2021年10月下旬、Facebook社が新社名「メタ・テクノロジーズ(以下、メタ)」を発表しました。

「メタバース」という言葉は瞬く間に地球を駆け巡り、にわかに関連株が買われる騒動となりましたが、そもそもなぜ「メタバース」が今これほど注目されるのでしょうか。

メタバースとは何かを解説してきた前編に続き、後編ではビジネスパーソンとして押さえておきたいメタバース市場の魅力や、課題になりうる点などを見ていきます。

 

メタバースの3つの特徴に秘められたビジネスチャンスとは?

先の「宇宙空間」同様、現代のフロンティアであるメタバースが先行者へもたらすメリットは計り知れません。

具体的には、行動/取引データ、AIモデルなどの知的財産、ビジネスルール、ブランド、ユーザ基盤などの“無形の資産”です。

それ以外にも、メタバースの特徴を生かすことで受ける恩恵もまた見逃せません。

ビジネスパーソンはどんな特徴をおさえておくと良いでしょうか。

 

①「デジタルツイン」で現実世界のビジネスを加速

1つ目に、現実世界の人々の交流や経済活動を伴う”ビジネスの型”を、そっくりそのまま「仮想空間」へ置き換えできることによるメリットです。

 

これは、リアルな街並み、職場環境、工場の建屋とロボットの稼働状況などをそっくりデジタル空間に再現した「デジタルツイン」の構築によって実現します(*1)。

例えば、サンフランシスコと東京の技術者が深セン(深圳)の工場のデジタルツインへ入って議論するといった具合です。

また、ヴァーチャル渋谷のような街で世界中のユーザがショッピングや映画を楽しむようになれば、街頭のサイネージなどの広告をパーソナライズすることも現実世界以上に可能となります。

 

このことは、メタバースを利用する企業のビジネスを加速させることはもとより、物理的なモックアップや人の移動を減らすことによって、温室効果ガスの排出を抑えることにもつながります。

 

②仮想空間だからこその体験価値の拡張性

2つ目に、言語や身体的な特徴などの現実世界の制約から解き放たれるがゆえの拡張性です。

 

育った環境や文化を超えて、外見に捕らわれない自由を楽しんだり、人の身体感覚や能力を拡張したりすることも可能です。

それらによる非日常の体験の一つひとつがビジネスにつながります。

例えば、メタバース内で患者の体内に入り込んでの手術シミュレーション やメンタルヘルスの治療、地球温暖化や戦争・災害などの疑似体験、性別や人種を取り替えて異なる立場に立つDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)体験などが想定されます。

 

こうした疑似体験のリアリティ醸成に関わるテクノロジーの進化は目覚ましく、空間オーディオやVFX(ビジュアル・イフェクト)をはじめ、圧や振動を伝える触覚技術(ハプティクス)に至っては2027年までに年率12%成長が見込まれるとの試算(*2)もあります。

 

③NFTによる信頼担保でこれまでにないビジネス創出を後押し

3つ目に、メタバース内では体験に留まらず、アートやアイテムなどの小物から土地に至るまでもがビジネスにつながります。

これらには仮想空間にあるからこその新しい可能性が眠っています。

 

近年、AppストアやYoutubeを舞台に、個人や小規模なクリエイターが自由な発想で活躍しているように、メタバース内でもユーザが生成するさまざまな形態のコンテンツ(UGC:User Generated Content)が取引されるようになり、これまでにないビジネスがうみだされることになるでしょう。

 

例えば21年3月に上場した人気のゲーム・ソーシャル・プラットフォーム、ロブロックスはUGCの先駆けです。

同社は、ブロックチェーン技術によってコンテンツの唯一性を保障するNFT(Non Fungible Token:非代替性トークン) をメタバース内外で取引するNFTマーケットプレイスとの提携を進めており、クリエイターとプラットフォーマのエコシステム拡張を図っています。

また、今年に入って仮想通貨が国内全面禁止となった中国では、テンセント、アリババ、バイトダンスなどの大手が早くもモバイル決済や動画プラットフォームと連動したNFTマーケットプレイスへ参戦して火花を散らしています。

 

参考.世界的なNFTマーケットプレイスであるOpenSea

 

このように、現実世界の人のリアルな活動とのシームレスなつながりや、さまざまな制約を超越できる魅力は、既存のインターネット以上の市場規模へと成長する可能性を秘めていると言えます。

 

では、この新たなフロンティアに課題は無いのでしょうか。

 

今こそ問われるプラットフォーマの倫理観 メタバースに向けられる目

ここまでみてきたように、メタバースがこれまでのインターネットの延長線上にあるデジタル・レイヤーである以上、インターネット時代のプラットフォーマが問われてきた、優越的地位の濫用や、個人情報の取得と利用における杜撰な管理、プライバシー侵害などの問題に懸念がないと言えば嘘になります。

 

メタバースに関しては、身体に密着して装着されたインターフェースから、詳細なバイタルデータを取得できる技術が整いつつあります。

広告がアイ・トラッキングや心拍データによってより緻密化されたり、サイネージに映り込むサブリミナル効果によって商品購入が促進されたりといった使い方が出てくる懸念もあるでしょう。

こうして、メタバースを特徴づけている没入感が悪用される可能性がないとは言いきれません。

 

折しも、世界各国のプラットフォーマに関する追及の目は年々厳しさを増しています。

今年4月にEUが提案したAIに関する包括的な規制法案についても、基本的人権を侵害するようなAIシステムの利用禁止を求めています。

 

多様な参加者が集うメタバースでビジネスを行う事業者には、ぜひ高い倫理観をもって、参加者の安心と信頼に足るプラットフォーム運営を志してもらいたいと願います。

そして、起業家の野心を体現する場としてではなく、人種や身体的特徴、老いや病、経済格差など、現実世界で固定化されたバイアスから抜け出せないでいる人々にもチャンスが広がり、現実世界へも良いフィードバックを返せるようなそれぞれの小宇宙が生まれることを多くの人々が望んでいることでしょう。

 

<参考>

*1:デジタル ツイン、Mixed Reality、メタバース アプリによる物理とデジタルの融合

*2:触覚技術市場ー業界洞察、主要プレーヤー・企業別、成長機会別、最新傾向別、開発別、主要な成長ドライバー別、主要な課題別によってセグメンテーション、予測

 

(執筆:八尾 麻理)

 

 

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ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
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(2025/6/2更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

グロービス経営大学院

日本で最も選ばれているビジネススクール、グロービス経営大学院(MBA)。

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グロービス知見録

(執筆:八尾 麻理)

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