2021年9月30日、全都道府県における緊急事態宣言及びまん延防止等重点措置が解除された際、出社する人が増える中で「強制出社」や「満員電車」といったワードがトレンドワードになりました。

 

コロナ禍前、出社は当たり前でした。それがどうして“強制”となり、トレンドワードにまでなったのでしょうか。

 

出社派VSテレワーク派

「強制出社」「満員電車」がトレンドワードになったのを見て、「みんな、感じることは同じだな」と思った方も多かったようです。

似たようなトピックで、昨今では「出社」か「テレワーク」かの議論がよく見受けられますが、皆さんはどちらが望ましいと感じているでしょうか?少し考えてみてください。

 

テレワークが望ましいと思う方は、テレワークのメリットと、出社形式のデメリットがパッと頭に浮かび、それらを述べたニュース記事や他の人の意見が思い出しやすかったのではないでしょうか?

反対に、出社形式が望ましいと思う方は、出社のメリットと、テレワークのデメリットがパッと頭に浮かべたのではないでしょうか?

 

自説に有利な情報ばかりに目がいく「確証バイアス」

実は、ここには「確証バイアス」が影響しています。

確証バイアスとは、自分の思い込みや願望を強化する情報ばかりに目が行き、そうではない情報は軽視してしまう傾向のことです。

(参考)グロービスMBA用語集:「確証バイアス」

 

つまり、

・テレワーク形式がよいと考える人は、テレワークのメリットと、出社のデメリットが目につきやすく、記憶に残りやすくなり、

・出社形式がよいと考える人は、出社のメリットと、テレワークのデメリットが目につきやすく、記憶に残りやすくなるというわけです。

ところが実際は、出社形式にもテレワーク形式にもメリットもデメリットもあり、業界、事業内容、企業事情に加え、ビジネスパーソン自身の事情等によってどのような形態が適しているのかは異なるわけです。

そこは当然わかっている方は多いかと思います。

 

ただ、無意識の内に、自分の考えを強化する情報は目に留まり記憶に蓄積されていくなかで、「多くの人が自分と同じように考えている」と感じるようになってしまっていることがあります。

客観的な判断を歪めていないかは意識したいところです。

 

勤務形態の議論以外にも、ビジネスシーンの様々な場面で推進派と慎重派が対立し、意見交換してもなかなか溝が埋まらないということはよく起こります。

そんな時は、お互いに自分の願望を強化する情報ばかりに目が行きがちになっています。

それではいつまで経っても平行線ですので、あえて自説のデメリットや相手の説のメリットを考えてみるようにするとバイアスの影響を抑えやすくなります。

 

日常を変えたくない「現状維持バイアス」

加えて、そもそも自分が何を望ましいと感じるか自体にも実は「現状維持バイアス」というバイアスが影響している可能性があります。

 

冒頭に出てきた「強制出社」や「満員電車」というワードですが、考えてみるとコロナ禍以前は、多くのビジネスパーソンにとってオフィスに出社することは特別なことではなく日常でした。

 

それが「強制」といったネガティブな印象を伴うワードとなりトレンドワードにまでになったのは、テレワーク中にその良さを実感したり、出社と比べて思ったよりも不便がないことに気が付いたということではないでしょうか。

同時に何を「日常」とするか意識が変わり、その「日常」を再び変えることに対する抵抗感も考えられます。

ここに「現状維持バイアス」の影響が見受けられます。

 

現状維持バイアスとは、変化よりも現状を維持することを望む傾向のことです。

参考)グロービス学び放題「現状維持バイアス」

 

元々出社するのが日常であった頃は、コロナ対応としてテレワークを取り入れることは「非日常」でした。

しかし、2020年初めから5月頃までは政府の推奨もありテレワークが右肩上がりに増加していきました。

(出典)「第3回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(内閣府)

 

テレワーク導入が進んだ2020年春からすでに1年半ほど経過し、テレワークを継続してきた人にとっては、いつの間にかテレワークが日常に定着していったのでしょう。

 

何を「現状」と認識するかについて認識が変化したことで、現状維持としてどのような形式を望むかも変化し、その表れとして「強制出社」や「満員電車」がトレンドワードになったと見ることができそうです。

 

以上、今回は「確証バイアス」と「現状維持バイアス」を取り上げましたが、私達の思考の中にいつの間にか影響を及ぼすバイアスは、「正常性バイアス」「アンカリング」など他にもたくさんあります。

いつの間にか客観的な視点を失っていないか、こんな意識をもっておくことができるといいですね。

 

(執筆:渡邉 由美)

 

 

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(執筆:芹沢 宗一郎)

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