昔所属していたSI会社で、「職場に居場所がないおじさん」の救済プロジェクトに関わったことがあります。

 

いや、実際にそういうプロジェクト名だった訳ではなくて、確か

「キャリア再考プロジェクト」とか「スキルリデザインプロジェクト」とか、なんかそんなかっこいい名前だったような気がするんですが、

一緒に関わった先輩が言った「これ、やってることは職場で居場所がないおじさんのサルベージだよな…」という言葉が強く印象に残っていて、私の中でプロジェクト名が上書き保存されました。

 

まあその先輩、「リストラ前のアリバイ作りじゃねーの」とかひどいことも言ってたんですが。

どんなことをやったかというと、要するに人事部のサポートみたいな話でして、

 

・所持スキルが案件に合わず、なかなかプロジェクトにアサイン出来ない人

・プロジェクト内でスキル不足の為タスクが振れず、PMから扱いにくいとアラートが出ている人

・要は社内ニートに近い立場になってしまっている人

 

を対象に、今後身に着けたい技術があるか、やりたいタスクやプロジェクトの方向性は何か、今後のキャリアをどう考えているかといったことをヒアリングして、可能であれば他のプロジェクトにアサインを打診したり、スキル取得を提案したり、というような内容でした。

 

本来人事の仕事のような気がするんですが、「技術的なスキルアンマッチについては人事部だけでは分からないこともあるだろうからエンジニアも参加させろ」みたいなことを言った偉い人がいたようで、当時色んなプロジェクトに顔を出していた私たちが体よく狩り出されたような印象でした。

余計なこと言うなよって感じです。

 

対象者は当時の私よりもだいぶ年上の人たちばかりで、基本的には技術志向、マネジメントはあまりやりたくないけれど自分の今まで身に着けたスキルで社内に仕事がない、という人たちでした。

 

正直、こんな若造(当時)とキャリアの話なんてしたくないんじゃないかなあ…とも思ったんですが、いざ話してみると、少なくとも表面的にはざっくばらんにお話してくれる人たちばかりでした。

まあ、そういう人でないとそもそもプロジェクトの対象にならなかったのかも知れないですが。

 

***

 

で、これは私の見識が狭かったんですが、皆さん、別に仕事が出来ないとか、能力が低いとか、そういう訳では全然ないんですね。

 

アサイン歴を見たりお話を伺っていると、少なくともある一時期は、開発案件や運用案件でばりばり働いていた人たちばかり。

とあるBtoCシステムの面倒を数年ほぼ一人で見ていた人もいれば、少人数でかなり大規模なシステムをリリースまでもっていってしまった人もいました。

 

彼らの共通点は、「一つのプロジェクトに、余りに長い間関わり過ぎてしまった」ことであるように、私には見えました。

 

つまり、少なくとも一時的には、ある業務、あるシステムの中核的なメンバーだったと。

「その人なしでは仕事が回らない!!」というような立ち位置だった、と。

そして、本人も、その中で遮二無二仕事を回してきた、と。

 

ところが、その一つだけの業務にどっぷり関わり過ぎて、他のスキルを身につける隙も、キャリアアップを考える余裕もないまま時間だけが経って、その案件がなくなった時にはすっかり潰しが利かなくなってしまっていた、と。

今更新しいスキルを身に着けるのも大変だ、と。

 

会社の側も、恐らく「その人がいれば仕事が回るから」ということで、人員の余剰を作りもせず、その人が仕事を離れる隙を与えてあげなかったんだろうなあ、ということが容易に想像出来ました。

 

そういう意味で、その人たちは会社の犠牲者でもありました。

だからこそ会社も、リソースを投入してでもその人たちを救い上げようとしていたのだろう、と思いはするのですが、だったらもっと早く手を打ってあげるべきだろう……というのも正直なところです。

 

一方前述の先輩の方は

「いくら業務が忙しかったからといって、いつまでもその案件が続く訳じゃないってことは誰にでも想像出来ること」

「それで新しいスキルを身に着けようとしないのはエンジニアとしての怠慢」

というスタンスに近く、私よりもだいぶその人たちに対してシビアな視線を向けていて、喫煙所で意見のぶつかり合いになったこともありました。

 

皆さんはどう思いますか?「仕事が忙しくて新しいスキルを身に着けられなかった」のは、エンジニアにとって自己責任なのでしょうか?それとも会社の責任なのでしょうか?

