学に入学して驚いたのはまず、みんな年齢がちがうということだった。
直接進学した人、1年間ボランティアをしてから進学した人、3年働いてから大学に入った人、転科してきた人。みんなそれぞれ、人生の選択をした結果、大学に通っていたのである。
卒業するタイミングも就職するタイミングもバラバラ。3年で卒業して就職する人もいれば、5年で卒業してその後インターンシップをいくつか経験する人もいるし、大学を辞めて職業教育に切り替える人だっている。
こんな状況なものだから、「○○らしくしなさい」「××しないなんてみっともない」という考えもあまりない。
わたしが「もう20代も半ばだからちゃんと働いかないと……」なんて言うと「なに言ってるの、まだ若いんだからやりたいことをやりなさい!」と言われるし、「フリーランスです」と言っても「あらそう」と淡白な返事で終わる。
何歳だろうが、どんな立場だろうが、意思をもって選んだ道なら、たいていの場合はとやかく言われない(さすがに働かずゲーム三昧、となると話は別だが)。
こんな感じだからこそ、ドイツには自分の人生を選び取っていくという意識が根付いているんだと思う。
でも日本だと、明確な規定路線があるから、それから外れる選択肢が視野に入らないようになっている気がする。いや、「あえて目を向ける必要がない」と言うべきか。
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こんなことを書くと、「日本批判」「欧米賞賛」なんて言われそうだが、まぁ待ってくれ。わたしは別に、ドイツが優れているとは思っていない。
というより、日本だって同じくらいの選択肢があるはずなのだ。
新卒で就職しなくたっていいし、30代で大学に通ってもいいし、仕事をせずにボランティアをしてもいい。ドイツでできるたいていのことは、実は日本でもできる。
規定路線から外れると片身が狭かったり、悪目立ちしたりする可能性があるが、日本でだって好きなように生きることが可能なはずだ。
よく「敷かれたレールの上を歩く人生なんてつまらない」と言う人がいるが、ではそういう人が無理やり親に進学させられたり、家業を継ぐことを強制されたかというと、案外そうでもない。
だれかが頼んでいるわけでもないのに、勝手に「みんながこうするからこうすべきなんだ」と自分で思い込み、それをだれかに押し付けられた生き方だと思っていただけにすぎない人も多いのだ。
その気持ちはよくわかる。
日本にいたとき、わたしは疑問ももたずに大学に進学したし、留学する機会が舞い込んでこなかったら、ふつうに就活して就職を選んだだろう。
でも、それ以外の生き方だって、本当は可能なのだ。
日本では、わざわざ<ソト>に目を向ける必要がない。
みんなが踏みならしてできた確実な道から逸れて舗装されていない泥道を歩くなんて、かなりのモノズキである。
わたしが高校生のとき、海外に大学があるのはもちろん知っていた。でも自分が進学するなんて考えてもみなかった。
大学で専攻を変えるのは不可能じゃないと知っていても、やっぱりその専攻を修了するのが当然だと思っていた。
フリーランスという働き方は知っていても、自分は就活して企業に勤めるものだと思っていた(結局フリーランスになったが)。
これは、日本にその選択肢がないわけではなく、日本ではそういった選択肢が視野に入らないような雰囲気になっているからだと思う。
道しるべがあること自体は悪いことではないし、道しるべがあることで迷わず生きられる人もいる。
ただ、それ以外の選択肢も、実は世の中にはたくさん、本当にたくさんあるということには、気づいたほうがいい。
学校はなかなかそういうことを教えてくれないし、親が企業勤め、自分も大卒就職組なら、それ以外の選択肢に目を向けようなんて思わないかもしれない。
ただ、するかしないかに関わらず、「ほかにも選択肢がある」ということが頭のなかにあるかどうかは、とても大切だ。
わたしはフリーランスとして働いているけど、会社員として働くという選択肢ももっている。
ドイツに住んでるけど、日本に戻ったり、ほかの国へ行く可能性だってある。
「こういう生き方じゃないとダメ」
「こうするのが当然」
こんな思い込みで自分の可能性を狭めないで、「人生にはたくさんの選択肢があり自分で選ぶことができる」と思っていたいし、そうやってより自分らしい選択ができる人が増えればいいな、なんて思っている。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】 ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。
(2025/6/2更新)
ティネクト代表の安達裕哉が東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。
ティネクトでは現在、生成AIやマーケティング事業に力を入れていますが、今回はその事業への「投資」という観点でお話しします。
経営に関わる全ての方にお役に立つ内容となっておりますでの、ぜひご参加ください。東京都主催ですが、ウェビナー形式ですので全国どこからでもご参加できます。
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ——
「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。
【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
【プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
Twitter:amamiya9901
(Photo:Gerwin Sturm)