就活も、そろそろ終わりだ。

好景気なのか、「どの会社に行けばよいか」と言う相談が今年は多かった。

 

そして、多い相談の一つは「優しい」会社か「厳しい」会社のどちらが良いかだ。

 

私はその問いには直接、答えられない。

だが、一つのエピソードをいつも思い出す。

 

 

ある会社で「成果の認識」について、十数名にインタビューをしたときのことだ。

「今期、あなたがあげるべき成果はなんですか?」と聞いたところ、

「売上目標の達成」と答えた営業がいた。

「それだけですか?」と彼に聞くと、しばらく考えて、「んー、利益目標、というのもありましたかね。」という。

「他には?」と聞いても、何も出てこない。

こんなやり取りが延々と続いた。

 

実はそのたった一週間前に行われたキックオフで、経営者は「売上目標の達成」「利益目標の達成」「リードタイムの短縮」「顧客満足度向上」の4つの成果を、明確に述べていたのだ。

彼らは自分の成すべきことおろか、目標の内容すら、ほとんど覚えていなかった。

 

おそらく「成果については自分の話ではない」という感覚だったのだろう。だから、聞こえなかった。見えなかった。

このように、大半の従業員が「眼の前のタスクをこなすこと」を自分の仕事だと思っている会社は、結構多い。

 

 

そんな中、ある一人の社員だけは様子が違った。

彼は会社の目標は完全に理解し、「今期、どのような動きをすべきか」について、完璧に語ってくれた。

話を聞くと、彼は「勝つことが好きだ」「会社が好きだ」という。そのためには、なりふり構ってはいられない、とも彼は言った。

 

彼は時に、成果を挙げるために、邪魔な人間、無能な人間を排除し、逆に実力ある者をしかるべきポストにつけるよう動いた。

生産性を高めるための新しいルールを適用し、有能な新人に熱心に教育を施して育成をする一方、成果に対して無頓着な人物たちに、評価を通じて改善を要求した。

彼は誰よりもよく考え、働き、そして何より、実際に成果を誰よりもあげた。

 

だが、彼は決して好かれなかった。

むしろ、社内では鼻つまみ者だった。

加えて、能力を誇示する言説が多かったし、ときにちらりとのぞく傲慢さに気づく人もいただろう。

特に、年配者たちは彼の能力を恐れ、かつ彼の態度の悪さを嫌った。

 

実際、無能なベテラン、そして彼のアンチたちは言った。

「上司の機嫌を取るのはうまい」

「成果の話ばかりで気持ち悪い」

「人の気持ちがわからない」……

 

 

 

そして、転機が訪れる。

彼のチームの一人が休職を申し出たのだ。

アンチたちはそれを見逃さなかった。

「彼はパワハラをしていたのではないか」と経営陣に訴えたのだ。

 

だが私には、それはほとんど言いがかりに近いようにも見えた。

なにせ休職に入ってしまった彼は、彼と同じチームになる前から、よく休みをとっていたのだ。「彼のせいである」と断定するのは難しい。

が、彼を普段から疎ましく思っていた役員の一人がそれに便乗したため、騒ぎが大きくなった。

 

もちろん経営者は、それが半分言いがかりであることを知っていた。また、彼の会社への貢献度を考えれば、彼のマイナス面は目をつぶれると考えていた。

しかし、経営者は一方ではこう思っていた。

「彼の傲慢さは、直させなければならない。」

 

そして、経営者は、彼に「成果を出してくれているのは認めるが、社内での評判の悪さは、直して欲しい」と、告げた。

彼は「なぜ、成果を出さないやつらに配慮する必要があるのですか」と抗弁した。

 

だが、その経営者は「トラブルを起こさない」ことで出世したタイプの人物だったため、彼に対して理解を示さなかった。

結局彼は、降格や左遷などはなかったものの、いくつかの仕事から外された。

経営者からすれば「少し頭を冷やせ」という程度だったのかもしれない。

 

だが彼は、大きなショックを受けた。

ここまで会社に貢献してきたのに、経営者に裏切られたようだ、と彼は言った。

 

後日、彼はその企業に見切りをつけ、倍以上の報酬の外資系企業に転職していった。

 

 

さて、上の話、どちらの側の気持ちがよく分かるだろうか。

二つの対立する「成果」に対する価値観の違いを、私はよくあらわしていると思っている。

 

一方は、成果が主であって、そのために従たる人がいる、という考え方。厳しい会社。

そしてもう一方は、人を養うことが主であって、成果を挙げるのは従である、という考え方。優しい会社だ。

 

とはいえ、会社は「成果をあげたものしか生き残れない」という非常にわかりやすいルールによって、世の中から存在を許されている。

どんな高邁なことを述べたとしても、どのような崇高な理念を掲げていたとしても「顧客から評価されて、利益を残す」という事ができなければ、キャシュが尽きて、法的にも実質的にも消滅する。

 

そして、現代ではそこで働く従業員にも同じルールが適用されつつある。

結果を残せない従業員は経営者から改善を要求され、それが無理なら経営者と同様に排除される。

 

例えばGoogleは「公平な報酬とは、報酬がその人の貢献と釣り合っていること」と言っている。

Appleは「成果を挙げれば評価されるが、挙げなければ、失職も含め非常に高いコストを払わされる」と言っている。

Facebookは「過程ではなく、結果に目を向ける」と言っている。

 

 

この話をした一人の就活生は言った。

「当然、厳しい会社で実力をつけるべきですよね。」

私は「そう思うのなら。」と言った。

 

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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
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(2025/6/2更新)

 

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