「心構え四カ条」
コミュニティへの参加により恩恵を得たという人へのインタビューを重ねる中で、そうした人はコミュニティに参加する際の「心構え」を大事にしていることを発見しました。受動的な心持ちのままでは恩恵を得ることは難しく、「心構え」に基づく能動性によって恩恵が得られるのです。今回、その中で重要な「心構え」として抽出した4点を、「四カ条」と称してご紹介します。
【其ノ一】:「目的を意識し続ける」こと
コミュニティに参加した目的を、たびたび確認するようにしましょう。そうすれば、「なぜ、今、ここに自分がいるのか」を常に認識し続けることができます。
例えばコミュニティ内で何らかのイベント告知があって、なんとなく「出なくてもいいかな…」と迷う時。そういう時、どうか自分に向けて「ここに参加した目的」を問い掛けてみてください。
すると、コミュニティで得られる個別の経験や体験という「点と点」を、自身の目的への「線」の上にあるものとして認識できます。個別イベントに出る/出ないといった近視眼的な迷いは消え、本来の目的を達成することを目指し、関わっていこうとする気持ちが生まれる、というわけです。
《インタビュー/アンケートの中で着目したコメント》
- 自分は何を得たいのか、何を実現したいのか?この問いに向き合っていく必要がある。そうやって目的を意識することにより気付きが生まれる。気付きは、目的に対してコミットしようとすることで生まれてくるものだと思う。
- 目的がないと、単に「なんかためになった」といったレベルで満足するだけの「刺激マニア」になってしまう。
- 自分の中での目的をはっきりさせると、自然と感謝の気持ちを持てるようになった。
【其ノ二】:「感謝を示す」こと
コミュニティの誰かに「感謝」を示してみましょう。すると、相手とのやり取りが始まります。その結果、相手からも「感謝」が示され、そのやり取りは、やがて互いに助け合うことができる「前向きな人間関係」の構築につながります。
但し、難しく考えないでくださいね。SNS隆盛の現代、「いいね!」に代表される反応なども「感謝」を示す方法の一つと言えます。大きく構えず、直ぐに出来る行動からでよいので、コミュニティの中で「感謝を示す」ことを、ぜひ実行に移してみてください。
《インタビュー/アンケートの中で着目したコメント》
- はじめはコミュニティとの距離感を適切に保ちつつも、幹事団への感謝を伝えるのは大事にした。その結果、幹事団に自分のことを覚えてもらえたので、自然と距離が近くなった。
- Messengerグループで「反応」することを心掛けました。そうすると自分の投稿にも「いいね」されやすくなり、ネットワークの輪が広がるきっかけになりました。
- 相手を否定しないで、どんなアクションにも先ず感謝するようにした。そうすることで自然と信頼関係が構築できた。
【其ノ三】 : 「気付きを発信する」こと
何かに「気付き」を得たら、それをコミュニティ内で「発信」してみましょう。メンバーの目に留まりやすい場所への投稿やチャット、あるいは、勉強会の開催や自発的な発表に対して聴講者を募るなど、発信の「場」を作って参加を呼び掛けるのもありです。
「発信」を通じて自分の中にあることを言葉にする。それを繰り返すことで、知識や情報をインプットする経験と、それをアウトプットする経験との間に「成長」という価値が生まれ、循環していきます。「発信」という機会が生まれることにより、自分の思いに共感する仲間も得られることでしょう。
《インタビュー/アンケートの中で着目したコメント》
- 感想を述べることを起点に「インプット→アウトプット」が自然と身に付いた。
- コミュニティでは自分の発言機会が多く与えられることがメリット。
学ぶだけであれば、YouTubeや一方通行型のセミナー参加で十分だと思います。- 自分がやりたいな、って思うことはきっと他人もしたいはずだから、まずは声をかけてみる。
- 自分が発している「北海道」というキーワードを持つ人と貴重なつながりを持つことができました。
【其ノ四】 : 「自ら手を挙げる」こと
「自ら手を挙げる」のも重要な心構えです。「自分という存在」が仲間から認識され、声を掛けてもらうことにより、コミュニティでの役割や挑戦の機会を得ることにつながります。
