皆さんは、いくつのコミュニティに参加していますか?

 

コミュニティに参加する・運営することで、”なんとなく”良いものを得ていると感じている方が多いと思いますが、コミュニティは具体的になにが良いのでしょうか。また、その果実を受けとるためのコツはあるのでしょうか。

 

最初のテーマは「コミュニティの研究をした理由」「コミュニティの歴史」です。

※本稿はグロービス経営大学院に在籍したメンバー(大島さやか、角田由希子、中村知純、清末太一)が、田久保善彦講師の指導の下で進めた研究プロジェクト「コミュニティの創設・維持・発展」について、その研究結果をまとめたものです。

なぜ今、コミニュティなのか

1人で解決できることもある。でも、みんながいるから解決できることもある

「If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together. (速く行きたければ、ひとりで行け。遠くまで行きたければ、みんなで行け)」というアフリカのことわざはご存知でしょうか。アル・ゴア元アメリカ副大統領がノーベル平和賞を受賞した時の演説で使っていたことでも有名です。

 

この素晴らしい言葉がある一方で、VUCAと言われる時代を生きる私たちビジネスパーソンは、見通しが悪いにも関わらず、遠くに、しかも速く行くことを求められているようにも感じています。

予測が難しい環境下において遠くに、かつ速くたどり着くにはどうしたらいいのか?そして未来をどう切り開いていくのか?

これは今を生きる私たちにとって共通の課題なのかもしれません。

 

実際に私たちも、

「ビジネスの新潮流を知って起業チャンスを掴み、更に暮らしやすい世界を作りたい」
「過去の成功事例が通用せず、壁にぶつかっている現状を打破したい」
「これからを担うビジネスパーソンとして自分自身をアップデートし、最終的には自社を変えたい」

こうした願いや課題感を解決するため、自分にできる一歩として、グロービス経営大学院に入学しました。

私たちがグロービス経営大学院に入学して、わかったこと

授業や各種イベントなどを通じビジネススキルを磨いていく過程で気づいたこと、それはコミュニティによって「強い刺激を受けた」、「考え方が大きく変わった」

そして、「より良い解決策にたどり着いた」、「時には難しい状況から救われた」仲間たちが多くいることでした。

コミュニティのインパクトは、授業などに引けを取らない重要性があるのです。

 

結果として、世の中には一人で解決できることもありますが、仲間がいるからこそ解決できることの方が圧倒的に多いことに気づくことができました。

そして、この複雑さが増している今の時代には、仲間の力、コミュニティの力でレバレッジを効かせることが、非常に重要になってきているのではないでしょうか?

 

コミュニティの今昔と研究対象となる時代

「コミュニティ」の輪郭を捉えるため、まずはコミュニティの歴史について、簡単に振り返っておきたいと思います。

出典:日本コミュニティ心理学会研究委員会 編(2019)『コミュニティ心理学 実践研究のための方法論』の図を元に筆者作成

 

上図に示したように、コミュニティは、産業革命、世界大戦、冷戦など、時代の変化とともにその形や役割を変えてきました。コミュニティの定義や理論が確立されたのは、1980年代と最近です。「ネットワーク」「サードプレイス」などは皆さんも馴染みがあるのではないでしょうか。ですが、インターネットなどが普及し変化が加速した現代社会において、実はまだコミュニティをどう具体的に活用すればいいのか確立されていません

 

劇的に変化する時代の中で、どのようにコミュニティを「活用」し、自分の人生を豊かにしていけばよいのか?これが、私たちの研究テーマです。

 

「コミュニティ」の定義

「地域コミュニティ」「有料コミュニティ(オンラインサロン)」「コミュニティマーケティング」…コミュニティという単語から描く像は十人十色かもしれません。ここでは、以下の3つの項目を満たす場をコミュニティと定義しました。

 

