「仕事ができる」には、いろんな定義がある。
よく言われるものとしては、説明がうまい、論理的に考えられる、作業が早い、などだろうか。
わたし自身、「仕事ができる」の定義はむずかしいなぁ~と思っていたのだが、最近、ひとつの答えを見つけた。
仕事ができるとは他人の仕事を減らすことである、と。
クイズ王が具体的な地名を言わなかった理由
高校生クイズで個人として2連覇し、その後『東大王』などに出演してクイズ王と呼ばれるようになった、伊沢拓司さん。
彼が代表を務めるYouTubeチャンネル『QuizKnock』は登録者数214万人を超え、厚生労働省や財務省、Google、JR東日本、アース製薬などから案件を依頼されるほどの影響力をもつ。
かくいうわたしもQuizKnock動画のファンで、先日アップされた『【ドッキリ】無意識に星や国を言わされている東大卒クイズ王』という動画もいつもどおりチェックした。
この動画では、ふくらP、問さん、須貝さんの3人が、それぞれ「星」「ヨーロッパの国」「都道府県庁所在地」というお題を担当。
「サブチャンネルの収録をする」と言って伊沢さんを呼び出し、雑談をしながら、伊沢さんがそれぞれのお題に該当する発言をするように仕向ける。より多くの発言を引き出せた人が勝ち……という内容だ。
たとえば、星の名前を言わせたいふくらPは、童謡『手のひらを太陽に』のタイトルを伊沢さんに言わせようとする、という感じ。
さてさて、雑談を終えて伊沢さんに企画内容をバラし、得点発表しつつ振り返りをしているときのこと。
都道府県庁所在地を言ってほしい須貝さんが、「(かなり誘導したのに)今日は地方名でよくしゃべる(せいでなかなか言ってくれなかった)」と発言したところ、伊沢さんはこう答えた。
「サブチャンだから裏どりの面倒をかけられないな、と思って」
サブチャンとはサブチャンネルの略で、本編でカットされた場面やイベントの裏話などの雑談をメインとした、本チャンネルより編集が少なくゆるっとした雰囲気の動画を上げるチャンネルだ。
サブチャン用の動画だと聞いてやってきた伊沢さんは、雑談中あえて具体的な地名を出さず、「関東や関西」と地方名を言うことで、収録後の裏どり作業を減らそうと気遣っていた。
だから、都道府県庁所在地を言わせたい須貝さんは苦戦したのだ。
気配り上手がいるといい循環が生まれる理由
それを聞いたとき、優しい、気が利く、というのはもちろんだけど、純粋に「仕事ができる人だなぁ~」と思った。
ほら、たまにいるじゃないですか。さりげなく仕事を減らしてくれる有能な人。
進捗がよかったプロジェクトを振り返ると、毎回Aさんが書類を整理しておいてくれたな~とか。
別部署に全部説明しないと……と気が重くなっていたタイミングで、Bさんが「休憩中別部署の人に会ったから軽く説明しといたよ」と言ってくれたとか。
明日の会議までに資料を作らないと焦っているところに、Cさんが使いやすいテンプレを送ってくれたとか。
一般的に「気配り上手」と言われる人は、その気配りで他人の仕事を減らしている。だから信頼されるし、「この人がいてくれてよかった~」と高い評価を得るのだ。
そしてそういう人がいると、まわりも「自分もだれかのためになにかしよう」という気持ちになる。仕事を減らしてもらうとどれだけ助かるかがわかっているから、じゃあ自分も、と。
「自分はいま余裕があるから、あの仕事をやっておいてあげようかな」
「これを自分がやっておいてあげたら、ほかの人が助かるな」
「ここで手を抜いたほかの人に負担が増えるからちゃんとやっておこう」
のように。
他人の仕事を減らすために気遣いできる人がいるととても助かるし、その姿勢に感化されて、「自分もなにかしよう」といういい循環が生まれる。
これはもう、文句なく「仕事ができる人」といえるでしょう!