「手を挙げる」には勇気が要りますよね。ですが、決してコミュニティにおける大きな役割に対して立候補するべきだ、と述べているのではありません。どんな小さなことでもいいと思います。「それ、私がやってみてもいいですか?」と、自分ができそうなことについて、「関わってみたい」という意志をメンバーに伝えてみましょう。
《インタビュー/アンケートの中で着目したコメント》
- 自分に出来ることは名乗り出て、コミュニティへの貢献を意識するようにした。
- 積極的な「関与」で周囲から認知されて、イベント登壇のオファーを受けました。
- 元来は引っ込み思案だが、勉強会を思い切って開催したら人が集まるということがわかった。
- コミュニティは皆でつくるもの。お客様という概念は存在しないと思う。
「恩恵」と「心構え」とは相関する
コミュニティに参加すると得られる「恩恵」と、コミュニティに参加する際の「心構え」について、今回の研究で得たアンケートの結果を用いて分析してみると、両者は相関することが分かりました。
「図1」は、112人にご協力いただいたアンケート結果から、ある一人の回答(7段階評価で点数が高いほど良い)について、「恩恵」に関わる設問への回答の平均点をX(横)軸に、「心構え」に関わるそれをY(縦)軸にプロットして散布図を作った結果です。これを見ると、「心構え」をもって、コミュニティに参加している人ほど、コミュニティから恩恵を受けていることがわかりました。
【図1】コミュニティ参加の「恩恵」と「心構え」との相関
心構えをもって参加することでコミュニティからの恩恵があり、その恩恵の有難さを実感することで心構えの質が高まり、更なる恩恵を得ることにもつながる。こうした相関により、コミュニティへの参加はビジネスパーソンにとって自身を高める効果を生み出しています。
「四カ条」を実践して、人生を豊かにした実例ーSさんの場合
「心構え四カ条」を実践した結果、キャリアチェンジをしたグロービス卒業生のSさん(男性)の事例を紹介します(図2)。
Sさんは、最初に参加したコミュニティにおいて「心構え四カ条」を実践しました。自分がなぜ参加したのか、この場で得たいことは何か、という目的の言語化を日頃から心掛け、コミュニティが主催するイベントで、「参加の前と後とで自分の何が変わったか」を発表する機会を得るなど体験価値を大きく増やしました。
それをきっかけにコミュニティ内での声掛けが増え、人的ネットワークも大きく拡がりました。そうしたメリットが次の挑戦への意志を生み、知り合ったメンバーとの新たなコミュニティの創設や、自身の転職への挑戦といった新たな意欲をも生み出したのです。「心構え四カ条」を大事にしたコミュニティへの関わりが、ビジネスパーソンとしてのSさんの人生を、刺激的で豊かなものにするという結果につながったのが分かります。
【図2】「心構え」の実践例(Sさん)
漠然とした成長へのあせりが、新たな成長意欲の芽生えに変わる
ここまでの研究をまとめると、コミュニティに入る人は、「VUCA」と呼ばれる社会環境の中で、何かしら身に付けておいた方がいいのではないかという漠然とした成長へのあせりを実感している人です。
最初は消極的にコミュニティに参加しますが、参加を通して、「自己理解」「つながり」「知識やスキル」といった恩恵を受け、徐々に姿勢が積極的に変わっていき、以前は存在しなかった新しい成長意欲が芽生えるという構造があることがわかりました。(図3)
【図3】コミュニティ参加による自己成長のメカニズム「自己成長モデル」
研究で得られたこれらの事実から、現代のビジネスパーソンにとって、コミュニティとは、自己成長を実現させ、次の具体的な目標に進んでいく動きを生み出す「仕組み」そのものである、と私たちは結論付けました。
コミュニティ参加により、次の目標に動き出した2名の例
ここでは、コミュニティへの参加を自分自身の成長に活かした2名の実例を、「自己成長モデル」にならってご紹介します。(図4・5)
Kさん(男性):社内の「新規事業」コミュニティをきっかけに起業へ
一人目はKさん(男性)、大手企業社員。Kさんはまず、社内の「新規事業」コミュニティに参加しました。 もともとKさんは管理部門の仕事をしていましたが、この活動を通じて、「自分は企画を立案することがこんなにも好きだったんだ」という気付きを得たそうです。
そこで今度は、テーマを広げ、社外において参加するコミュニティの数を増やすことを決め、その全てに積極的な姿勢で臨み、企画立案と実行の場を多く得ることになりました。様々な挑戦をしたことが奏功し、多くの人に存在を知られるようになりました。