【コミュニティ定義】

  1. 1対1のつながりではなく、3人以上であること
  2. メンバー間でコミュニケーションがあること
  3. 継続を前提としていること

 

なお、以下の図は1を詳しく説明したものです。2名での関係性は「ネットワーク」と呼び、「コミュニティ」とは区別しています。

 

 

ビジネスパーソンはコミュニティに何を求めるのか

ビジネスパーソンはそもそも、何を求めてコミュニティに参加するのでしょうか。

 

私たちはそれを明らかにすべく、メンバーとして参加する際に「コミュニティに求めること」について、選択回答式のアンケートを実施しました。265名から得た回答結果を以下に掲載しましたのでご覧ください。(選択肢に無いものは自由回答可。回答率5%以下のものは「参考値」扱いとして割愛)

 

【図1】「コミュニティ」に参加する際に求めることとは?(265名/選択式・複数回答可)

 

コミュニティから得られることは何か

ここからは視点を変え、インタビューベースでヒアリングした「コミュニティに参加して得られること」をまとめていきます。

 

得られること①:「今」の自分を知り、「これから」の自分をつくるヒントを得る―自己理解の始まり―

まずはインタビューの内容をご覧ください。

 

《インタビューの中で着目したコメント》

  • メンバーとの会話が「自分は本当にそれをやりたいのか」「自分は結局何ができるのか」など、
    改めて自問するきっかけとなった
  • 同じタイプの人たちと話すことで、気づいていなかった自分の性格を知ることができたのは良かった
  • 様々な人と話すことで、自分自身が固定観念に囚われていたことに気づいた

私たちはこれらの意見を「メンバーへの自己開示とフィードバックを通じ、今まで気づいていなかった自分、または今の自分を客観視できる」とまとめ、この状態を「自分への理解が始まっている」と解釈しました。

 

「自分の思いや意見を伝え、仲間からの反応によって自身の考えや言動、強みや弱みを知るきっかけになった」という経験は、誰しも少なからずお持ちなのではないでしょうか。

 

コミュニティに参加することでその経験価値を強く、明確に感じ始めると分かったと言えます。

得られること②:同じ価値観を持つ人とのつながり―つながりの構築―

これは想像しやすいのではないかと思います。コミュニティが掲げているテーマに共鳴し、参加することで、興味・関心・価値観が近い人たちとのつながりを構築することができます。

 

《インタビューの中で着目したコメント》

  • 年齢・職業・国籍等、背景は多様でありながらも、「コミュニティのビジョンへの共感」を共通項とした人たちとたくさんつながることができた
  • コミュニティが掲げる展望に共感できる仲間ができた。そしてこの仲間の存在が、私生活・仕事ともに頑張るための原動力になっていると感じる
  • 育休中という同じ「タグ」を持ったメンバー同士だからこそ、キャリアや育児の悩みを相談しやすく、心の支えになった

性・年代・職業といった、基本属性以外で大切にしたい「自分のタグ」。コミュニティにおいてはそれを軸としたつながりが、新たに構築されることが確認できました。

得られること③:知識やスキルの獲得―インプット―

3つ目は知識やスキルの獲得です。これも②同様、イメージしやすいと考えています。加えて①、②で記載したように「メンバーとの会話」「メンバーからのフィードバック」「メンバー同士のつながり」が発生することで、コミュニティではあなたにとって興味のある情報が集まりやすいことも分かりました。

 

《インタビューの中で着目したコメント》

  • 以前から少し興味があった副業関連のコミュニティに参加した。メンバーとの会話やイベントへの参加を続けたことで生きた知識を得ることができ、結果として副業の進め方まで学べた
  • 自分の知識をコミュニティメンバーに説明する場合、その知識を伝える立場で再構築する必要が出てくる。更に、相手からフィードバックを受けて知識不足を認識することもあり、その場合はもう一度学びなおす。つまり、インプットの質が高まったと感じている
  • コミュニティへ参加し、何かをギブしようと思うと、必然的にマネジメントのスキルが必要になる。自分は管理職ではないので実務では経験したことがなかったが、コミュニティでこれらのスキルを体験し、実務でも活かせるマネジメント力をつけることができたと実感している

