「ふざけるな!今すぐ来い!」と、顧客からクレームの電話が入る。
サラリーマンのつらい所だ。
もちろん私は光の速さで顧客の元へ駆けつけ……美しいスライディング土下座をキメた。
「大変申し訳ございません!」
「おっしゃる通りです!」
「ごもっともです!」
「よくわります!」
をただ繰り返し……
お客様に対して「私は怒る価値も無いゴミクズです!」と卑屈なアピール続け、お怒りが収まるのを待つ。
……これこそ私勤めていた会社の伝統的なクレーム対応。
「お客様は神様だ!不快にするなど許されない!」
これがサラリーマン(ホワイトカラー)時代の基本でした。
ところが現場作業員(ブルーカラー)の職に就くと、事情がガラッと変わった。
ある日、私たちがマンションのお風呂場の壁の修復をしていると、
隣の住人がクレームをつけてきた。
「うるさい!くさい!」と。
作業員の一人が住人のクレームを受ける。
「ふざけんな!こっちは夜勤明けで疲れてんだよ!」
と激怒する住人。
我々が管理を任されているマンションの住人ですから、彼もまた大切なお客様の一人である。
そのクレームに対して、こちらの作業員の対応は
「まぁ・・しょーがないよね?」
と、これだけだった。
高圧的に出るワケでもなく、頭を下げるわけでもない。
「風呂場を直してるんだから、ウルサイのもクサイのもしょーがない」
の一点張りなのです。
……するとクレームを言ってきた住人の
声のトーンはどんどん下がっていく。
(あれっ?もしかしてオレ変なこと言ってる?)
そんな気持ちになってくるのだろう。
こうしてクレーマーは肩を落として帰っていく。わずか数分の出来事である。
もし仮に、敬語で対応していたらどうなっただろうか?
きっと・・状況は悪化していたに違いない。
私が現場に出るとちょっと変わった指示されていた。
「現場では客に敬語を使うな」
「そうなんスね~」「へー」「はぁ?」
そんな感じの対応で良いという。テンションも低め。
もしクレームを言われたら?
「はぁ?ソレなんか勘違いしてません?」
とキレ気味に言え!と教わった。(※もちろんクレーム内容による)
サラリーマン時代から考えると、あまりにもメチャクチャな対応である。
しかしそんなクレーム対応をして、お客様はお怒りにならないのだろうか?
いやいや……もちろん怒り狂うお客様もいらっしゃった。
その日は「漏水調査」で現場に行ったが、なかなか原因がわからなかった。
数日かけてやっと原因を突き止めたものの……
結果……現場の住人は怒りだした!
「なんでもっと早くわからなかったの!あんた達のせいで部屋が水でグチャグチャよ!」
「はぁ……」と作業員たちは気のない返事を返すが……
お客様の怒りは収まらない。
私だったら、即スライディング土下座をキメる場面だ。
どうする?みんなどうするんだ?
お客様が怒ってらっしゃるぞ?どうするんだ?
私がビクビクしながら遠目で眺めていると……
職人たちは荷物をまとめて、「そんじゃあ帰りますわ~」と言って作業を放棄して帰ってしまった。
とり残されたお客様と現場監督(笑)の私は、口を開けてポカーンとするしかない。
(す、すごい……すごすぎる)
何よりもコレで商売が成り立っているのが凄すぎる。
……こんなムチャクチャをする割には、
「あそこは偏屈な職人が多いが腕は良い!」
みたいに何故か会社の評判は上々だった。
のちのちクライアントから
「も~かんべんしてくださいよ~」
と笑いながら電話が1本入ったが……こちらも「あーわるいわるい!」でことは済んだ。
この『スラム流クレーム対応術』とでもいう手法。
「作業服を着た作業員」だから許されるのだろう。「スーツ姿」では…なかなか難しい……。
つまり「キャラクター」がいかに大切かという話である。
「自分がどう見られているか?」をちゃんと理解した上で、それに合ったキャラになりきる事で、ビジネスを有利に進められることは多々あるはず。
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【プロフィール】
著者名:ハルオサン
18歳で警察官をクビになってから、社会の闇をさまよい続けた結果、こんなことを書いて生活するようになってしまいました。
『警察官クビになってからブログ』⇒keikubi.co