私が面接官を手伝っていた時、印象に残った出来事がある。
その日は午前中に中途採用の面接があった。面接を受けにきた応募者は31歳、年収450万のエンジニアである。彼は過去に2回、転職をしており、もし我々が採用を行えば4社目、ということになる。
彼のスキルは特に低くもなく、高くもなくといったところで、年齢相応のスキルと言った感じだ。
本音を言えば、私が面接を手伝っていた会社は30前後のエンジニアが欲しかったので、彼の応募は有り難いものであった。
面接が始まり、役員の一人が質問をする。
「なぜ、転職を考えたのですか?」
通常であれば、ここで返ってくる回答は、「上流工程をやりたかったので…」であったり、「お客さんと直接話せる仕事がしたかった…」など、当り障りのない回答がほとんどだ。
しかし、彼は違った。開口一番、
「はい。もっと給料が欲しかったからです」
と言ったのだ。
通常であれば面接の際に志望動機を聞かれたらば
「カネの話は出来るだけしないように」
という指導がなされているだろう。
「志望理由・志望動機」は、企業が応募者の入社への本気度や強い意志を測り、アンマッチな人材かどうかを見分けるための大事な判断材料。
なかなか面接が突破できないとお悩みの人は、もしかしたら「志望理由」に問題があるのかもしれません。今回、編集部が企業の採用担当者にヒアリングしてみたところ、面接では業種・職種を問わず「不採用となるNG回答」が存在するようです。良かれと思って放った一言が原因で、せっかくのチャンスを棒に振ってしまうなんてもったいなさすぎる! ……というわけでここでは、中でも特に人事担当者の不評を買った「NG志望理由」のパターン、ワースト5をピックアップ。
さらに、NG志望理由に対する採用担当者の本音も暴露しちゃいます。ぜひ、あなたの志望理由・志望動機を見つめ直す参考にしてみてください。(マイナビ)
上の記事でも、「給与、待遇の話」は志望動機として言ってはいけない、ということになっている。
役員は苦笑していたが、私は彼の発言を聞いて、ハンマーで頭を殴りつけられたような衝撃を受けた。なぜかといえば、
あまりにも自然にカネの話をしたので、納得感があったのだ。
「給料が上がるから転職する、これって当たり前なんじゃないか…?」と思わされたのだ。
たしかに、当り障りのない志望動機を数多く聞いた。しかしそれはあくまでも「建前」であって、本音がそうであるという保証はない。
なぜ「カネの話」はダメなのだろうか。私は質問することも忘れて、面接中に考えこんでしまった。
役員は、「お金がほしいから転職、それだけですか?」と聞いていたが、それに対する返答は
「一番はそれです、でも、もちろんそれだけではないです。もちろん面白い仕事がしたい、ということもあります。でも、仕事はどちらにしろ一生懸命やります。だったら給料が高いほうが良い、と思っただけです。」
役員も、この返答に考えこんでしまった。
私は、沈黙を破って思い切って質問してみた。
「給料が高ければ、どの会社でもいいんですか?」
彼はそれに対してこう言った。
「もちろん、どの会社でもいいということはありません。給料が高いことは必要条件であって、十分条件ではありません。しかし、エンジニアとして10年やってきて感じたのは、「やりたいこと」を言って、それが叶うことは殆どなかった、ということと、「とりあえず何の仕事でも、一生懸命やれば楽しかった」ということです。」
確かにそうだ。彼の言うとおりだ。
面接が終わり、彼は帰ったが、役員と私は合否を決めかねていた。
そこで私達は社長に相談を持ちかけたのである。
社長に面接の経緯と、彼のプロフィールを見せた所、社長は意外な一言を発した。
「採用だな、まあ一回私も会うが。」
「え?…」
「カネがほしいから、と言うのは十分に立派な動機だ。下手にやりがいとか、こだわりなどと言われる方が、逆に扱いに困る。いいじゃないか。カネでモチベートされる貴重な人材だ。」
「でも、ウチはそこまで給料が高いわけじゃないですよ」と役員が言う。
「高いか安いかを決めるのは彼だ。我々じゃない。」
結果的に、彼は無事に入社した。現場では頑張っているそうだ。
私はこの出来事に対し、未だに自分の中ではスッキリとした解釈ができていない。
しかし、少なくとも「面接でカネの話をする人はダメ」という先入観は持たなくなったのである。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

ティネクト代表の安達裕哉が東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。
ティネクトでは現在、生成AIやマーケティング事業に力を入れていますが、今回はその事業への「投資」という観点でお話しします。
経営に関わる全ての方にお役に立つ内容となっておりますでの、ぜひご参加ください。東京都主催ですが、ウェビナー形式ですので全国どこからでもご参加できます。
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
筆者Twitterアカウント安達裕哉(人の能力について興味があります。企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働者と格差について発信。)
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