会社に向かっていたはずなのに

なんとなく海に向かって車を走らせてしまったことがある。

 

会社の人間関係や毎月の営業ノルマ、

そういう色んなことに疲れてしまったんだと思う。

仕事で精神的に追い詰められた時に頭に浮かんできたのは「退職」とか「転職」ではなく「死にたい」だった。

 

海を眺めながら少しだけ泣いて、少しだけ遅れて会社に出勤した。

海があってよかったと思う。辛いときに頭の中に海を思い浮かべるだけでも、少し心が晴れていく感じがする。

 

自分がサラリーマンでも営業マンでもなく、ひとりの人間だってことを思い出させてくれる場所が海なんだ。

 そこでは何も頑張らなくて良いし、無理をしなくて良い。

「ただ、そこにいるだけでいいよ」と許してもらえる感じがする。

ここには安心がある。

 

会社にいると仕事の出来ない私はよく上司や先輩から叱られた。

「おまえのここが悪い」「あそこが悪い」ってね。

 それを聞いてその通りだと思った。

 

私が叱られていない時は、また別の誰かが叱られる。

「おまえのここが悪い」「あそこが悪い」ってね。

 それを聞いてその通りだと思った。

 

でも……もしかすると……

「本当は誰も何も悪くないんじゃないか?」って思うことがあった。

海に来ると改めてそう思う。そうたぶん、べつに誰も悪くないんだよ。

思い切って沖縄に移住して、海のすぐそばに家を借りた。明け方の海が特に好きだ。

砂浜を少し歩いて岩の隙間から海が見えた瞬間は、何度見てもテンションが上がってしまう。

のそのそと走って海に触れる。冷たくて気持ちがいい。

それだけ。海にきても特に何もすることはない。何も考えない。何もしないをする。

「亀がいる……」

 

と思って近づいたらアダンの実だった。……それくらいのことしかない。

 

こういう風に眠ったりボーッとしたりする時間が大切なんだと、 さいきんになってようやく気が付いた。

 

日が出てきたら水筒に入れてきた「さんぴん茶」を飲む。

なぜか家で飲んだ時よりも美味しく感じる。

 「不思議だなぁ」といつも思う。

 

そういえば会社で横一列に人と並んで食べる弁当はあまり美味しくなかったなぁ……

 

自殺者の日記には「人間」のことしか書いていないらしい。

海や山や自然の話がまるで無いそうだ。

 

私も仕事で疲れて「死にたいなぁ」と思って海に来たことが何度かあるけれど、

それは本能的に自分を守ろうとしたからかもしれない。

 

会社員時代は毎日何かに追われて焦っていたように思う。

「もっと仕事が出来るようにならなきゃ」

「もっと売り上げや成績を上げなければ」

もっと……もっと……なんてね。

 

そういう頑張る自分が誇らしかったし、懸命に頑張れば自分の人生がより良いものになると信じていた。

 

でも一つ仕事を覚えてもまた新しい仕事が次から次へと増えていくし、

ノルマをこなした次の月はさらにノルマを増やされるだけだった。

 

だからちっとも生きるのが楽にならなかった。

 まぁ何をしてもそんなものだと思う。

 

私達の目的は「幸せに生きること」のはずだから、

「すごい人」や「なにものか」になる必要なんて全くない。

 よくニュースでキラキラした人達が酒や薬や事故で消えていくのを見かける、だからきっと栄光と幸せは無関係なんだろう。

 

何かを無理に頑張らなくても良いんだ。

 

でも元気な時に仕事をワーッとやるのは面白いから好きだ。

私は働くことが好きだ。疲れたらそっと海を思い出す。

 

そうやって海がいつまでもあればいい。

 

 

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【プロフィール】

著者名:ハルオサン

18歳で警察官をクビになってから、社会の闇をさまよい続けた結果、こんなことを書いて生活するようになってしまいました。

『警察官クビになってからブログ』⇒keikubi.co

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