 

***

 

ところで、手前みそで申し訳ないんですが、先日こんな記事を書きました。

躊躇せず「今の体制じゃ出来ません」「取り敢えず足元を固めさせてください」と言うのも、大事な仕事のうち。

「こいつに教えてやらせよう」となってもマニュアルを整備する時間すらとれず、じゃあ採用しよう、と言ってそう簡単に運用に明るい人材が採用できるわけでもなく、実際にはチケット管理システムの権限管理も、グループウェアの組織変更のメンテナンスも、バッチが異常終了した時のBIツールのリカバリも、全部私がやらざるを得ませんでした。

振り返ると、私自身にとっても、この時「職場に居場所がないおじさん」への道は見えていたなーと思ったんです。

 

ぶっちゃけた話、「自分がいないと業務が回らない状態」って、気持ちいいんですよ。

会社にとっての自分の価値も上がった気がしますし、皆に頼られるのも悪い気はしませんし、評価だってそれなりにしてもらえます。

 

実際のところ、会社での生き残り戦略として

「自分がいないと業務が回らない状態を維持する」

というのも成立すると思いますし、自分がそちらに進んでいた可能性だってあったなあ、と思うんです。

 

ただ、私の場合、飽きが早いのであんまり長い間同じことをやりたくない。

そして、アラートを会社に出しまくっていたらたまたまそれを拾って動いてくれる人が現れた、というだけ。本当にそれだけなんです。

 

あのままずっと業務を回すだけであれば、勿論スキルは全く育たなかったでしょうが、それでも会社になくてはならない人材として重宝はされたでしょう。

 

けれど、業務や案件というものは、いつなくなるか分かったものではないんですよね。

全く新しいパッケージで既存パッケージが置き換えされるかも知れないし、業界の問題で業態が丸ごとひっくり返るかも知れない。

 

会社自体がなくなる可能性だって勿論あります。

その瞬間、「自分がいないと業務が回らない」ということによって担保されていた自分の価値はゼロになります。

そして、その時、新しい環境で十分に勝負出来るかどうかというのは、運と、能力と、持っているスキルによります。

 

「会社にとっての自分の価値」「業界にとっての自分の価値」はどこにあるのかなあ、ということを、たまに考えます。

ある業務、ある案件に「なくてはならない存在になる」というのは、それはそれで一つの価値です。

そこで勝負するというのも、選択肢としては全然ある。

 

けれど、多分それよりずっと「強い」のは、業務を創る側、仕組みを創る側に回ること。

仕組みにがっつり自分を組み込むよりは、恐らくそっちの方が遥かに大きな利益を出すことが出来るし、自分の価値を高く維持出来るんだろうなーと。

 

かつての私は、「業務を創ることは出来たが、それを回すことを考えていなかったので、自分で回さざるを得なくなった人」でした。

本来、「回す体制」「回す仕組み」まできちんと考えて、「自分がいなくても仕事が回る状態」を作った方が、会社にとっての利益は遥かに大きいし、自分にとっての動ける幅もずっと広いんだ、というのを、私はその時学びました。

 

そして、仕組みを創ってその仕組みを誰かに回してもらう時も、その「回してもらう」人のキャリアのことまで考えられるようになれば、そりゃもう仕事人としては相当ポイント高いよなあ、と思ったのです。

 

そして、それからずっと、そういうスタンス、そういう考え方で仕事をするようにしています。

 

***

 

結局「職場に居場所がないおじさん救済プロジェクト」はというと、何人かの方々とお話をして、それぞれの結果を出しました。

 

うまいこと既存のスキルが生かせそうな案件にお送り出来た人もいれば、

スキル取得の為に研修に出た人も、

マネジメントの経験を積む決断をしてくれた人も、

残念ながら少し経ってから会社を辞めてしまった人もいました。

 

その後私はその会社を離れましたし、最終的に会社自体が無くなってしまったので、あの時お話した方々が、今どんなことをしているのかは勿論分かりません。

ただ、あの時お話させて頂いたことが、少しでも今お役に立っているのであればいいなあ、と、そんな風に思うのです。

 

そして、私自身が「居場所」を確保し続けられるように。何をすれば自分の価値が上がるのかなー、ということを考え続けながら仕事をしています。

 

今日書きたいことはそれくらいです。

 

 

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【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
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2025/7/14(月) 16:30-18:00

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(2025/6/2更新)

 

 

【著者プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ:不倒城

(Photo:Ken Yamaguchi