その結果、コミュニティで知り合った友人が関わるスタートアップ企業への協力を求められ、本業とは別にいくつかの仕事を並行させる「複業ライフ」の実現に至りました。
現在は、自ら起業した会社の経営に加え、別会社でもCOOを務めるなど、いくつかの職場で異なる役割を並行させています。また、こうした「複業ライフ」の推奨をテーマとするコミュニティの主宰者でもあります。
Kさんの場合、一つのコミュニティへの参加がその後のキャリアや生き方の変化にまでつながっています。消極参加からはじまったコミュニティ参加で自分が気付いていなかった「得意」を知る「自己理解」を得たことで積極参加に変わり、それをきっかけに別のコミュニティにも参加を拡げた結果、得るものがどんどん大きくなり、自己成長を成し遂げ、結果として生き方まで変わったことが分かります。
【図4】コミュニティの活用事例 ①(Kさん)
実は、Kさんが社内コミュニティのメリットと意義を実感しつつも社外のコミュニティに興味を持ち始めたのは、活動を重ねる中でどうしても「似た思考のメンバーが多い」というのを感じ取ったから、という背景がありました。
そうしたこともあり、インタビューでKさんは、「コミュニティは自己実現の為の道具であり、その使い分けが大事だ」と語りました。「道具」という表現が、一瞬、刺激的にも感じられましたが、コミュニティが持つ仕組みを100%活用しきる貪欲さと熱量の高さを表した、Kさんならではの比喩なのだと理解できました。
さて、Kさんが述べた、コミュニティの「使い分け」を分かり易く実行し、自身の成長に上手につなげていたのが、二人目として紹介するMさん(女性)の例です。
Mさん(女性):コミュニティを使い分けて、自分を成長させる
Mさんは、「自分らしさの探求」というテーマに惹かれ、一つ目のコミュニティに参加しますが、そのコミュニティでは「知見を得る」という以上の参加姿勢は持たず、インプット専用の場として活用しています。
続いて、夫の転勤による海外移住をきっかけに、同じ境遇の女性同士で意見を交わすコミュニティにも参加し、ここでは勉強会の登壇者に挑戦するなど積極的な参加者となることを意識しながら、インプットに加えアウトプットの場を大切にする姿勢で臨んでいます。
これだけでも十分な活動だと思いますが、驚くことに、さらに「キャリアアップ」という課題について深めていきたいと考えたMさんは、働く女性のキャリア支援をテーマとするコミュニティに運営者の立場で参加。このコミュニティについては、多くの企画立案を行うアウトプット最優先の場と位置付け、自己成長に活かしています。
一つのコミュニティ内で自身の役割を中心へと向かわせるのではなく、複数のコミュニティでの「関わり方」を使い分けて自己成長を実現させているのが、Mさんの事例の面白さでもあります。
【図5】コミュニティの活用事例 ②(Mさん)
ご紹介したKさんやMさん以外にも、コミュニティ参加を通じて自己を成長させ、次の目標に向かっていった方はたくさんいます。
Yさん(女性)は、様々なコミュニティに参加することで「自分が従来から考えていたやりたい事を行動に移す為のヒントを得られた」ことや、「キャリアには敢えて関連付けず、情報交換と刺激を得る場として選んだコミュニティが逆に自身の成長に役立てられた」ことを挙げてくれました。
これらの気付きを具体的に自己に引き寄せた結果、それまで自分としては勝手に「大それたこと」だと思っていた「副業」について、「やってみよう」と考えられるようになり、チャレンジを始めているそうです。
Aさん(男性)は、「自分は真ん中になって引っ張るよりも、真ん中の人を横で支える立場である方が居心地が良いタイプ」という自己認識を持っていましたが、グロービス経営大学院内に設立された、自身が勤務する業界の課題を研究するコミュニティに参加する中で、リーダーとコアメンバーの「ものすごい熱量」に刺激を受けた結果、「人に刺激を受けることで自分は変わっていけるのではないか」という思いに至り、同コミュニティのコアメンバーに立候補した、という経験を伝えてくれました。
Nさん(男性)は、コミュニティの中で多く発言するのを心掛けることで、「自分のことを他者に伝えるポイントを習得できた」と教えてくれました。それを繰り返していると、思いもしなかった別のコミュニティから講演のオファーを得る機会も生まれたそうです。
