株式交換という言葉を聞いたことがあるでしょうか。普段はあまり耳にしない言葉であり、自社株と別の会社の株を交換するようなイメージを持つでしょう。しかし、実際のところはもう少し範囲の広い話となり、株式以外も交換の対象となり得ます。

また、上手に株式交換を利用すれば、M&Aや事業承継で何らかの障壁があってスムーズにいかない場合に潤滑油になることもあります。そこで今回は、事業承継や株式交換に詳しいコンパッソ税理士法人の依知川さんにお話を伺いました。

 

1.株式交換とはなにか?

まず、株式交換の法的な定義を確認しておきましょう。

株式交換とは、定義上、親会社とその子会社となるべき2つの会社間で行われる合法的な取引です。具体的には、子会社となるべき会社の株主に対し、彼らが所有しているその会社の株式と親会社となるべき会社の株式等を、ある一定の割合において交換を提案することです。

この取引によって、親会社は子会社となるべき会社の全株式を取得して、子会社となるべき会社を100%子会社化できます。また、子会社の株主は、所有している子会社の株式の代わりに親会社の株式等を得ることになります。

この株式交換は、子会社たるべき会社の株主が2/3の議決をもって承認することで発効させることができます。

 

2.株式交換における売手企業のメリット

株式交換の定義は前述のとおりですが、一般人だけでなく経営者においても、自分が持っている株式と別の株式を交換することだと思われがちです。もちろん、文字どおり株式と株式の交換が基本ではありますが、実は株式以外との交換も可能なのです。

定義に含まれる「株式等」の「等」がポイントで、株式交換の対価となるものは、実は親会社の株式に限定されないのです。有価のものであれば株式交換の対象になり得ます。

具体的には親会社が保有する既存株式のほかに、新規に発行される親会社株式や社債、あるいは現金や新株発行権、または親会社のさらに親会社にあたる会社の株式、不動産や自動車などの動産も含めて、あらゆる有価のものが対象になることが隠れた特徴といえるでしょう。

要するに、株式交換は株式と株式だけではなく、現金や自動車、はたまた不動産とでも可能なのです。M&Aで株式交換を利用すると、買手企業にも売手企業にも様々なメリットがあります。特に、売手企業としては、中小企業にありがちな少数株主の反対に対して株式交換は有効な手立てです。

たとえば、ある会社が別の会社にM&Aとして株式を譲渡しようとしているときに、少数株主が何人かいて譲渡を拒んでいる場合、なかなかM&Aに移行できません。

そのような場合には、売手企業が株主総会を開き、特別決議を経ることによって株式交換が実行できます。少数株主がいくら反対していても、株式の買い取り請求によって強制的に買取ることが可能です。このような方法で株式交換がトラブル解決に有効なのです。

 

3.株式交換における買手企業のメリット&デメリット

買手企業のメリットとしては、買収の対価が自社の株式である場合、自社の新株を発行すれば足りるので買収資金を使わずに株式交換を行えるということです。

また、買収後も子会社は別法人として存続することになるので、経営統合を早急に行う必要もありません。

他方でデメリットとしては、買手企業が上場企業である場合、1株当たりの利益が減少して株価が下落するリスクが考えられます。また、売手企業の株主が株式の交換によって買手企業の株主となるので、買手企業の株主構成が変化してしまいます。

 

4.株式交換のスケジュールや流れ

株式交換の手続きを行うにあたってのスケジュールや流れについて解説します。

株式交換のスケジュールにどれくらいの時間がかかるかはケースバイケースですが、相手方の株主と合意が得られればすぐに完了します。

よって、M&Aに関して株主同士の意見が一致しない場合に、株式交換は効果があります。少数株主を1人また1人と説得して歩くよりも、ずっとシンプルで早く解決します。中小企業がこの株式交換という手法を知れば、M&Aに選択肢が増えてよいでしょう。

流れとしては、通常のM&Aと同じです。まずは秘密保持契約(NDA)を締結します。大きな会社だと、その時点で1回目のデューデリジェンスを行いますが、中小企業ならば通常その時点では行いません。

円滑に進捗しそうであれば、基本合意書(MOU)の前段階である意向表明書(LOI)を締結します。その後、株式交換の話になります。

 

5.事業承継でも反対株主対策として使える株式交換

株式交換はM&Aに限らず、事業承継の1つの手法として利用できます。

最近あった事例ですが、創業100年になる会社のオーナーが高齢になり、事業承継をしたいと考えました。歴史が古いだけあってその会社には株主が50人ぐらいおり、古い株主はすでに孫の世代ぐらいになっています。
株主の所在地さえ分からなかったり、通知を出しても返事が来なかったりするのです。どうにもならないと困っていたので、親会社を別に設立してその会社との株式交換を行うことにしました。

株主総会で決まったと株主に通知を出し、レスポンスのあった株主には現金買い取りの話をして解決しました。株主間で感情的なものがM&Aや事業承継のネックになっている場合と同様に、株式交換でワンクッションをおけば非常にスムーズにいきます。

会社の株が散らばっている場合、株式交換を利用すればスムーズに解決することができるので、中小企業の人には株式交換についてぜひ知ってもらいたいと思います。手続きが厄介なイメージはあるでしょうが、上場企業でない限りはそれほど厄介なことはありません。

 

6.株式交換を行う場合の注意点

(1)関係者への報告

株式交換を行うという事実を関係者や関係法人に報告する必要性があるかどうかに注意しなければなりません。

売企業は、M&Aによって一旦は買手企業の子会社になるので、その段階で法律上は特に問題はありません。しかし、法律ではなく道義的な問題が存在します。

たとえば、売手企業が銀行に融資を受けている場合、融資の条件が変化するわけですから、子会社化していることを銀行に知らせないでいるのは問題があります。まして、融資条項の中に「株主が変わったら融資を再考する」ということがあれば、知らせないと法的な問題にもなりかねません。

