人気だった芸能人がテレビ番組から姿を消すと、「干された」「消えた」なんて言われる。

でもその数年後、『あの人はいま』的な番組で追跡してみると、結構みんな幸せそうに、新たな人生を歩んでいることもある。

夢を叶えようが叶えまいが、他人から笑われようが、その人の人生は続いていくのだ。

 

夢を叶えた人びと

わたしが大学生のときに参加したバンドサークルには、「将来バンドでデビューしたい」「スタジオミュージシャンとして生計を立てたい」という、いわゆるプロ志望の人が結構いた。

カッコイイけど、正直むずかしいだろうなぁ。それがわたしの印象だった。

だって、ミュージシャンだぞ。一体どれだけ多くの人がそれを夢見て、諦めているのか。

それで生きていける人は一握りだし、自分のとなりに座っているごくごく普通の大学生のこの人たちが、そんな特別な人間になれるとは思えなかった。

 

その数年後。

結果として、そのなかの数人は、本当にプロになった。事務所に所属してCDを出した人もいるし、歌手のバックミュージシャンとして楽器を弾いている人もいるし、作曲家としてドラマ主題歌を作った人もいる。

その人たちのサイトを見れば、いまもなお更なる成功を夢見て、キラキラと、それでいて地道に努力していることがわかる。

ああ、すごいな。素直にそう思う。

 

夢を諦めた先輩

でもその一方で、音楽の道を断念して就職した人もいる。たとえば、わたしが慕っていた先輩だ。

先輩はバンドを組んでいて、精力的にライブに出演し、自主制作CDも作っていた。

わたしは何度かライブに足を運んだのだが、それぞれの演奏レベルはすごく高いし、事務所からのオファーもきていたそうだから、「この人はホンモノなんだ」と憧れていた。

 

でも結局、その先輩は就職を選んだ。

それを聞いたのは立教大学の近くにある、オシャレでもなければおいしくもないのに、なぜか立教生御用達の居酒屋だった。

先輩はタバコを吸いながら、こう話してくれた。

 

「バンドメンバーのひとりが抜けるって言っててさ。で、なんとなくみんなのモチベーションが下がって。これから10年、20年、これを続けていきたいのかなって考えたんだ。

俺は音楽がやりたかっただけで、別に武道館に立ちたいわけじゃなかったんだよな。だったら趣味でいいんじゃないのって思ってさ」

 

バンドが解散してもソロでやる人や新たにバンドを組む人もいる。そういったことをすべてわかったうえで、先輩は「もういいかな」と言って、夢を追うことを諦めた。

その少し後、事務所も決まりかけ、ライブでも黒字収入を出しはじめていた先輩のバンドは、あっけなく解散した。

 

自由な海で溺れ、夢を諦める

わたしも一度、いや二度、いや三度? ドイツで夢を諦めている。

サービス残業がイヤで仕事をすぐに辞めたり、就職活動がうまくいかなかったり、大学を中退したり。

それなりの希望をもってドイツに移住したのに、うまくいかないことばかりで、「なんでドイツに来たんだろう」「もうやだ消えてなくなりたい」とふさぎこんでいた時期もあった。

 

「どこに行ってもいい」という真っ白の地図を、ドイツに来てまでわざわざ手に入れたのに、道が書いていないからどこに向かって歩けばいいのかがわからなくなってしまったのだ。

そして長い間、迷子の時期が続いた(だからこそ、ブログを『雨宮の迷走ニュース』というタイトルにしたのだ)。

 

表に出ないけど、同じように海外迷子になって帰国した人は、まわりに結構いる。

学位取得のために来たけど、単位取得がむずかしすぎて大学に行かなくなり帰国。

ワーホリ後その土地に残るために日本食レストランで働き始めるも、ブラックすぎて帰国。

憧れの国際結婚をしたけど、現地でできることがなにもなく、ウツになって帰国。

 

望んで自由な海に飛び込んだはずなのに、溺れてしまう人。そうなる前に、先輩は自ら陸に上がったのだ。

わたしはブログを通じて浮き輪を投げてくれる人がいたからどうにか溺れずに済んだのだが、まぁただ運が良かっただけである。

 

でも、人生は続いていく

実はこの前、夢を諦めて就職した先輩が、いまは結婚して子どももいることを知った。働いている企業も、だれもが知る大手だ。

この知らせを受けるまで、わたしは先輩のことを思い出すと、ちょっとさみしい気持ちになっていた。

ハチャメチャで力強く夢を追いかけていた先輩が、平凡な人生を選んだということが、どこか受け入れがたかったのかもしれない。

 

でも先輩は、夢破れた負け組ではない。ちがう人生を選び、幸せになった人なのだ。

夢を諦めるのは、悔しいし、さみしいし、それなりの屈辱感もあるだろう。挫折経験が人を強くすることもあるが、単に黒歴史になること、時間の浪費だと感じることもある。

でも、夢で諦めた人だって、その後の人生をしっかりと生きている。

 

一時人気だったお笑い芸人が深夜のネット番組に出演すれば、「落ちぶれた」と言われるかもしれない。

ミュージシャンを目指していた人が就職すれば、「結局口だけだったのか」と言われるかもしれない。

海外にうまく馴染めず帰国すれば、「逃げて来た」と言われるかもしれない。

 

でも、それがなんだというのだろう。

ほかの人が納得しなくても、その人の人生は続いていく。新しいステージで、新しい幸せをさがせばいい。

 

最近「成功」「自分らしく」「自由に」という言葉が溢れていて、生き急がされるようなプレッシャーを感じたりもするけど、成功しようが失敗しようが人生は続いていくのだ。

それなら、多少失敗しようが、諦めようが、カッコ悪かろうが、他人に笑われようが、別にいいじゃないか。自分の人生は、これからも続いていくのだから。そのとき、その場所で、最善だと思うことを一生懸命やればいいじゃないか。

 

先輩の自費制作CDアルバムを久しぶりに聞きながら、わたしは今日もドイツで、地味に文章を書いていこう。

 

【安達が東京都主催のイベントに登壇します】

ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。


ウェビナーバナー

▶ お申し込みはこちら(東京都サイト)


こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい

<2025年7月14日実施予定>

投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは

借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。

【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである

2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる

3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう

【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。


お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください

(2025/6/2更新)

 

【プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

ブログ:『雨宮の迷走ニュース』

Twitter:amamiya9901

(Photo:Clare Black)