毎年この時期になると新卒採用の話で盛り上がる。

「新入社員に求めるものは何か」と聞くと、ほとんどの会社が「コミュニケーション能力」と答える。次いで多いのが「主体性」や「受け身ではなく、自分で考え行動できる人」といった回答だ。

 

こうした回答を聞くと、私はいつも「本当なのかな」と正直疑問に思ってしまう。コミュニケーション能力については何となく理解できるのだが、「主体性」や「リーダーシップ」についてはどうしても違和感を感じてしまうのだ。

新入社員は本当に「主体性」や「自分で考え行動できる人」が求められているのだろうか。

 

自分で考え行動できる人材

以前勤めていたコンサルティング会社では、まさにこの「自分で考え行動できる人材」をいかに育成するかというテーマを研究していた。

「自ら考え動ける社員」とは一体どのような人材なのか。ヒアリングやリサーチを重ね、以下のような定義に落ち着いた。

 

「自ら考え動ける社員」は、明確なビジョンを持っている。それを実現するための目標を立て、具体的なアクションに落とし込み、完璧に実行する。実行に移せなかった場合は、なぜ出来なかったのか原因を解明し、改善策を考え出す。

 

「自ら考え動ける社員」は仕事に向き合う姿勢も素晴らしいものを持ち合わせている。受け身や指示待ちの姿勢をとることはなく、仕事そのものを楽しみながら、やりがいを感じているー。まさに理想の人物像だ。

 

私たちがこのような理想の人物像になるためには、一体どうしたらいいのだろうか。

 

仕事を充実させるための条件

「自分で考え行動」し「やる気に満ち溢れた」人材になるには、複雑な要素や条件が絡んでくる。

人間の幸福について研究を行った心理学者のチクセント・ミハイは、人があることに没頭した状態をフロー状態と呼んだ。人はフロー状態にいるとき、時間を忘れ高揚感と幸福感で満たされるという。

誰しも趣味や習い事に興じている時、時間を忘れて熱中した経験があるだろう。簡単に言ってしまえば、これがフロー状態だ。

このフロー状態に入るには、ある一定の条件を満たさなければいけない。それは

自分の能力に見合った挑戦を自ら設定し、自分でコントロールできる感覚が持てる」状況にいること。

 

確かに趣味や習い事は、誰に指示されることもなく自ら積極的に上達方法を考え練習する。上達すれば、達成感と喜びに満ち溢れる、ますますやる気がわいてくる。

趣味や習い事であれば、多くの人が自然と「自分で考え行動できる」人材になることができるだろう。

 

会社の本音

では、話を戻してもう一度ここで考えてみたい。

会社は新入社員に対し、本当に「自ら考え動ける」力を求めているのだろうか。

 

もしフロー状態に入る条件が「自分の能力に見合った挑戦を自ら設定し、自分でコントロールできる感覚が持てること」ならば、会社側は「新入社員の能力に見合った挑戦(仕事)を新入社員自らに設定させ、新入社員が自分で仕事をコントロールできる感覚」を持たせてあげることが必要になる。

 

ただ実際は、新入社員でなくてもこんな状況を作るのは難しい。

新入社員のうちはほぼ全て、自分の能力が仕事に追いつかないし、「この仕事に挑戦したいです」と希望を申し出たところで「まずは言われた仕事で結果を出してからね」と一蹴されてしまう。上司からどんどん指示が出される中で、自ら仕事をコントロールする感覚を持つのは不可能に近い。

 

であれば、会社側ももう少し腹を割って話してあげるべきなのではないかと思う。つまり、

 

「私たちは「主体性を持った自ら考え動ける社員」を求めています。

でもその主体性というのは、あくまで会社のビジョンに沿った範囲の中での話です。会社のビジョンを実現するための目標を立て、具体的なアクションに落とし込み、完璧に実行してください。実行に移せなかった場合は、なぜ出来なかったのか原因を解明し、改善策を考えましょう。

みなさんは、会社のビジョンに共感しましたよね?だから、受け身や指示待ちの姿勢をとることは決してないはずです。

会社が決めた目標と自分の能力がマッチするよう努力しましょう。会社が定めた範囲の中であれば自分で仕事をコントロールしてもいいです。この状況であれば、会社から与えられた仕事でも楽しみながらやりがいを感じられますよね?」

 

要は、指示待ち社員は嫌だけど、主体性を発揮しすぎる人材も本当は嫌。あくまで会社の方向性と同じ向きの中で自ら考え行動してほしい、ということである。

 

会社が本当に求めるているのは優秀なフォロワー

上で述べた会社の本音を実現してくれる社員には、リーダシップよりも「フォロワーシップを求める」という言い方の方が適切ではないかと思う。

フォロワーシップとは、簡単に言えば「組織の目的達成のためにリーダーを支援する」こと。リーダーがビジョンを示せば、それをすぐさま理解し具現化させるのがフォロワーの役割である。

フォロワーであっても主体性や考える力、行動する力は求められる。ただ、あくまでも組織の目的達成、リーダーへの貢献が一義的である。

 

フォロワーシップこそ、会社が新入社員に求めているものに思えるのだが、声高に「フォロワーシップを求めます!」と言っている企業に出会ったことはない。

「リーダーシップ」のほうが響きが良いし、「主体性を持ったあなたに活躍の場を提供できる器の会社です」という方がカッコ良いからだろうか。

 

 

・・・かなり捻くれた考え方だ、と批判を受けそうだ。

しかし実際に幾つかの会社を支援する中で、真の主体性やリーダーシップを持った人材は、入社しても結局会社を辞めてしまう光景をたくさん見てきた。

 

皮肉なことに「自分で考え動けるようになりましょう!」と会社が呼びかけると、リーダーシップを備えた自分で考え行動できる人は、会社を辞めて自分のビジョン実現に向けて動き出す。

もし本当にこのような人材を受け入れたいと思うのなら、会社側にも相当な度量と覚悟が必要だと思う。

 

 

まとめ

「自分で考え行動できる人」人を採用したいと言う会社は、それが何を意味しているのか、もう一度再考して欲しい。同時に、自社を見つめ直してみてはどうだろうか。

 

社員に「ビジョンを持て」と求めるのなら、そもそも自社のビジョンは「共感したい」と思ってもらえるものなのだろうか。

 

「自分で考えろ」と言っておきながら、最終的にはいつも上司の考えを押し付ける形の会議になっていないだろうか。

 

「仕事にやりがいを自分で見つけろ」と言いながら、新しい仕事に挑戦させる風土を作っているだろか。

 

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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
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(2025/6/2更新)

 

−筆者−

大島里絵(Rie Oshima):経営コンサルティング会社へ新卒で入社。その後シンガポールに渡星し、現地で採用業務に携わる。日本人の海外就職斡旋や、アジアの若者の日本就職支援に携わったのち独立。現在は「日本と世界の若者をつなげる」ことを目標に、フリーランスとして活動中。

個人ブログ:U to GO