サステナビリティに配慮した経営を行うべきは上場企業のみであると思われるかもしれないが、中小企業にとっても、持続可能な企業経営や資金調達、あるいは人材確保の観点からSDGs/ESGの考えをビジネスに実装するメリットが大きい。

今回は、中小企業にとって欠かせないステークホルダーである地方銀行がSDGs/ESGの推進に果たす役割に焦点を当てたい。

 

金融庁が重視する地域金融機関による共通価値の創造

金融庁は2018年6月、「金融行政とSDGs」を公表した。この方針の中で、SDGsは企業・経済の持続的成長と安定的な資産形成等による国民の厚生の増大を目指すという金融行政の目標にも合致するものであり、金融庁としてもその推進に積極的に取り組むことを示している。

 

銀行・証券・保険など各業界の取り組みを概観するほか、更新を重ねる中で横断的な取り組みとして金融デジタライゼーション戦略を掲げ、ブロックチェーンや暗号資産(仮想通貨)についても言及している。

金融行政とSDGsの中で5ページにわたり説明されているのが間接金融における取り組みである。

 

多くの地域金融機関が低金利の厳しい経営環境のなかで持続可能なビジネスモデルの構築を必要としている。

そのため地域金融機関が顧客のニーズを捉え、共通価値の創造に取り組むことは、SDGsの「民間企業も社会的課題解決を担う主体と位置付ける」という考えと共通する、と明示された。

 

こうした金融庁の姿勢を受けて、地域金融機関の取り組みも活発化しており、SDGs関連の融資商品やグリーンボンド(環境改善の効果のある事業の資金調達のために発行される債権)の販売に乗り出す銀行も増えている。

 

地方銀行の中で先駆けてコミットした滋賀銀行

滋賀県は、三方よしの思想で知られる近江商人を輩出した地域であり、市民が主体となって琵琶湖の水質汚染問題の解決に取り組んできた歴史がある。

こうした点からも、SDGsの考え方に親和性の高い地域だと言えるだろう。この土地で1933年に設立され、地域金融を支えてきたのが、大津市に本店を構える滋賀銀行である。滋賀銀行は1999年に環境方針(2010年と2020年に改定)、2010年に生物多様性保全方針を制定するなど、従来からサステナビリティへの取り組みを積極的に打ち出してきたが、SDGsの実装も全国の地方銀行の中でも先駆けて行ってきた。

 

まず、2017年11月に「しがぎんSDGs宣言」を発表し、重点項目として、地域経済の創造、地球環境の持続性、多様な人材の育成の3つを設定した。

今でこそSDGsに対する対外的なコミットメントを打ち出す企業は珍しくないが、当時は日本国内における認知度もそこまで高くなかった中で、こうした宣言を示した姿勢は特筆すべきだろう。

 

滋賀銀行が取り組むESGファイナンス

同行が積極的に取り組むのがESGファイナンスである。

ESGファイナンスは、企業分析・評価を行う際に長期的な視点を重視し、ESG情報を考慮した投融資行動を取ることで、企業や社会に対してESGに配慮した行動を促すことを目指している。

融資手法として、借手による野心的なサステナビリティ・パフォーマンス目標の達成状況と金利の引下げ等の融資条件を連動させる「サステナビリティ・リンク・ローン」を取り入れているほか、企業や自治体が国内外の環境問題の改善に効果のある事業の資金調達のために発行するグリーンボンドも扱っている。

 

図 しがぎんのサステナビリティ・リンク・ローン

出所:同社ウェブサイトを元に編集部作成

 

加えて、同行は、社会課題解決を起点としたビジネス創出に対する融資の金利を最大0.3%優遇する融資商品「ニュービジネスサポート資金(SDGsプラン)」や、SDGs賛同企業の私募債発行額の0.2%を寄付などにあてる「SDGs私募債」などの取り扱いを行っている。

2021年2月末時点で、SDGs私募債は569件の実績を積み上げている(出所:ESGファイナンスの取り組み|滋賀銀行)。

 

このほか、社会課題を起点に新たな製品やサービスの創出を目指す「滋賀SDGs×イノベーションハブ(しがハブ)」に行員を出向させ、企業と社会課題とのマッチング支援も実施している。

こうした姿勢が評価され、2018年には第2回ジャパンSDGsアワードにおいてSDGsパートナーシップ賞を受賞した。

 

滋賀銀行の取り組みは、生き残りをかけた熾烈な競争が予想される地銀再編の時代に入る中で、地域の中小企業との共創価値を生み出し、競合と差別化を図るためのモデルケースとなり得るだろう。

地方銀行が地域企業のビジネスを通じた社会課題の解決を後押しし、中小企業の持続可能な経営の実現を促進することが、地方創生にもつながる。

ESG経営推進の旗手として、地方銀行に期待される役割は大きい。

(執筆:本田 龍輔)

 

 

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ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。


<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>

第6回 地方創生×事業再生

再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは

【日時】 2025年7月30日(水曜日)19:00–21:00
【ご視聴方法】
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当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。

【今回のトーク概要】
  • 0. オープニング(5分)
    自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
  • 1. 事業再生の現場から(20分)
    保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
  • 2. 地方創生と事業再生(10分)
    再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
  • 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
    経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
  • 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
    「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
  • 5. 経営企画の三原則(5分)
    数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
  • 6. まとめ(5分)
    経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”

【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。

【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

グロービス経営大学院

日本で最も選ばれているビジネススクール、グロービス経営大学院(MBA)。

ヒト・モノ・カネをはじめ、テクノベートや経営・マネジメントなど、グロービスの現役・実務家教員がグロービス知見録に執筆したコンテンツを中心にお届けします。

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