従業員のパフォーマンス不足、労働力の余剰、業績悪化など、さまざまな理由から従業員に辞めてもらいたいと考える場合もあるでしょう。

特に最近では、新型コロナウイルス感染症の流行により人員整理の動きが進んでいますので、「どのように辞めてもらうか」を考えるマネジメントが増えていくかも知れません。

 

従業員を辞めさせる場合には、後のトラブルを防止するためにも、一方的な解雇ではなく、基本的には合意退職によるべきです。

今回は、会社が従業員に対して退職勧奨を行う場合の留意点について、弁護士の視点から解説します。

 

解雇して揉め事になったら会社は大変

労働基準法16条により、客観的に合理的な理由がなく、社会的相当性を欠く解雇は違法無効となります。

多少法律の知識がある従業員であれば、上記のことはたいてい知っていますので、解雇を言い渡した場合は相当に反発してくることが予想されるでしょう。

 

仮に従業員側が労働審判や訴訟を申し立てられた場合、会社側には以下のリスクが生じてしまいます。

 

社内リソース・外部弁護士費用の浪費

労働審判や訴訟に対応するためには、マネジメント・法務部・人事部・解雇した労働者の上司など、多くの社内人材の時間を割かなければなりません。

その分残業代がかさんだり、他の生産的な業務に取り組む時間が無くなったりするので、会社にとって少なからぬマイナスが発生します。

 

さらに、労働審判や訴訟への対応は専門的かつ手間が膨大にかかるため、外部弁護士に依頼するのが通常です。

どの程度紛争が長引くかにもよりますが、弁護士費用は数百万円規模に及ぶ場合もあります。

このように、従業員との間で労働審判や訴訟が発生すると、会社の言い分が認められるかどうか以前に、会社に多額のコストが生じてしまうことに留意が必要です。

 

解雇した従業員の復帰・高額のバックペイの支払い

解雇が無効と判断された場合、従業員を職場に復帰させなければならず、さらに高額の未払い賃金(バックペイ)を支払わなければなりません。

会社としては、無駄なカラ賃金を支払ったうえに、処遇に困る従業員を職場復帰させるという重荷を背負ってしまうので、踏んだり蹴ったりでしょう。

 

他の従業員への波及効果

解雇が無効と判断された事実が他の従業員に知れ渡ってしまうと、従業員の間で会社への不信感が広がる可能性があります。

結果的に人材流出の原因になったり、他の従業員から会社に対するクレームを誘発したりするなど、間接的なデメリットも無視できません。

 

 

退職勧奨時に合意すべき事項

上記のように、会社にとって従業員を一方的に解雇することのリスクは大きすぎるため、基本的には退職勧奨を行って合意退職を促すことをお勧めします。

退職勧奨をする目的は、従業員との後のトラブルを防止することにありますので、以下の点を合意内容に含めておきましょう。

 

会社に対してこれ以上の請求をしないよう同意を求める

退職勧奨に応じて従業員が退職する場合、必ずしも円満退職とはいえないかもしれませんが、合意条件に従った退職によりトラブルを終結させるという意味合いがあります。

そのため従業員に、会社に対する合意した条件以上の請求を行わないことを誓約してもらいましょう。

このような誓約があれば、仮に後から従業員が不当解雇訴訟を提起したとしても、訴えの利益がないとして、従業員の請求は不適法却下となります。

 

合意内容を第三者に口外することを禁止する

他の従業員への波及効果を防ぐため、従業員に対して、合意退職の条件を第三者に口外することを禁止しておきましょう。

合意退職の条件が他の従業員に伝わってしまうと、「そんなに退職金をもらえるなら私も」というように、辞めてほしくない従業員の退職を誘発してしまうおそれがあるためです。

 

上乗せ退職金(パッケージ)を提示して合意退職のインセンティブを与える

従業員側の視点から見ると、退職勧奨に応じることで、会社に対する請求がその後一切できなくなるわけですから、すんなり合意退職に同意してくれるケースはむしろ少数です。

 