気遣いには全体像の把握とバランス感覚が必要
とはいえいざやるとなると、他人の仕事を減らすのは、案外むずかしい。
他人の仕事にまで気を配るには、自分自身のタスクをしっかりとこなしてなくてはいけない。自分の仕事ができていないのに、他人を助けることはできないから。
さらに、他人の状況や全体像を把握する必要もある。
誰がなにをやっているか、どういう作業があって、どれくらい時間がかかるのか、どこに手間がかかるのか。それを知らなければ、気を利かせることはできない。
となりのAさんがどんな仕事をしていてなにを必要としているかがわからないなら、助けようがない。
そのうえで、なにを優先するかのバランス感覚も求められる。
サブチャンネルだから、大雑把な情報のほうが裏どりが少なくて楽。とはいえ、ずーっと大雑把な話ばかりしていてはつまらない。
逆に、メインチャンネルのガチガチのクイズ企画でぼんやりしたことばかり言っていたら、注釈で具体的な情報を追加しなきゃいけなくなる。
気を利かせた結果、コンテンツ自体がつまらなくなっては本末転倒だ。
自分の仕事はきっちりとやったうえで、全体の作業フローを理解し、その場の優先度を判断して最適な行動を選ぶ。
それができてはじめて、他人の仕事を減らすことができるのだ。
いざ実行しようとすると、自分の仕事に手一杯でそこまで手が回らなかったり、他人の仕事だからまぁいいか……ってなってしまったりする。
でもそうせずに「全体のためにいま自分はこうすべきだ」と動けるのは、「仕事ができる人」の証だと思う。
無能とは他人の仕事を増やす人のこと
一方で、仕事ができない、いわゆる「無能」と言われる人たちもいる。
そういう人たちは、なんで「仕事ができない」と評価されるのだろう?
それはきっと、他人の仕事を増やすからだ。
たとえば、ちゃんと教えたのにも関わらずいちいち聞いてくる人。「あれはこうですか?」「これはこうですか?」と聞かれたら、その対応に追われて自分の仕事ができなくなる。
ほかにも、何度も何度も同じミスを繰り返す人。これもまた何度も何度も同じ注意をしなきゃいけないので、手間がかかる。
時間を守らない人がいれば待ち時間が発生して時間のムダだし、取引先との打ち合わせであれば謝罪という別のタスクが生まれる。返事が遅いと、「それはどうなってますか?」と改めて連絡しなきゃいけない。
その人自身の仕事が終わらないだけであれば、ぶっちゃけ上司以外の他人に大した影響はない。その人の自己責任だし、その人の評価が下がろうが知ったこっちゃないし。
でもその人のせいで自分の作業が増えるとなれば、話は別だ。
自分の仕事を増やす人に対してはイライラするし、その人のせいで残業になればモチベーションが下がるし、単純にその人を邪魔だと思うだろう。
とくに日本は責任の所在があいまいな場合が多いから、だれかがやらないぶん、他の人がカバーしなくてはいけない。となると割を食うのは、仕事が早い人だ。
仕事を早く終わらせるほど尻ぬぐいさせられるなら、マジメにやるのがバカみたい。という気持ちになってしまう。
他人の仕事を増やすと全体の進捗も、雰囲気も悪くなる。
だから他人の仕事を増やす人は、「仕事ができない」と言われるのだ。
仕事ができる=他人の仕事を減らせる人
結局この世のほとんどの仕事は、人間関係でできている。
だから自分の仕事を増やす人に対しては悪い印象を持つし、自分の仕事を減らしてくれる人に対してはいい印象を持つ。
現場になんでもかんでも押し付けて自分はふんぞり返っている上司は嫌われる一方で、適宜フォローして最小限の作業で完成するようにお膳立てしてくれる上司のことは、みんな尊敬するだろう。
他人とのかかわりあいなのだ、自分にメリットをもたらしてくれる人と仕事をしたいに決まってる。
しかし仕事ノウハウの多くは、「他人は変えられない」という前提があるからか、「自分の作業をいかに早く終わらせられるか」という点にフォーカスすることが多い。
どうやって自分のスケジュールを管理するか、作業効率を上げるか、のように。
でもいくら自分が効率的に働いても、他人が仕事をどんどん増やしてきたら、自分の仕事は終わらない。
また、他人に仕事を丸投げして「自分の仕事は早く終わった」状態にしても、他人の仕事を増やしているので、「仕事ができる人」として認められることはない。
仕事ができるというと、「いかに効率的に自分の仕事を終わらせるか」と自分自身のことを考えることが多いけど、本当に仕事ができる人って、自分自身の仕事をやるのはもちろん、全体がうまくまわるように動ける人のことなんじゃないだろうか。
つまり仕事ができるようになりたいのなら、「自分の仕事をいかに早く終わらせるか」だけでなく、
「どうやったらほかの人の仕事を減らせるのか?」
という考えを持つことが必要なのだと思う。
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。

<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【今回のトーク概要】
- 0. オープニング(5分)
自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」 - 1. 事業再生の現場から(20分)
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例 - 2. 地方創生と事業再生(10分)
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む - 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説 - 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論 - 5. 経営企画の三原則(5分)
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する - 6. まとめ(5分)
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)
【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
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ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
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