また、参加しているコミュニティに「足りない部分」を感じ取り、それを満たすための新たなコミュニティの創設に至ったという、自己実現に辿りついた成長の物語も話してくれました。
「良いコミュニティ」に求められる基本要素
これまで所属してきた「いいな」と感じるコミュニティを思い浮かべてみてください。笑顔に溢れ、創意工夫があり、互いのコミュニケーションが密で、刺激的な雰囲気があり…などなど、さまざまなイメージがあると思います。
「良いコミュニティ」と感じる要素は何でしょうか?アンケート及びインタビュー調査の結果、重要な要素は次の3つ
- 様々な人と出会い、触れ合える場であること(多様性)
- 安心して自ら参画できる場であること(心理的安全性)
- 幅広い知識・スキルが習得できる場であること(自己成長)
にまとめることができました(図6)。
自分を受け入れてくれる安心感のある場で、多くの人とのつながりから、自己の成長につながる、そんなコミュニティが多くの人にとって「良いコミュニティ」と感じるようです。ただ、これを実現するのは簡単ではありません。なぜならば、心理的安全性と多様性は、「トレードオフの関係」になりやすいからです(図7)。
だから、この両立こそが、「良いコミュニティを創る鍵」と言っても過言ではありません。ここでいう心理的安全性は「組織や集団の中で、非難や拒絶の不安がなく発言できる環境」として定義づけて、これ以降の話を進めていきます。
【図6】 良いコミュニティの要素
研究チームによるアンケート調査結果より作図
【図7】 良いコミュニティとは
研究チームにより作図
コミュニティにおいて多様性を獲得するには
ではコミュニティにおいて「多様性」を獲得するということはどういうことでしょうか?
- 多様な人を集めること
- 多様な人を活かすこと
この2つを意識する必要があります。ただ闇雲に人を集めるだけでは、一部の仲良しグループで集まり、逆に多様性が失われてしまう現象が起きてしまいます(図8)。この状況になると、コミュニティ内に温度差が生じ、大量の「幽霊部員」発生につながります。だから、多様な人を集めるのと同時に、ひとりひとりが活躍できる「場」を提供することが、多様な人を「活かす」上で重要な要素になっていることがわかりました。
【図8】 賢い集団から無知な集団へ
引用:マシューサイド(2021)『多様性の科学』
コミュニティにおいて心理的安全性を獲得するには
次に、心理的安全性の高いコミュニティとはどんな状態のコミュニティを指すのでしょうか?一部分だけが盛り上がるコミュニティはそれ以外の居心地が悪くなるので、全体としての心理的安全性は下がります。参画してくれる多くの方に「居心地が良い」と感じてもらえるコミュニティこそが、心理的安全性を担保したコミュニティと言えるでしょう。ではどうすればその状態に近づけるのでしょう?
最もシンプルな考え方は「ザイオンス効果(図9)」です。「好感度を上げるには、ただ接触回数を上げればよい」という考え方であり、コミュニティに参加してくれたメンバーに対して、できるだけ多くの人たちと触れ合える機会をたくさん作ると良いことを示しています。参加のハードルをできる限り下げ、誰でも気軽に簡単に参加できる、そんな場を多く、継続的に提供していくことで互いの信頼関係が醸成されていきます。
【図9】 ザイオンス効果
Psychological Bulletin, 106(2), 265–289.より作図
こうして、多くの参加者に居心地がよいと感じてもらうことができれば、次に「参加者がやりたいことに挑戦できる場」を提供することで、参加者の自発性が生まれ、コミュニティの活性度が高まってきます。
つまり、コミュニティにおいて心理的安全性を確保するということとは、
- 参加者同士で気軽に話せる場がある
- 困ったときに助け合える場がある
- やりたいことに挑戦できる場がある
- 新しいこと・人を歓迎する場がある
この4つを兼ね備えることが大切であり、これが実現できれば、「多様な人を活かす」ことにもつながります。(図10)
【図10】コミュニティにおける心理的安全性の作り方
出典:石井遼介(2020)『心理的安全性のつくりかた 「心理的柔軟性」が困難を乗り越えるチームに変える』
コミュニティ規模と温度差の壁を超えろ!