私たちは本や教科書、インターネットを通じて世界中から多くの知識・情報を取り込める環境下にあります。 コミュニティ内ではそうやって得た知識の交換より「知らなかったことを知る」ことが可能になるのに加え、個人単位の情報収集ではなかなか入手しづらい「経験者の知恵」や、経験の積み重ねによる「実践知」も身に着けることができると言えます。

 

コミュニティに「求めること」と「得られること」はどう関係するのか

こうしてインタビューにてヒアリングした「コミュニティ参加によって得られること」と、冒頭でアンケート結果としてご紹介した「コミュニティ参加に求めること」とは、どのように関係しているのかを確認すべく、両者を照らし合わせました。

 

その結果、参加することで得られるメリットは、コミュニティ参加の際に求めていることとほぼ一致していると考察しました。私たちはこれらのメリットを「自己理解」「つながり」「知識とスキルの獲得」と集約し、これらを総称して「3つの恩恵」と名付けました。

 

【図1改】「コミュニティ」に参加する際に求めることとは?(265名/選択式・複数回答可)

 

おさらい:コミュニティへの参加で得る「3つの恩恵」

第2回でお伝えしましたが、コミュニティに参加することで得られる恩恵は3つあります。

 

1つ目は、「自己理解」の「始まり」をつかめることです。他者とのコミュニケーションをきっかけに自分と向き合い、自分はどうしたいと思っているのかを整理し、知る機会を得られます。

2つ目は人を中心とした「つながり」を「構築」できること。

そして3つ目は、「知識やスキル」の「インプット」ができ、キャリアなどに役立てることができることです。

 

関わり方の度合いー「消極参加者」「積極参加者」「運営者」

コミュニティに関わると言っても、関わり方のその度合いは人によって様々です。そこで今回の研究では、その関わり方(立場)を「消極参加者」「積極参加者」「運営者」の3つに区分けしました(図2)。

 

【図2】コミュニティへの関わり方による3つの区分け

「自己理解」は、深化する

コミュニティの中で他者と触れ合うことを通じて、自分と向き合うことができます。他人と自分の違いを感じることから、自分自身についての考えが深まっていきます。自分を知る機会を得ること、つまり自己理解の始まりが、第一の恩恵となります。

 

そして、この「自己理解」は、積極的にコミュニティに関与していくことにより、深まっていくことがわかりました。消極参加者と、積極参加者や運営者の「自己理解の深まり」では、大きな差が生まれているのが分かります(図3)。

 

【図3】「自己理解は深まりましたか?」についてのポジティブ回答率

*ポジティブ回答率:7段階評価中6・7選択者の割合

《インタビューの中で着目したコメント》

  • コミュニティ所属の重要性は、学生時代の失敗を通じて理解していたので、積極的に参加するようにした。様々なコミュニティに所属することで、経験値を積み上げ、ライフワークを見つけることができた。
  • 様々なコミュニティで運営や積極的に参加することで、不特定多数の人と出会い気づきを得たことから自分が持っている特徴が少しずつわかってきた

コメントから分かることは、コミュニティへの積極的な関わりを経て、自分の性格、価値観、考え方を「より深く」知り、自分が納得して受け止める状態になっていることです。特に運営者は自分の価値観を反映させつつコミュニティを運営できるかについて考えるため、コミュニティを一緒に運営する仲間や参加者と積極的にコミュニケーションをとり、多様な考え方に触れることで自己理解が深まるようです。この「自己理解」の変化を、「深化」ととらえました。

 

