月は無慈悲な夜の女王 (ハヤカワ文庫 SF 1748)組織の人数が増えてくると、「ルールを増やしたがる人」が必ず出てくる。

日報を作れ、必ず相談せよ、目標を作れ、数値を記録しろ、挨拶をせよ、30分前に出社しなさい…

もちろん規律を保つためのルールは必要である。しかし、ルールが多すぎれば組織は官僚的になり、「ルールを守ること」が目的となって堕落する。

 

「ルール」は基本的に無い方が良いものである。ルールは作成する手間がかかるだけではなく、それを周知する手間、監視する手間、罰則を適用する手間などを考えれば、スーパーハイコストなシロモノだからだ。

法律を見てみるといい、法律の作成、運用には恐ろしくコストがかかっている。

したがって、ルールを作ること、と言うのは基本的に「必要悪である」との認識が組織内で共有されていなければならない。

 

しかし、そういうことを口を酸っぱくして言ったとしても、「ルールを作りたがる人」はなかなか減らない。

それは、人間の最も根源的な欲の一つである、「支配欲」と関連しているからである。

 

偉大なSF作家の1人であるロバート・A・ハインラインは、「ルールの成立」について、「月は無慈悲な夜の女王」の作中で次のように述べている。

月世界の法律制定に参加した主人公は、あらゆる参加者が様々なルールを求める場面に遭遇する。

・移民を全廃しろ

・政府の財政を賄うために重税を課せ

・暦を変更せよ

・月世界人の使うべき言語を制定せよ。地球の言葉を使うやつからは罰金を取るために委員会をつくれ

・容積税、人頭税、所得税、空気税をとれ

・臭い吐息と体臭は死刑にせよ

・複数婚の禁止、離婚の禁止、強アルコール酒の販売禁止、土曜には仕事をしてはいけない

・医師免許をつくれ

 

主人公は、この状況を見て

”他の連中が喜んでしたがることをとめたがるのは、人間の心の中に驚くほど深く食い込んでいるってことなのだろう。規則、法律―常に他人に対するものなのだ。

おれたちの暗い面であり、われわれ人類が樹樹の上から降りてくるようになった以前から備えているものであり、おれたちが立ち上がって歩くようになった時に振り捨てるのを忘れたものなのだろう。

常に人間というものは他の連中のやっていることを憎悪して、いつも「駄目」というものなんだ。

彼ら自身のためになることだから、そんなことをやめさせろ―、それを言い出す者自身がそのことで害を加えられると言うんじゃないのにだ。”

と、つぶやく。

 

人間は、他人のやることに口を出さずに入られない。

あなたの隣にいる、「ルールを増やしたがる人」には気をつけよう。親切な人であっても、「あなたのためだから」という言葉は親切心ばかりではなく、支配欲から出たものかもしれない。