また、取引関係の状況も考えなくてはなりません。買手企業と売手企業が同じ業種であった場合、現在では少なくなったものの、公正取引委員会が独占禁止法をもって警告してくる可能性がないとはいえません。

さらに細かい問題としては、それぞれの取引先で片方の企業との取引を敬遠している場合もあり、合併や買収によって取引先が離れる可能性もあります。株式交換を行う場合、関係先の調整も必要でしょう。

 

(2)新株予約権について

反対する株主がいて、その株主が新株予約権を持っていると、せっかく株式交換の手法で株を買い取っても、新株予約権を無効にしない限りまた株を持っていることになります。

そのような懸念がある場合、会社は新株予約権をいつでも無効にできます。新株予約権は、その所有者がお金を払って設定しているわけではなく、会社の好意で権利を与えているだけなのです。

よって、株主総会で「新株発行権の何番以降は抹消する」などと決めてしまえば、それで効力はなくなります。

 

(3)ストックオプションについて

ストックオプションについても新株予約権と同様に無効にすることができますが、所有者が会社の従業員である場合は配慮が必要です。よくあるのは、勤続何十年の表彰などで報奨金の代わりにストックオプションを付与しているケースです。
その従業員が会社をやめるときにでも行使しようと考えていたストックオプションが、株主が変わって子会社になり、無効になってしまうのは気の毒です。それに代わるものを用意してあげなければなりません。

この場合は、その権利を買い取ってあげるか、親会社のストックオプションを付与するなどで対応する必要があるでしょう。

 

(4)株式交換比率について

株式交換で現金と交換する場合の比率は、当然のことですが、どの株主の分も公平にしなければなりません。例えば、社長一族だけが親戚よりも高く交換されるなどということがあるとトラブルになります。

 

7.反対株主対策としての株式交換成功のポイント

中小企業において少数株主対策として株式交換を使う場合、強制的にもできることですが、できれば誰しも円満に成功させたいものです。そのためには、売主である少数株主がなにを求めているかをよく考えて行うことが大事です。

彼らがなにを対価として心が動くかは、千差万別です。それによっては純粋に株式と株式の交換で問題ない場合もあります。

仮に買手企業が比較的大きな会社で、株主に安定した配当が入るようなところであれば説得できることもあるでしょう。

また、先方が上場企業であれば、将来株価が上がるかもしれません。そういう条件であれば、反対している少数株主も喜んで承諾する可能性が充分あります。

その他にも考えられるのは、種類株式を発行してあげるという方法です。要するに、反対する株主に発言権を与えたくないだけであれば、配当優先株という形で種類株式を交付してあげればよいのです。

総株主総会には出られないものの、配当が出るので年金の足しにはなるでしょうと説得することもできます。

いずれにしても、話がややこしくなって早く終わらせたい場合、株主総会で2/3の決議にて株式交換を実行できます。「うちの会社は株式交換を実行します」、「対価は現金です」と決めてしまえば、あとは実行するだけなので最後のカードとして使えるのです。

もとより、M&Aというもの自体が決して簡単に行くようなものではありません。しかし、株式分割で選択肢が増えることによって、M&Aができるだけ円滑に進む可能性が高まるのです。株式交換のような方法も知っておく方がよいでしょう。

 

8.まとめ

事業承継やM&Aを前向きに考える中小企業オーナーにとって、少数の反対株主に拒まれるのは、ほぞをかむ思いでしょう。しかし、この株式交換という手続きを上手に使えば、トラブルを避けてことを運べる可能性が高まります。

 

 

〈話者紹介〉

コンパッソ税理士法人 コンサルティングチーム 執行役員
株式会社BizMatch(コンパッソグループ) 代表取締役
法学修士 依知川 功一

大手税理士予備校にて講師を務め、とある公認会計士事務所で税務・監査業務の補助に携わる。内川会計士事務所(コンパッソ税理士法人の前身)にて、医療関係を中心に税務・コンサルティングに携わり、現在のコンパッソ税理士法人ではメディカル事業部部長として、主として医療関係のクライアントの税務・コンサルティングに携わる。
平成30年3月31日株式会社BizMatch代表取締役就任、M&Aを中心とした外部事業承継コンサルティングを行う。同時にコンパッソ税理士法人コンサルティングチームの執行役員を兼任する。

 

※本記事は、「株式会社リクルート 事業承継総合センター」からの転載です。

 

 

【お知らせ】
Books&Apps及び20社以上のオウンドメディア運用支援で得られた知見をもとに、実際我々ティネクト(Books&Apps運営企業)が実行している全48タスクを公開します。

「成果を出す」オウンドメディア運営  5つのスキルと全48タスク
プレゼント。


これからオウンドメディアをはじめる企業さま、現在運用中の企業さま全てにお役に立つ資料です。ぜひご活用ください。

資料ダウンロードページはこちら↓
https://tinect.jp/ebook/5skills48tasks/
メールアドレス宛てに資料が自動送信されます。

ティネクトの事業・サービス詳細はこちら

 

 

■著書プロフィール

株式会社リクルート 事業承継総合センター

㈱リクルートが運営する「M&A仲介会社・買手企業の比較サービス」です。

弊社品質基準を見たす仲介会社50社、買手企業17,000社以上の中から、売手企業様に最適なパートナーを、着手金無、業界最低水準の成果報酬でご紹介します。

事業承継及びM&Aに関するコンテンツを中心にお届けします。

 

Maxim Hopman