会社側としては、「手切れ金」の意味合いも込めて、「パッケージ」と呼ばれる上乗せ退職金を提案するとよいでしょう。

パッケージがある程度積まれれば、従業員にとってのインセンティブとなり、スムーズに合意退職が成立する可能性が高まります。

 

 

会社は上乗せ退職金(パッケージ)の交渉をどのように進めるべきか

パッケージの金額は、会社と従業員の交渉次第で決まるものなので、金額相場については一概にはいえません。

会社側としては、法的な観点や労働者の態度などを見定めながら、できるだけ会社にとって負担の少ないパッケージで従業員に辞めてもらえるように、交渉を進める必要があります。

 

労働審判・訴訟になった場合の結果を予測する

会社にとって、パッケージを支払うメリットがあるのは、労働審判や訴訟に比べて、トータルで会社に発生するコストが抑えられる場合です。

まずは弁護士に大まかな事実関係を伝えて、労働審判や訴訟になった場合に会社が責任を負うリスクを見積もってもらいましょう。

 

さらに、労働審判であれば3か月程度、訴訟であれば半年から1年程度の期間争いが続くことになりますので、その間社内リソースや外部弁護士のコストがどの程度かかるかも考慮に入れなければなりません。

上記によって見積もった労働審判や訴訟の場合のトータルコストを、パッケージありでの合意退職時に会社に発生するコストと比較しましょう。

 

どの程度までパッケージを譲歩できるかは会社の判断となりますが、おおむね労働審判・訴訟のトータルコストに対して5割から7割程度のコストに抑えられるようであれば、会社にとっても御の字と考えられます

 

従業員側の主張の強さを見極める

相場に比して低額のパッケージであったとしても、従業員側が同意してくれるのであれば問題ないので、会社としては従業員がどの程度パッケージにこだわっているかを見極めることも重要です。

パッケージの交渉時には、従業員側から希望金額が伝えられるケースもあります。

その際の提示額が、従業員側で応諾可能な範囲のどのレベルにあるのかを、さまざまな質問をぶつけながら探りましょう。

 

たとえば、

「ご提示の金額について、減額の余地はありますか?会社としてはパッケージを支払うことはやぶさかではないものの、金額的に厳しいと感じています」

と率直に伝えてしまってもよいでしょう。

その際の従業員の言葉や口調から、どの程度減額を引き出せる余地があるか判断できることがあります。

 

多少高額でも支払ってしまった方が無難な場合がある

会社としては、紛争が長引くことにより、社内リソースの浪費を中心にどんどんコストがかさんできます。

また、実際に退職勧奨に当たる人事担当者にかかってくるストレスなども無視できません。

 

そのため、従業員側から多少高額なパッケージを提示されたとしても、早期解決のメリットを考慮すると、言い値で支払ってしまった方がよい場合も多いのです。

手に余る従業員との関係を清算する必要経費だと考えて、未来に向けて労力とリソースを振り向ける方が、トータルでは会社にプラスとなるかもしれません。

 

まとめ

会社にとって、従業員への退職勧奨は、かなり苦労のかかるプロセスです。

しかし、採用時に従業員の資質をすべて見抜けるわけではないですし、また変化の激しい社会においては、将来の業績を見通すことも容易ではありません。

 

そのため、従業員に辞めてもらわなければならない事態が発生することは、どの企業にとっても起こり得ます。

その際には、この記事で紹介した退職勧奨時の留意点を踏まえて、スムーズな合意退職を実現してください。

 

 

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(2021/11/22更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

株式会社識学

人間の意識構造に着目した独自の組織マネジメント理論「識学」を活用した組織コンサルティング会社。同社が運営するメディアでは、マネジメント、リーダーシップをはじめ、組織運営に関する様々なコラムをお届けしています。

webサイト:識学総研

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