「つながり」は、拡張する

コミュニティへの関わり方の違いによって生じる変化が非常に顕著だったのが、「つながり」です。コミュニティに参加すると、まず新たなつながりが構築されます。積極的にコミュニティのイベントなどに参加し、さらには運営に携わるようになると、コミュニティ内に留まらず、別のコミュニティとの横のつながりも生まれるなど、つながりの「拡張」と呼べる状態を得られることが分かりました。

 

図4は、コミュニティでどのような人とつながったのかの詳細を調べたものです。消極/積極参加者も、運営者も、コミュニティ内の人とつながっていますが、「コミュニティ外」の人とのつながりには、差があることが見て取れます。コミュニティの運営に関われば、自身のコミュニティと他のコミュニティとの交流を図るなど、「つながりを拡げること」自体がコミュニティ運営上の一つの役割になることも多いと言えます。

 

【図4】「どのような人とつながりましたか?」

*複数回答

《インタビューの中で着目したコメント》

  • コミュニティで色々と発信していると様々な自分の知らない人から声がかかり、自分が次にやりたいことにもつながった。
  • 運営することでコミュニティ内外からの声かけが増えた。対外的な認知の拡大になっている。コミュニティを超えた他者とのつながりによる新たな一歩へつながっていると実感している。
  • 他の人との交流を通じて、新しいアイデアや可能性を発見し、そもそも所属していたコミュニティの枠を超えたつながりを構築することができている。

これらのコメントからも、人的ネットワークを中心とするつながりの「拡張」は、コミュニティへの関わりを意欲的にさせる理由にもなることも分かりました。

 

「知識やスキル」をアウトプットできるようになる

コミュニティに参加すると、様々な人に触れ会話するため、まず知識やスキルがインプットされます。積極的な参加者となり、さらには運営に参画するようになると、自分の興味や関心をアウトプット(発表)する場としてコミュニティを活用できるようになります(図5)。

 

【図5】「知識やスキルの獲得」に関するポジティブ回答率

*ポジティブ回答率:7段階評価中6・7選択者の割合

消極参加者に比べて、積極参加者、運営者が知識やスキルを活かす場としてコミュニティを活用したり、新しいことを習得したり、能力向上につなげていることがわかります。また、「能力の強みや弱みの認識」については、運営者の立場だからこそできると考えられます。

《インタビューの中で着目したコメント》

  • 知識定着のために企画したイベントがアウトプットの場になった。
  • 起業コミュニティに入り、新規事業に関する知識のインプットができた。コミュニティ内で発表することでアウトプットの機会を得て、自分の考えを深めることもできた。その結果、ビジネスモデルを作る経験にもつながった。
  • 運営者として、コミュニティの参加者に役の立つコンテンツを考えて準備することから知識やスキルがよりつきやすいと感じた。

知識やスキルをより定着させるためにもアウトプットする場としてコミュニティへの参加姿勢を積極的にしてみると良いでしょう。

 

コミュニティへの関わりの度合いで変わる「3つの恩恵」(まとめ)

コミュニティへの関わり度合いを変化させていくことで恩恵の中身が変わることが分かりました。(図6)

 

【図6】まとめ

(執筆:大島さやか、角田由希子、中村知純、清末太一  監修:田久保善彦

 

 

【お知らせ】
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。


<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>

第6回 地方創生×事業再生

再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは

【日時】 2025年7月30日(水曜日)19:00–21:00
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。

【今回のトーク概要】
  • 0. オープニング(5分)
    自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
  • 1. 事業再生の現場から(20分)
    保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
  • 2. 地方創生と事業再生(10分)
    再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
  • 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
    経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
  • 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
    「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
  • 5. 経営企画の三原則(5分)
    数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
  • 6. まとめ(5分)
    経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”

【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。

【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

グロービス経営大学院

日本で最も選ばれているビジネススクール、グロービス経営大学院(MBA)。

ヒト・モノ・カネをはじめ、テクノベートや経営・マネジメントなど、グロービスの現役・実務家教員がグロービス知見録に執筆したコンテンツを中心にお届けします。

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