コミュニティが小さいうちはうまくいっていても、コミュニティの拡大フェーズに入ると途端にうまくいかなくなることはありませんか?
図11はコミュニティ規模とアクティブ率(コミュニティイベントの50%以上に参加するメンバーの割合)の関係性を今回の研究で調査した結果です。やはり人数を増やせば増やすほど、アクティブ率が下がってくる、いわゆる「温度差の壁」現象が確認されました。
小規模であればコミュニティ創設者の想いが隅々まで行き渡るのですが、多様性を求めて規模を拡大するにつれて、どうしても想いが届かない方が出てきます。この「温度差の壁」を超えるためには、「創設者の想い」に共感してくれる「熱量の高いコアメンバー」の存在が必要不可欠になります。
【図11】コミュニティ規模とアクティブ率の関係性
熱量の高いコアメンバーが担う最大の役割は、様々なイベントにおけるリーダーシップ発揮です。そこで新しいメンバーを歓迎したり、既存のメンバーとのコミュニケーションの中心的役割を果たしたりすることで、コミュニティの風土醸成の一翼を担ってくれます。
これらの積極的な活動により、熱量の低い、冷めた人も感化されて、アクティブ率が上昇します。そうすると、コミュニティ全体の熱量を高めることができ、その熱に引き寄せられて多様な人が集まってきます。ここで、心理的安全性を高く維持して、多様な人を活かすことができれば、コミュニティ全体の活性度が上がり、良いコミュニティになるのです。
この一連の流れは焚き火を大きくしていくプロセスに類似しています。(図12)初めは創設者の小さな火から。
コアメンバーと共にその火を炎に変え、その暖かさ(心理的安全性)で多くの参加者(多様性)を呼び込むことで炎に薪をくべていく。薪は一定期間で燃え尽きますので、この新陳代謝を常に維持するためには、新しい参加者を呼び込む仕組みも重要になってきます。安定した暖かな炎を維持することが、コミュニティ運営の肝です。そんなイメージでコミュニティ運営を捉えてみてください。
【図12】良いコミュニティを作るための鍵は何か?
出典:マシューサイド(2021)『多様性の科学』、石井遼介(2020)『心理的安全性のつくりかた 「心理的柔軟性」が困難を乗り越えるチームに変える』、その他インタビュー結果より研究チームにて作図
20人程度の少人数コミュニティであれば、コアメンバーがリーダー1人でもうまく回ります。ですが、人数が増えれば熱量の高いコアメンバーの数ももっと必要になります。我々のインタビューでは、1000人規模でアクティブ率が極めて高いコミュニティでは、およそ50名のコアメンバーが常に稼働していました。そのコミュニティはどんどん新たなコアメンバーを募集し、多様性と新陳代謝を確保しています。
小規模コミュニティでは「リーダーの熱」が、大規模コミュニティでは「コアメンバーの総熱量」が「温度差の壁」を超えていく鍵となっています。
コミュニティの立ち上げにおける3つのフェーズ
コミュニティを立ち上げるには、次の3つのフェーズがあります。
1stフェーズ :創設者の「想いの火」をコアメンバーに広げる
2ndフェーズ :想いを形(ビジョン)にする
3rdフェーズ :共感してくれる仲間を集めていく
インタビューやアンケート結果から、うまくいっているコミュニティは、そうでないコミュニティと比べて、それぞれのフェーズで違う特徴があることがわかりました。ここでは、うまくいっているコミュニティがやっていたことを紹介します。
1stフェーズ うまくいくコミュニティでは、コアメンバーが自然に集まる
コミュニティ創設は、創設者の「想いの火」がスタートになります。コミュニティの規模を広げていくにはこの想いの火を受け止めて、さらに拡大してくれるコアメンバーの存在が必要不可欠となります。ではコアメンバーはどのように集めれば良いのでしょうか?
