今回は、企業にとって未来の従業員である学生もSDGsやESGをモノサシとして優良企業を見定め始めていることを捉えたい。
Z世代はSDGsネイティブ
Z世代は、1990年代後半から2000年代に生まれた世代で、日本では多感な子ども時代に東日本大震災を経験していることから社会課題に対する関心が強いことが特徴の一つとして挙げられる。
また、学校教育の中でも開発教育/国際理解教育の文脈でSDGsが盛んに取り上げられるようになった世代でもある。
私立中学の入試問題では、早くから社会課題に関連する問題が出題される傾向にあり、中学受験指導を行う日能研は私立中学の入試問題とSDGsの関連性をまとめていた。
このようにZ世代はSDGsネイティブであるといえるだろう。
就職先を決める理由は「社会貢献度の高さ」
こうしたZ世代の若者はどのような観点で就職する企業を選んでいるのだろうか。
就職活動を行う大学生向けの雑誌『未来を変える会社 2020年度版』では、企業を選ぶキーワードとしてSDGsが特集され、優良企業を見定めるモノサシとしてESG、ダイバーシティ経営、健康経営が紹介された。
同じく2021年度版では業績や財務状況に限らない「非財務価値」にも焦点が当てられ、ESG対応の優れた企業を測定するFTSE Blossom Japan Indexや経済産業省が選定する新・ダイバーシティ経営企業100選、ホワイト500のランキングが取り上げられた。
こうした特集が組まれること自体、Z世代の価値基準を反映しているといえるだろう。
では、実際に就職した大学生は、本当にこうしたモノサシで企業を見定めているのだろうか。
就職支援サイトキャリタスを運営する株式会社ディスコが、2021年3月卒業予定の大学4年生約850名を対象に実施した調査では、社会貢献を重視する学生の傾向が明らかとなった。
就職先企業に決めた理由を30 項目の選択肢の中から選んでもらう質問では、「社会貢献度が高い」という項目が最もポイントを集めている。
複数選択であるため、社会貢献度の高さが第一優先であるとは言えないが、得票数から最も多くの学生が選択基準の一つとして、仕事を通じた社会貢献を重視しているといえる。(参考:就活生の企業選びと SDGs に関する調査|キャリタス就活)
同調査では、76%がSDGsについて知っていると回答、企業の社会貢献度が志望度に影響したという学生も65%を超えており、今後もこうした比率はより高まっていくことが予想される。
SDGsを経営に実装するコマニー
石川県小松市に本社を構えるコマニーは、業界トップクラスのシェアを誇るパーティションメーカーである。
同社は、2018年にSDGsを経営に実装した価値創造モデル「コマニーSDGs∞(メビウス)モデル」を発表し、すべての意思決定において「関わるすべての人の幸福に貢献する経営」に資するものか否かを判断基準の一つとしている。
出所:同社ウェブサイトhttps://www.comany.co.jp/recruit2/about/sdgs/
同社は、採用サイトにおいてもこの価値創造モデルを大きく取り上げ、サステナビリティ経営に対する方針を鮮明に打ち出している。
同社のこうした取り組みは、採用面でも成果につながっているようだ。
就職情報サイトのマイナビが行う就職企業人気ランキングでは、北陸地方において、常に上位にランクインしている(参考:2021年卒版 就職企業ランキング地域別ランキング|マイナビ)。
2019年のランキングでは2位を獲得しており、「関わる人全員を幸せにする」という企業理念に惹かれたという社員の声もある。
もちろん事業内容や企業自体が魅力的であることは言うまでもないが、コマニーの事例は、SDGsへの取り組みが人材獲得にもプラスの影響を与えている好例といえるだろう。
試されるのはSDGsへの本質的な取り組み
最近では、大学生が企業活動に対してSNSを通じてアクションを起こす、高校生が環境に配慮した製品を販売してほしいと働きかけるといったケースも、ニュースで取り上げられるようになってきた。
採用面接で人事担当者が「御社のSDGsに関する取り組みを教えてください」と問われることも増えてくるだろう。
忘れてはならないのが、彼らは学校教育から継続してSDGsを学び、社会課題に対する眼差しを持っていることだ。
採用目的のための広報的な取り組みやブランディング目的の「SDGsウォッシュ」的な施策であれば、彼らは簡単に見抜くだろう。
人事担当者こそ企業におけるSDGsの本質を理解し、自社の取り組みを説明することができなければ、SDGsネイティブであるZ世代の人材確保に苦戦する可能性もある。
自社の将来のビジネス基盤を強固にするためにも、SDGsを経営のコアに取り込んでいくことが必要だ。
(執筆:本田 龍輔)
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