2月14日、バレンタイン。
毎年この日になると、あの甘酸っぱい青春を思い出す。
手作りチョコレートに手紙を添えて、朝早く学校に行って、同級生の男子の机のなかにそっとソレを忍び込ませたあの瞬間だ。
わたしは彼のナナメ後ろの席で本を読んでいるふりをしながら、彼が登校して来るのを、今か今かと待ち構えていた。
登校してチョコに気づいた彼は、クラスメートに見られないようにこっそりと鞄にしまう。
翌日学校に行くと、わたしの下駄箱には、一枚の折りたたまれたメモがちょこんと鎮座していた。
女子トイレの個室に入ってこっそりと開けてみれば、「おいしかった」という一文が……。
うーん、青春。
そういえば、最後に『手紙』を書いたのはいつだったっけ。
仕事でなにかを郵送するついでに一筆書いたものじゃなくて、コミュニケーションとしての手紙を書いたのは。
子どものころは引越した友だちと文通したり、少女漫画雑誌『りぼん』を通じてペンパルとやり取りしたりしてたけど、このご時勢、日常的に手紙でやり取りしている人なんてよっぽどの少数派だろう。
それでもわたしは今でも、ふと手紙を書きたくなる。
手紙はLINEやSNSとちがって、人間関係で疲れないから。
手紙からはいつも、秘密のにおいがする
転校が多かったわたしは小学生時代、よく文通していた。
新しい学校に馴染めないことや、親とちょっとモメたことを、思いのままに書いて友だちに送る。
すると1週間後、もしくは半年後、いまハマってる音楽や先日行ったファミレスのパフェがおいしかったことなどがつづられた返事が返ってくる。
中学生になっても手紙は相変わらず大事なコミュニケーションツールで、メモ帳に「いつプリ撮りに行く?」とか「××が△△のこと好きらしいよ」なんて書いて、休み時間のたびに仲がいい子と交換していた。
仲良しの証拠は、交換日記の時代だ。
高校では仲がよかった子とケンカして、すでにケータイがあったけど、あえて手紙でお互いの思いを伝えあったこともある。
手紙はいつも、他の人には言えないことや、面と向かって伝えづらい本当の気持ちを閉じ込めて、こっそりと運んでくれた。
飲み会ではテーブルにスマホを置いて、LINEがきたらすぐに返すような人でも、人前では手紙を読まないし、ましてや書いたりはしない。
手紙というのは、人に見られないようにこっそりと読んで、ひとりのときにひっそりと書くものだ。
その独特な親密さやミステリアスな感じが、わたしはとても好きだった。
自分勝手に書いて送りつけても許されるのが手紙
よくよく考えると、手紙はとてもわがままな連絡手段でもある。
LINEやメールだったら、「久しぶり。元気?」とか「最近どう?」と前振りして、相手の返信がきてから会話がはじまる。
でも手紙では、「久しぶり。元気? わたしは元気。最近ね……」と一方的に自分の近況報告をするしかない。
しかも返事は数週間後、数ヵ月後、下手したら返ってこないこともある。
でもそれでショックを受けることはあんまりない。
「伝える」ことが目的だから、受け取ってもらえさえすれば、返事がなくてもいいのだ。
返事が必須なら、電話や直接会ったほうが確実だしね。
ただ、相手に送りたい。だから、伝えたいことだけ書いて、わたす。
基本的に、手紙を「受け取らない」という選択肢はない(「読まない」ことはできるけど)。
そんな自分勝手が許されるのが、手紙なのだ。
コミュニケーションが手軽になって、距離感がわからなくなった
高校生になり、年賀状の代わりにあけおめメールを送り、みんながmixiをやるようになったあたりから、コミュニケーションは急速に電子化されていった。
2021年現在、連絡はすべてSNSかLINE。
友だちの住所どころか、メールアドレス、電話番号すら知らない。
場合によっては、フルネームさえピンとこない。
そのせいで、人との距離感がよくわからなくなった。
手紙だったら、内容を考えて、便箋を用意して、手書きして、切手を貼って、投函しなきゃいけない。
そんな手間をかけてでも伝えたいことがある相手だから手紙を書くし、手紙をもらうとすごくうれしかった。
コミュニケーションをとるための面倒くささを受け入れることが、親密さや友情の証になっていたのだ。
でもいまは、そうじゃない。だれとでも簡単に連絡がとれる。
コミュニケーションコストを引き受けることで明確になっていた親密さが、いまでは単純に連絡の頻度で測るようになった。
仲の良さは、質より量で測るのだ。
だから既読スルーが気になるし、自分だけにリプライがないと不安になるし、友人にフォロバされないとなんだか心配。
1年に1回LINEするかどうかのかつての同級生より、毎日twitterで見かける一度も会ったことがない人のほうが、なんだか身近に感じる。
だからたまに、「いったいわたしはだれと仲がいいんだろう?」と落ち着かない気持ちになる。
コミュニケーションの手軽さと引き換えに、わたしたちは、相手との関係性を信じる気持ちを失ってしまったのかもしれない。
いつか『手紙』がなくなるその日まで、もっと手紙を書きたい
連絡のハードルが下がったぶん、コミュニケーションは相手の「返事」が前提になった。
でも返事ありきの双方向コミュニケーションでは、お互いが期待どおりのリアクションをしないと、すぐに関係がおかしくなる。
久しぶりにだれかにLINEするとしても、まずは軽くあいさつして相手の返事を待ち、相手の温度感を踏まえてこっちの近況報告をする。
あんまり自分のことばっかり書くのはよくない。かといって質問攻めも面倒くさがられるからほどほどに。
SNSでも、お祝い事ツイートにはお祝いリプするし、一緒に行った飲み会のツイートなら「いいね」したほうがいいだろう。
この誕生日会はアップするけどこの飲み会はアップしないとか、LINEの返事をしないままどうでもいいツイートをするとか、そんなことで角が立つ。
だからそうならないように気を遣わないといけなくて、疲れるのだ。
書きたいことを書き、伝えたいときに伝える。
いま思えば、手紙はなんて気楽だったんだろう。
便箋3枚にびっしりと思いをつづって、封筒にその秘密をしまいこんで、ポムポムプリンのシールで封をして、80円切手を貼ってポストに投函していた20年前が、なつかしい。
コミュニケーションの電子化は、本当に、わたしたちにとっての『進歩』だったんだろうか。
いまさら文通時代に戻ることがいいとは言わないけど、それでも毎年2月14日はあの日を思い出して、なんだか手紙を書きたくなってしまう。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
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ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
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