アンケート調査結果に興味深い示唆があります。コミュニティ運営がうまくいっている群とうまくいっていない群で最も差が出たのは、「創設者自身がやりたいことを身近な仲間に相談しているうちにコアメンバーが自然に集まった」という部分でした。(図13)(この部分のみ統計的に有意差あり)
コミュニティ設立のために個別に声をかけたり、創設者以外が人を集めたりするより、創設者自らが、想いを周囲に打ち明ける中で、「自然発生的に」コアメンバーを増やしていくプロセスがとても重要だという示唆です。想いの火を大切に、ここは時間をかけてじっくり、炎へと変化させていくフェーズです。創設者が、想いを周囲に打ち明けることで、何をやりたいか、どんな状態を目指したいかも少しずつ明確になっていきます。
【図13】 コミュニティ創設時の人の集め方
2ndフェーズ :うまくいくコミュニティのビジョンは、みんなの共感を得ている
想いを周囲のコアメンバーと話している中で、そのコンセプトがある程度定まってきたら、それを言語化しビジョンとして掲げることで、コミュニティの方向性や特徴が決まってきます。
その際、うまくいっているコミュニティではどんな事に気を付けているのでしょうか?アンケート結果(図14)からは、「参加者の共感を得られるメッセージに言いかえた」という部分に最も大きな差がつきました(統計的に有意差あり)。
創設者の独りよがりではなく周囲と相談しながら、参加してくれる人の立場に立って共感してくれる言葉に言い換える事がうまくいく秘訣のようです。
また、「精緻に作るのではなく空白を意識する」という部分にも差がついています(統計的に有意差あり)。最初からルールを固めるのではなく、遊びの部分を残しておき、その空白部分をみんなで埋めていく、そんな意識が重要なのかもしれません。
【図14】
3rdフェーズ :うまくいくコミュニティでは、一気に人を増やさない
創設者の「想いの火」をコアメンバーに伝播させ、そしてその想いをビジョンとして掲げた後は、コミュニティへの参加者を増やしていくフェーズに入っていきます。創設直後は、うまくいっている群でもそうでない群も、身近な人から集めたコミュニティが多く存在していました(図15左)。ですが、インタビューで深く調査すると、うまくいっている群では「あえて」狭く集めているケースが多くありました。
ここからの示唆は、「最初から闇雲に集めすぎない」ということです。炎に薪をくべる際に、一気にくべると酸欠で炎が消えてしまうのと同じように、コミュニティも一気に広げる事で心理的安全性が担保されにくくなり、温度差の壁が生じる可能性が上がります。
創設期は、じっくりと人を集め、コアメンバーの熱量を高く保つ事ができれば、一定期間が過ぎてコミュニティが安定した頃に、SNS等を通じて一気にメンバーを募ることも可能になってきます。実際、うまくいっている群では創設してから一定期間が経過した「維持期」に、広く集めることができていました(図15右)。
そして、「ザイオンス効果(第6回 参照)」を狙って、新規加入メンバーの歓迎イベントや既存メンバーとの交流など、コミュニケーションの機会をできるだけ多く設けることで、集まって来てくれた人たちに、「この場所は安心できる」と感じてもらえるようにします。
定期的に参加者の声を取り入れ、コミュニティを改善しながら、参加者自身が自由に使える「空白」を提供することで、参加者の自発的な行動を促し、コミュニティの活性化につながっていきます。こうして、コミュニティが無事立ち上がり、活性化したより大きなコミュニティとなっていきます。
【図15】
まとめ
「狙いを定めて矢を射ても、届く頃には的が動く」、そんな激動のVUCA時代です。複雑性を増し続ける課題を解決するには、ひとりではなく多様な能力を持った人々で協力し、問題解決に挑むことが重要です。
孤軍奮闘するのでなく、チームやコミュニティで互いに支援し、高めあい、大きな変化のプレッシャーをイノベーションの力へと変えることが、VUCAを生き抜くための鍵となるのではないでしょうか。多くの人とのつながりから価値を生み出し、新たな成長への一歩を踏み出していただければと思います。
【図16】 まとめ
(執筆:大島さやか、角田由希子、中村知純、清末太一 監修:田久保善彦)
【著者プロフィール】
日本で最も選ばれているビジネススクール、グロービス経営大学院(MBA)。
ヒト・モノ・カネをはじめ、テクノベートや経営・マネジメントなど、グロービスの現役・実務家教員がグロービス知見録に執筆したコンテンツを中心にお届けします。
Photo by:Alexis Brown